✺神々の源流を歩く✺ 第2回「奈良県桜井市 大神神社」

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出雲と大和を結ぶアイアンロード

 奈良県桜井市にある大和国一之宮 三輪明神大神神社は、本殿はなく拝殿から直接ご神体である緩やかな三角形の三輪山を拝む。神社の最も古い祭祀形式とされる。本殿のない神社と言えば、埼玉県児玉郡神川の金鑚(かなさな)神社も同じで、拝殿からご神体の御室山の磐座を祈る。

祭神は3人か1人か

 大神神社は祭神が複雑だ。社務所で貰ったしおりには、大物主命(おおものぬしのみこと)で、大己貴命(おなむちのみこと)と少彦名命(すくなびこなのみこと)が配されている。                                                   
 ところが日本書紀の「(第六の)一書に曰く」として「大国主命、亦の名は大物主命、亦は大己貴命と号す」とあり、3つ名前を持っているように見える。ところが同じ日本書記の第二の「一書」には、大己貴命と大物主命の命は別の神になっている。
 古代から称えられた祭祀の山、三輪山には登り口の神社でお祓いを受ければ、登ることができる。緩やかな登り坂の途中に転々と古墳があり、頂上から大己貴命、中腹に大物主命、麓近くに少彦名命が祭られる。

いたるところに「出雲」を発見

 三輪山周辺を歩くと、いたるところに出雲が発見できる。出雲系の神である素戔嗚尊を祭る神社をはじめ、飛鳥坐神社(あすかにいます)は、大国主命の子の賀夜奈留美命を祭る。さらに出雲建雄神社(いずもたけお)、大穴持神社(おおあなもち)もある。
 三輪山の南西には出雲村、東の麓には出雲庄がり、金屋、穴師、金刺などは鉄に関係する地名だ。出雲にかかわる神社や地名がこんなに集中しているのは一体、どういうことなのだろうか。
 記紀神話は、奈良の朝廷が出雲の神に国譲りを迫ったことが軸になっている。その神を祭っているということは、出雲の神にも国の安泰を祈る理由があったのではないか。

鉄分の多い磐座

 千田実氏の「纏向と三輪山」や村井康彦氏の「出雲と大和」によると、ヤマトには早くから出雲勢力が進出している。出雲勢力の存在や事跡は日本の形成を研究するうえで見直すことが必要だ―と説く。岡谷公二氏は「神社の起源と古代朝鮮」で、鉱山の開発、鉄生産と関係があると、さらに踏み込んでいる。金鑚神社の磐座も鉄分が含まれ近くに鉄を作った跡がある。出雲はその昔から良質の鉄を産出し、その製鉄技術は朝鮮半島から伝わったとされる。

 鉄は木を切るにも削るにも農機具や馬具、武器などにも欠かせない。何世代にもわたって人々は、鉄を求めて神とともに出雲から奈良をはじめ各地に広がって行ったのではないか。神の道は同時に鉄の道でもあったように思われる。