<自民党派閥の政治資金パーティー巡る事件>日本再興には「安倍的政治」の総括が欠かせない 裏金疑惑、旧統一教会、アベノミクスに通底する保守政治の「澱」  

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 年末にマイナス17度のソウル市にある国立博物館を訪ねた。上の階から見ようと3階の一室に飛び込んだら「君子務本。本立而道生」(君子は本を務む。本立ちて道生ず)と黒々と書かれた屏風が目に飛び込んだ。人は根本である思想とか信念など人生の軸をもたないといけないと言っている。実は間もなく、一万円札の表紙になる近代経済の父といわれる渋沢栄一も、論語のこの一節を生涯大事にした。     

保守政治に漂う「安倍的空気」 

 残念なことは満身創痍の岸田文雄政権に、この根本が感じられないことである。物価高にあえぐ国民生活に無策に近い。裏金疑惑、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は、保守政治の長年の澱(おり)といえる。

 アベノミクスにかかわる経済データも地盤沈下も目立つ。安倍晋三元首相の暗殺から一年半になるが、日本を再興するには、政治を覆う「安倍的なもの」を一度、総括してみることが欠かせないのではないか。

 裏金疑惑では、政治資金規正法や派閥の弊害に論点が向かっているが、問題の核心は、経済界を動員する議員パーティーにある。安倍派でキックバックされた裏金は、5年間に5億円に上る。資金集めのパーティーをのぞくと、企業の大御所が乾杯の音頭をとっている。安倍一強といわれた政治状況の中で、こうした光景があちこちで見られたのはなぜか。ある経済官庁の幹部は「アベノミクスの規制緩和が期待されているからではないですか」といった。

政治家の役割は補助金

 裏金疑惑は森喜朗元同派会長(元首相)の時代に辿るといわれる。そして、8年9カ月にわたって経済、内政、外交分野で、独特の影響力を駆使した安倍一強のもとで、資金集めと分配構造が急成長する。政治家の役割は企業に対する補助金、給付金、助成金や租税特別措置などへの関心だったとされる。          

 裏金疑惑は旧統一教会と保守政治の深部でもつながりがある。岸信介元首相と教団創立者の文鮮明氏との関係は、1960年の日米安保条約改定のころに誕生する。保守の中枢と、反日を掲げる宗教団体のトップが、米ソ冷戦を背景に「反共」で一致し、安倍元首相の祖父の岸氏、父の安倍晋太郎氏、晋三氏と三代にわたって引き継がれる。      

 宗教団体は日本人の信者から多額の献金を受け、そこから保守勢力が協力を受けた。保守政治の中枢と反共、反日を掲げる宗教集団が、日本人から搾取するという仕組みは分かりにくいが、まだ何か背景があるのかもしれない。                    

 安倍政権とこれを引き継いだ岸田政権をアトランダムに見ていこう。日本の再興の手立てが発見できるかもしれない。自民党内や経済界にはアベノミクスや安倍的外交を評価する向きがあるが、大事なのは国民の目線である。

 岸田首相の防衛予算のGDP比2%への増額、敵基地攻撃能力、防衛三文書改訂などは、いきなり出されて肝心な説明がないから、慌て者でなくともアメリカと一体となっていく政策かと思えてしまう。          

国際信用を落とした決裁文書の改ざん

 2017年に森友学園への国有地売却問題に端を発した「森友問題」、同年の獣医学部新設を巡る「加計学園問題」、後援会が夕食会の費用を収支報告書に記載しなかった「桜を見る会」の三つの「モリ・カケ・サクラ」問題は、権力の私物化とおごりだと指摘された。                   

 「森友問題」の財務省の決裁文書の改ざん問題は、財務省の中枢から改ざんを強要され悩んだ職員が自死している。公文書の改ざんは、行政に対する信頼も著しく失墜させ、日本の国際的な信用を貶めた。衆院調査局の調べによると、サクラ問題に対する首相の答弁に「虚偽答弁」が、118回も記録されている。

GDP18%から4%へ

 アベノミクスの売り物だった円安とゼロ金利政策は一部で評価されるが、最近の日本経済の沈滞ぶりは、アベノミクスとは何だったのかと疑念が沸く。日本の栄光を語る場合に、よく引き合いに出されるのが1994年で、政治改革4法案が成立し、小選挙区制もできて自民党が再生のスタートを切った。

 この年の国内総生産(GDP)は世界の18%を占める。企業の時価総額トップ50のうち日本企業は32社もあり、絶好調とみえたが、アベノミクスを経たいまはトヨタ1社である。GDPも4%に下がり、日本の2023年の名目国内総生産(GDP)はドイツに抜かれ、世界4位に転落する公算が大きくなった。2016年にはインドに抜かれそうだ。    

  世界第2位の経済大国は中国で、日中が逆転したのは2009年だが、現在は中国に4倍以上開かれた。最低賃金は韓国に越される。名目賃金は上がっても、物価や社会的な負担などがさらに増えているので、サラリーマンの実質賃金は、ここ10年以上連続マイナスである。一方、企業の内部留保は史上最高の522兆円だ。法人税が下げられ非正規社員を増やして人件費を抑えているからだとされる。 

 日銀のゼロ金利や円安政策は評価が分かれるが、年金の不足を貯金の利子で少しでも補おうとしていた多くのサラリーマンにとって、いつまでも続くゼロ金利政策は、正常な姿とは映らないだろう。

「政治慣行」にもコンプライアンス 

 ここに一つ衝撃的な数字がある。2023年の国税の柱の3税収を見ると、法人税は14兆9300億円、所得税は22兆5200億円、消費税は23兆4800億円だ。かつて法人税は21兆円あったが、税率を引き下げたため14兆9300億円に激減した。消費税は当初3・3兆円でスタートしたから急増の筆頭である。意地悪く見ると法人税を減らすために消費税を導入したともいえる。一方、その法人の内部留保は552兆円で、史上最高とされ、法人税を減らした恩恵を受けている感じだ。

                 

 長期政権のあとの政権は、政治が不安定化しがちになるといわれる。日本の再興に取り組むにしても、政治改革を掲げるにしても、大事なことは、まず政治の信頼を取り戻すことであろう。

 「岸田首相は、安倍政治を踏襲する」と、国会答弁などでも言っている。前任者を踏襲するだけで新時代変化や民意の動向に対応しなければ、「日本的政治慣行」からは脱皮できないのではないか。経済界はグローバリズムで外国人の登用や企業会計の透明化が進んだといわれる。裏金疑惑や旧統一教会問題など「日本的政治慣行」にも、いまやコンプライアンスという軸を一本通すことが欠かせない。

                                         (了)