「コロナ危機と内閣支持率」不支持が増加 一律10万円で内閣支持・不支持拮抗 4月の世論調査

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 コロナ危機が拡大する中で実施された4月の世論調査で、内閣支持率は、NHKを除く主なメディア5社で不支持率が上がったが、一律10万円給付への方針転換後には、支持・不支持が拮抗した。個別の政策では、布マスク配布は70%前後が「評価せず」と不評だった。一方、10万円給付は過半数が支持した結果となり、内閣支持率は下げ止まった。新型コロナウイルス感染症対策は、命と生活に直結する課題であり、国民がストレートに反応したことを示している。政府のコロナ政策全体に対しては「評価しない」が過半数で、内閣支持率の動向に敏感な現政権は、今後も一つ一つの政策で国民の厳しい目にさらされることになる。

 28日の朝日新聞朝刊は、政治意識世論調査の結果を掲載した。それによると、安倍首相の次の首相は、現政権の路線を「引き継がないほうがよい」57%、「引き継ぐほうがよい」34%で、安倍氏には厳しい数字になっている。(郵送による調査、3月上旬から4月中旬に実施)


 政権の浮沈にもかかわる政治指標・内閣支持率は、メディアの月例調査で電話によって実施している。調査のテーマは毎月変わるが、内閣支持率は毎回、質問事項に入っているため推移を分析できる。4月の主なメディアのデータを〈表1〉に示した。

内閣不支持:読売47%、朝日40%

 〈表1〉内閣支持率    %(前月比)

朝日毎日読売産経NHK共同
公表21日20日13日13日13日13日
支持41 (0)41 (-2)42(-6)39(-2.3)39(-4)40.4(-5.1)
不支持41(+3)42(+4)47(+7)44.3(+3.2)38(-3)
43.0(+4.2)

 内閣支持率は、メディアの政権への距離で異なる傾向、つまり親政権派では高めに出て反政権のメディアは低めに、という現象がこれまではあった。世論調査では「合わせのメカニズム」という用語があり、これは調査主体が期待しそうな答えを回答者がする“忖度回答”だ。ところが、〈表1〉を見ると、不支持が最も高いのは読売で前月より7ポイント増え47%で、支持は6ポイント減の42%。不支持が上回ったのは同社の調査では2018年5月以来となった。逆に反政権の朝日は支持・不支持が40%と同数で、奇異な感じを与える。
 新聞の世論調査は、改憲や安保といった争点について賛否が分かれる新聞社の論調が事実の報道に、さらには世論調査結果とその報じ方に反映して問題となったこともあるが、今回はそうした社論との関係はないように読み取れる。(NHKは支持・不支持ともマイナス、という他社と異なる傾向になっている。)

一律10万円で「首の皮一枚つながったか」

 調査時期が結果に反映した。朝日、毎日は、調査実施日が、政府がコロナ対策の方針を急遽転換し、国民一律10万円給付、緊急事態宣言の対象地域を全国に拡大する-との方針を決定した(16日)の直後だった。
 毎日が調査結果を伝えた20日朝刊の記事の見出しは「内閣支持横ばい」。この記事を見た閣僚経験者が「首の皮一枚はつながったか」「10万円給付がなかったら内閣支持率はもっと悲惨だった」と述べたと、同紙21日朝刊は伝えている。

アベノマスク、数字が不評を裏付け

 4月の世論調査のテーマはコロナ危機で、政府のコロナ対策全体と個別政策についての評価を次に示した。

  〈表2〉政府のコロナ対策の評価    数字は%

           【政府政策全体】

朝日毎日読売産経NHK共同
評価する3339—-28.746—-
しない5353—-64.050—-

           【宣言の時期】

朝日毎日読売産経NHK共同
適切18—-1512.41716.4
遅すぎた77—-8182.97580.4

           【マスク配布】

朝日毎日読売産経NHK共同
評価する32262521.12321.6
しない63687374.87176.2

           【一律10万円】

朝日毎日読売産経NHK共同
評価する7750—-—-—-—-
しない2319—-—-—-—-

           【宣言の拡大】

朝日毎日読売産経NHK共同
評価する8883—-—-—-—-
しない95—-—-—-—-

  (注)宣言=緊急事態宣言 拡大=宣言対象地域の全国への拡大  評価しない」は「妥当でない」などを含む。

 個別政策についても方針転換の前後で、評価が大きく違った。布マスクの各家庭2枚配布は安倍首相が大々的に宣伝した(1日)が、「評価しない」は共同76・2%、産経74・8%と高い。最も低いのは朝日だが、それでも63%だった。発表直後から「アベノマスク」「エイプリルフールか」と不評だったことを数字が証明した。
 一方、収入減少世帯への30万円給付から急転直下、方針転換した国民一人一律10万円給付については、「評価する」が朝日77%、毎日50%で、支持された形になっている。これと緊急事態宣言の全国拡大が、内閣支持率に影響し、「首の皮一枚…」につながったと言えるよう。
 政府のコロナ対策全般については、方針転換の前後とも評価は低い。「評価する」は親政権の産経が最も低く28・7%で、反政権の毎日が39%で最も高いという皮肉な結果になった

「昔、派閥、今、支持率」

 内閣支持率は現在、メディアの世論調査の主柱となっていて、「政治のエネルギー源が内閣支持率に一元化」(松本正生埼玉大教授)「昔、派閥、今、支持率。支持率こそは内閣のパワーを示す指標」(芹川洋一『政治を見る眼 24の経験則』)と位置づけられている。
 この要因は三つあり、第1は選挙制度の変更。衆議院が小選挙区制(1996年総選挙~)になって、公認候補選びが派閥でなく、党首・首相の権限に移行したこと。第2は有権者動向で、無党派層がほぼ最大勢力に(1990年代~)となり、「風」が選挙戦の決め手となったこと。4月のNHK調査では、支持政党なし45・3% 自民党33・3%だった。第3に、調査が戸別訪問・面談方式から、電話(RDD)方式(2001年~)になり、経費も削減され、調査が月例化、緊急調査も容易にできるようになったことだ。これらが組み合わさって、内閣支持率の重要度が政治過程の中で増してきた。現在は、自民党内でのダントツの党首・首相候補の不在、野党の弱体化(野党で支持率の最も高い立憲民主党でも4・0%、4月のNHK調査)という状況にあるが、内閣支持率の政治指標としての基本性格は変わっていない。

一気に危険信号が灯ることも

 特に現政権は内閣支持率の動向に敏感だ。それは、第一次安倍内閣(2006年)が、世論調査の結果、成立したと言えるからだ。安倍氏は当初、有力な首相候補ではなかったが、首相自身の言葉「世論調査がなければ、私が今の段階で首相候補に挙がることは考えられなかった」(朝日2006年8月24日朝刊)が示すように、“人気”が首相を誕生させた。
 以上のように、4月の調査結果で見られる世論の変化は、回答者が「頭で考えて」答える憲法や安保保障のような“イデオロギー問題”とは異なり、命と生活、ビジネスなどに直結するコロナ危機では「皮膚感覚」で答えた形になっている。個別政策への評価が内閣支持率に直結するとは限らないが、4月の数字は連動したことを示した。感染収束の目途が立たず、長期化する休校、外出・移動の自粛や休業要請で国民の不満が蓄積している。これは、内閣支持率をアップさせるには大きなエネルギーが必要だが、下降の方はきっかけがあれば一気に進む土壌ができていて、一つの政策の失敗で政権運営に危険信号が灯ることもあり得ることを示唆している。  (了)