<衆院3補選で自民党全敗>待ったなしの政治のガバナンス改革  物価高、貧富の格差 消費税10% 広がる不公平感 大きすぎる国民の実感との乖離 

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 注目の衆院3補選は自民党の惨敗となった。少し前になるが共同通信の世論調査は内閣支持率が20%台前半でわずかだが上がり、裏金問題では「まだ実態が十分解明されていない」が、自民党支持層でも88%、首相自身の処分がないことについても78%が納得できない―である。政治とカネの徹底解明はもとよりだが、自民批判の背景には強烈な物価高、貧富の格差、10%の消費税、中産階級の没落など、不公平感が広がっていることだ。厳格に法を順守し日々税を納めている国民の実感との乖離が大きすぎる。政治資金規正の徹底に加えて、政治のガバナンスの改革も急務である。

怒りの背景に甘い政治資金制度    

 政治のリーダーは信用を失うと、その政党の言動すべてが不信の目で見られがちになる。3補選で国民から示された不信や怒りは二つある。一つは裏金事件の対応や政治改革への消極姿勢。二つ目は、政治家の恩典に対する不公平感である。甘い政治資金制度に抱く国民の不公平感は早急に払しょくしなければならない。

 岸田文雄首相は裏金事件の解明の議論が本格化する直前に、「派閥解消」を打ち出した。この突然の派閥解消論は国民には、疑惑解明の矛先をそらし、事件解明の本気度がないと見抜かれてしまった。不公平感でいえば、政治家の責任の在り方にも言える。自民党各派の会計責任者は、岸田首相が会長だった宏池会の会計責任者でも訴追されたが、派閥の会長は直前まで岸田氏その人だった。非議員の会計責任者が責任を取り、政治家である事務総長はおとがめなしというのは不自然だ。当時の朝日、読売両新聞は、会計責任者が事務総長に報告しているとはっきり報じている。

    
 おカネに関することは大事なので、会計責任者が事務総長に報告しないということはまず考えられない。事務総長が報告をチェックしていなかったとすれば、職務怠慢である。政治家と会計責任者は一心同体といわれながら、会計責任者だけの処分については、自民党内からも「事務総長の人柱のためにいるようなものだ」と怒りの声が聞かれる。

貧富の格差が社会不安生む

 90年代にリクルート事件当時とは経済状況も異なる。現在は驚異的な物価高、中産階級の没落、ゼロ金利政策、消費税10%などに対して、国民は厳格に法を守っている。例えば、2023年度予算で国の3税(所得、法人、消費税)を見るとよくわかる。法人税は引き下げ前は21兆円の税収があったが、23年度の税収は14兆6020億円。消費税(1989年導入)は3・3兆円でスタートしたが、2023年度は223兆3840億円と急成長している。法人税を引き下げた分は、国民が大きく穴埋めしている計算になる。しかも大企業の内部留保は550兆円といわれる。これに比べると消費税10%は高負担というべきだろう。 

 裏金事件では、パーティー券は販売ノルマがあり、これを超えて販売すると、キックバックされる。このノルマを超えた部分は、派閥の収支報告書には記載せず、議員へのキックバックも支出に書かれず、議員への収支報告書にも収入として記載されていない。つまり「出」も「入」も記録されずに裏金化していたのである。自民党内では国税庁が問題にするのではないかとの指摘もあったが、それはなかったようだ。          
 

 同党のある長老議員は「『政治資金は民主主義を支える浄財』という考えから、税務当局は、非課税としてきた」と言った。日本の国会議員は、世界一優遇されているといわれるが、議員会館や議員宿舎が整えられ、陸海空の使用などにも配慮があるとされる。          

 岸田首相が所属した宏池会の先輩の大平正芳元首相はよく「人はだれでも『隣の家の芝は青い』と思いがちだ。だから政治は常に公平とか平等を心掛ける必要がある」と言っていた。危機管理に詳しかった後藤田正晴元副総理は「日本のような島国は、貧富の差が大きくなり固定化すると社会不安が起きる。政治は貧富の格差に注意が必要だ」と言っている。

「連座制」導入は不可欠

 いくら強調してもし足りないと思われるが、少子高齢化社会、異常な物価高、中間層の貧困化、ゼロ金利、実質賃金はこの10年上がらず、日本の財政政策は行き詰まるという議論もある。今年の春闘での賃上げも前評判ほどではないらしい。最近のSNSに「財政赤字を作った政治家や財務省がだれも責任を取らず行政改革もしないで、国民に増税や負担を押し付けるのはおかしい」というのがあった。

          
 90年代の政治改革では、自民党内の若手、中堅議員に再発防止や政治改革に向けた議論が活発だった。当時は、参院では与野党が逆転し衆院でも変化の兆しがあり、自民党内には一種の緊張感があった。

          
 政治改革に向けた与野党の議論は、自民党は派閥のパーティー禁止、外部監査義務付け、政治資金の公開性の向上、抜本的な罰則強化を提案。一方、立憲、日本維新の会、公明党、国民民主党は「連座制」の導入を主張しているが、会計責任者だけでなく、政治家本人も責任を負うようにする法改正は不可欠だろう。共産党は政党交付金の廃止を提案し、政党交付金を拒否している。そのお金は国庫に返還されずに、各党で分けられているとされるが、膨大な財政赤字がある中でこの処理も不公正だ。

ガバナンス改革、統治能力の強化への議論に

         
 政治改革の視野を広げて、例えば女性議員の多い国は社会福祉や教育、医療が重視され、しかも財政赤字が少ないといわれる。また、身障者代表の議席や若者の枠の制定、サラリーマンや女性が選挙に出られるように、国会審議の時間を多様化する議論も必要だ。小選挙区制に問題があるとすれば、出馬は自由だが親の選挙区からは禁止とか、同一選挙区からの出馬は3期までにするとか、工夫も欠かせない。衆院3補選の結果が、裏金事件の徹底解明だけではなく、野党も含めて政治全体のガバナンスの改革、統治能力の強化に結び付く議論になることを期待したい。

                               (了)