「検察庁法改正」躊躇なくしっかりと安倍首相は法案の撤回を なぜこの時期になぜ急ぐのか 

投稿者:

 新型コロナウイルスで「緊急事態宣言」が5月末まで延期されたばかりだが、このところ安倍晋三政権は、検察官の定年を65歳に引き上げ、内閣の判断で、「検事長」や「検事正」という検察幹部の「役職定年」を延長できるようにする検察庁法改正案成立にひどくご執心である。そもそも、公務員の定年延長は、内閣にとってあくまでも、行政府の一員であるという点で身内の問題にすぎないのだが、コロナ禍がいまだ収束していないこの時期に、なぜ急ぐ必要があるのか。内閣による「検察官の私物化法案」を安倍首相は、「躊躇なく」「しっかりと」(いずれも安倍さんがよく使う「安倍語」)撤回すべきである。東京新聞によると、「検察庁法改正案に抗議します」とのツイッターへの投稿は急速に広がり、5月11日午後8時現在、異例の680万件にも上っている。この法案は、どの角度から考えても、「検察の独立性」を侵すだけでなく、三権分立の憲法秩序への挑戦である。

森法相の答弁拒否した「火事場泥棒」

 5月8日、衆院内閣委員会で立憲民主党など統一会派や共産党など野党は、森雅子法相が出席するかたちの内閣委員会と法務委員会の連合審査を求めたが、与党はこれを拒否。武田良太国家公務員制度担当相の答弁で済ませようと、自民党の松本文明内閣委員長が職権で委員会開催を強行した。与党は今週の委員会採決を目指す。「検察官逃げた」などの〃迷答弁〃を繰り返した森氏が答弁に立つと、また、ブレまくって何を言うか分からないから、もう表に出したくないというのが与党のホンネなのだろう。

 11日午前の衆院予算委でも、立憲民主党の枝野幸男代表が「どさくさ紛れに火事場泥棒のように決められることではない」「違法があれば、総理大臣すら逮捕できる検察庁の幹部人事を、内閣が恣意的にコントロールできるようになる」などと追及した。これに対して安倍首相は「公務員のマンパワーのために定年引き上げが必要で、検察庁法改正の趣旨・目的もこれと同じで、国家公務員法と検察庁法を一つの法案として束ねた上で審議することが適切」と反論した。急ぐ理由としては「地方自治体の対応もある」として今国会での成立を示唆した。さらに、共産党の宮本徹委員は、「検察庁法改正案に抗議するツイッターなどへの投稿が相次ぎ、著名芸能人が多数反対している」と追及したが、首相は「恣意的人事が行われるとの指摘は当たらない」と逃げた。

 コロナウイルス拡大があるためなのだろうか。また、このような時期に「検察の定年延長問題」に延々と質問時間を割いている、との批判を恐れたのだろうか。NHKテレビの中継を見ていて、野党の追及は質問時間も短く、全く物足りなかった。こう考えたのは私だけだろうか。もちろんコロナの問題は大事だ。しかし、検察の定年延長の問題もこの国の民主主義の未来にとってコロナに劣ることのない重大問題である。

政権の「すり替え商法」に乗せられた

 検察庁法と国家公務員法を一体化した形で国会に提出した安倍政権の戦略に、そのことを十分知りながら、野党もメディアも一体化法案を既成事実化した。その象徴は、新聞の見出しが「黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題」がいつの間にか「検察の定年問題」にすり替わっていることである。まんまと、政権の「すり替え商法」に乗せられてしまった。いずれも、その罪は重い。

 また、そもそも論だが、民間での定年延長があまり進まない中で、公務員だけが延長されるだけでいいのか。公務員が定年延長になれば、民間もそれについてくるということなのだろう。だから、11日の予算委で枝野代表は「私たちは国家公務員法の改正には大筋賛成だ」との前置きをしたのだろう。だが、国民の税金で給与やボーナスをまかなっている公務員が民間よりいち早く定年延長されることに民間だけでなく、働く人たちの多数を占める非正規の人たちはどう考えるか。優先順位が違わないか。野党はその辺の議論からまず始めるべきではないか。このような議論の立て方はアベノミクスの「トリクルダウン」(私はこれを「おこぼれ」と訳す)ということばを思い浮かべてしまう。

 もう一つ。検察官は裁判官と同様、身分保障があり、他の公務員と比べて給与も高い。その上、辞めても法曹資格があるので、弁護士や公証人になれる。また「公訴権」を独占する一人一人が建前上、独立した官庁だ。これを「検察官独立の原則」という。だから、総理大臣でも証拠に基づいて逮捕できる権限がある。行政官ではあるが、「準司法官」なのだ。これらの点がふつうの公務員とは異なる。また、首相は「定年引き上げはマンパワーのため」と言った。首相は検察官にどのような「マンパワー」を望んでいるのか。いうまでもなく、検察の中枢は「特捜部門」である。まさか、自分を含めた政治家の事件をどんどん摘発してほしいということなのだろうか、違うだろうと、思わず突っ込みたくなる。

後付けの「役職定年制」

 さらにもう一つ。首相は「恣意的人事が行われるとの指摘は当たらない」と述べている。「指摘は当たらない」という言葉は安倍さんや菅義偉官房長官が相手の質問をはぐらかす時に常用する言葉だ。何の説明にもなっていないが、そう言われると、なかなか二の句を継ぎにくい。だから使うのだろう。私はこの言葉が出るときは「指摘は当たらない」という説明のない否定の言葉を外し「恣意的人事が行われる」と積極的に受け止めることにしている。

  検察庁法改正案は、国家公務員の定年を段階的に65歳まで引き上げる国家公務員法改正案と1本化される形で国会提出された。1月末に、黒川弘務東京高検検事長の勤務延長を閣議決定し、黒川氏の検事総長への道が開けることになった。現総長が就任2年となる7月に総長交代の可能性がメディアで報道されている。黒川氏は政権と近く、〃身びいき人事〃といわれた。その後、提出された検察庁法改正案では、検事長、検事正などの幹部には63歳で退く「役職定年制」を導入、その後もその職にとどまれるかどうかは内閣が決めるという内容となった。内閣が気に入らない場合は65歳までの定年延長はない。昨年暮れまでは、「役職定年」の規定はなく、もちろん「後付け」である。

 前法相の河井克行衆院議員、妻の杏里参院議員の広島地検による参院選の公職選挙法違反事件は、安倍首相の元首相補佐官でもあった克行議員の買収事件にまで発展しそうである。参院広島選挙区の自民党議員には自民党から1500万円しか選挙資金が渡されなかったが、なぜか、杏里議員にはその10倍の1億5千万円が渡されている。この1億5千万円が選挙の買収資金だった可能性は高いと見られている。検察の本気度はまだよく分からないが、事件の発展次第では、内閣に直撃しかねない。