「森友学園問題」遺族感情逆なでする首相答弁 国会に第三者委員会を

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  3月23日の参院予算委員会の「森友学園問題」の国会中継をNHKで見た。安倍晋三首相は、文書改ざんを苦に自殺した財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さん=当時(54)=の手記公表を受けて、「再調査」を求める野党の追及にどうしても応じようとしなかった。遺族の気持ちをないがしろにする首相のかたくなな姿勢に憤りすら感じた。  

 そもそも身内の内部調査にすぎない「財務省の調査報告書」や検察の関係者の不起訴処分をたてに、逃げ切りを図ろうとする政権に「再調査」を求めて も、それは悲しいことだが、せんかたないことなのかもしれない。  

 関係者の証人喚問も必要だろう。佐川宣寿氏(元理財局長・元国税庁長官) は、検察の捜査が終わっており、証言を拒絶する理由がない。ぜひ正直に国会で答えてもらいたい。国権の最高機関である国会には、この問題で政権から独立した中立的な「第三者委員会」を立ち上げてほしい。この文書改ざんにより 愚弄されたのは与野党含めた国会であり、国会には政権を監視する責任があることを忘れるべきではない。

「2人は調査される側で、再調査しないと発言する立場にない」

 赤木さんの妻は、この日2度にわたりコメントを公表した。

 午前中には「(安倍首相と麻生太郎財務相の)2人は調査される側で、再調査しないと発言する立場ではないと思います」。そして午後には「今日、(2人の)答弁を報道で聞きました。すごく残念で、悲しく、また、怒りに震えています」・・・。財務省の中の人が再調査をしても同じ結論になるので、是非、第三者委員会を立ち上げてほしいと思います」と首相らの遺族の気持ちを 逆なでする答弁への怒りとともに、「第三者委員会」の立ち上げを訴えてい る。

 私もNHKのインサイダー取引問題で第三者委員の経験があるが、政権と全く無関係の法律家を中心とした有識者が(審議会委員など政府委員などは不可)委員に選ばれれば、それなりの真相解明への期待ができると考える。

  そこで、首相が国会で何度も、「再調査」を拒否する理由としている財務 省の「調査報告書」を改めて読んでみた。

首相発言と改ざんは無関係でない

 報告書は2018年6月4日に財務省が発表した。全文は51ページ。調査報告書としては、それほど長いものではない。財務省のホームページでみることができる。報告書は、17年2月17日、「安倍首相が国会で、私や妻や事務所を含め て、この国有地払い下げに一切かかわっていないことは明確にしたい旨の答弁 があった」と記述している。確かに「この首相発言が文書改ざんが始まる原因だった」とはっきり指摘している訳ではない。ただこの答弁のあとの同年2月下旬から4月にかけて5件の改ざんが行われ、その他9件、計14件の改ざん を確認している。首相発言とその後の改ざんが全く無関係だったとはとても言えない。

 さらに、報告書は「政治家関係者との応接録の廃棄等の経緯」の中で、「2月17日の首相答弁以降、理財局総務課長から国有財産審理室長及び近畿財務局管理部長に対して、総理夫人の名前の入った書類の存否について確認がなされた。これに対して、総理夫人本人からの照会はないことや、総理夫人付から 理財局に照会があった際の記録は作成し、共有しているが、内容は特段問題になるものではない」とやや分かりにくい文章だが、昭恵夫人や夫人付について 言及する箇所もある。

 しかし、いずれも問題の経緯をたどる部分で出てくるだけで、夫人や夫人付 の問題への関わりをきちんと調べた形跡は見当たらない。その上で報告書は改 ざんの目的について「さらなる(国会)質問になりうる材料を極力少なくする こと」と認定し、「佐川氏が方向性を決定付けた」という結論となっている。

あくまで身内の省内調査

 もともとこの調査自体、大臣官房の人事担当部局(秘書課及び同課首席監察官室)が、もっぱら、佐川氏ら改ざんに関与した理財局幹部や近畿財務局幹部 の処分を目的にしたもので、職員からのヒアリングやサーバー、職員のパソコ ンに残されたファイルなども調べているが、あくまでも身内の省内調査にすぎ ない。  

 また首相は、この日、野党の「第三者機関を入れて調査委員会を立ち上げてはどうか」との質問に「最強の第三者機関といわれる検察がしっかりと捜査し た結果がもうすでに出ている」とその必要性を否定した。そもそも、検察は 「第三機関」なのか。東京高検検事長定年延長問題でその中立性を壊そうと しているのは誰か。  

 大阪地検特捜部はこの事件を一度不起訴にし、検察審査会が「不起訴不当」 と議決したため、19年8月、再捜査の結果、佐川氏ら10人を再び不起訴と した。財務省の決裁文書から首相夫人や政治家の名前などが削除されており、 検察審査会が「不起訴不当」の理由に「常識を逸脱した行為」と指摘していたが、ある検察幹部は「文書改ざんの本質は、国有地の取引内容や経過であり、 政治家の関与を示すためではない」 (19年8月10日、朝日新聞デジタル 「森友問題、全員不起訴なぜ」)と説明したという。

 あくまでもこの問題の核心は、文書改ざんについて、佐川氏へ誰か上からの 指示があったのか、官邸の関与はどうだったのかにある。財務省は報告書発表 の際に、これまで「文書の「書き換え」と表現していたことを「改ざん」に変 更した。これは、それなりの変化である。赤木さんの妻の叫びを国会はどのよ うに受け止めるのか。正直、〃安倍チルドレン議員〃が多数を占める「一強支 配」の政権でなかなか実現は難しいとは思う。独立性が高く、全く中立的な第三者委員会による調査が実現するかどうかは、今後の日本の「議会制民主主 義」の行方がかかっているといってよい。