8月15日の全国戦没者追悼式での首相式辞を昨年と比較すると、ほぼコピペで、心のこもらない安倍晋三首相の姿勢があらためて明確となった。内容は、新型コロナ、積極的平和主義が追加されたが、昨年あった「歴史の教訓を深く胸に刻み」という文言が削除されていて、天皇の「お言葉」「過去を顧み、深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い」とは対照的だ。アジア諸国への加害責任については、第1次安倍政権では言及していたが、第2次安倍政権では消えていて、今回もなかった。
8月6、9日の広島・長崎での原爆犠牲者慰霊・平和祈念式での首相あいさつがほとんど同じで、
広島を長崎に換え以下同文
という川柳と作り、15日の首相式辞も昨年のコピペになるかどうか注目していた。
(参照:当ブログwatchdog21.com、8月11日「『開け!国会』」は川柳子の願い」)
ニュースの読み方について、大学のジャーナリズム論の授業では、「温故知新、古新聞で考えよう」と学生に勧めたが、ここでは、昨年と今年の式辞を比べる。歴代首相の演説などは、記録隠し・改竄を得意とする安倍政権もさすがに削除はできず、首相官邸HPに残っているので、簡単に比較検討できる。
積極的平和主義やコロナを追加、以下同文
昨年と今年の首相式辞全文(官邸HP)を左右に並べ、異なる文言を赤色(一部は青色)にすると以下のようになる。
2019年 | 2020年 |
天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、戦没者のご遺族、各界代表、多数のご臨席を得て、全国戦没者追悼式を、ここに挙行いたします。 先の大戦では、三百万余の同胞の命が失われました。祖国の行く末を案じ、戦陣に散った方々。終戦後、遠い異郷の地にあって、亡くなられた方々。広島や長崎での原爆投下、東京をはじめ各都市での爆撃、沖縄における地上戦などで、無残にも犠牲となられた々。今、すべての御霊(みたま)の御前(おんまえ)にあって、御霊安かれと、心より、お祈り申し上げます。 今、私たちが享受している平和と繁栄は、戦没者の皆様の尊い犠牲の上に築かれたものであることを、私たちは決して忘れることはありません。改めて、衷心より、敬意と感謝の念を捧(ささ)げます。 未(いま)だ帰還を果たされていない多くのご遺骨のことも、決して忘れません。ご遺骨が一日も早くふるさとに戻られるよう、私たちの使命として全力を尽くしてまいります。 我が国は、戦後一貫して、平和を重んじる国として、ただ、ひたすらに歩んでまいりました。歴史の教訓を深く胸に刻み、世界の平和と繁栄に力を尽くしてまいりました。 戦争の惨禍を、二度と繰り返さない。この誓いは、昭和、平成、そして、令和の時代においても決して変わることはありません。平和で、希望に満ち溢(あふ)れる新たな時代を創り上げていくため、世界が直面している様々な課題の解決に向け、国際社会と力を合わせて全力で取り組んでまいります。今を生きる世代、明日を生きる世代のために、国の未来を切り拓いてまいります。 終わりに、いま一度、戦没者の御霊に平安を、ご遺族の皆様にはご多幸を、心よりお祈りし、式辞といたします。 | 天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、戦没者のご遺族、各界代表のご列席を得て、全国戦没者追悼式を、ここに挙行いたします。 あの苛烈(かれつ)を極めた先の大戦では、300万余の同胞の命が失われました。祖国の行く末を案じ、家族の幸せを願いながら、戦陣に散った方々。終戦後、遠い異郷の地にあって、亡くなられた々。広島や長崎での原爆投下、東京をはじめ各都市での爆撃、沖縄における地上戦などで、無残にも犠牲となられた方々。今、すべての御霊(みたま)の御前にあって、御霊安かれと、心より、お祈り申し上げます。 今日、私たちが享受している平和と繁栄は、戦没者の皆様の尊い犠牲の上に築かれたものであることを、終戦から75年を迎えた今も、私たちは決して忘れません。改めて、衷心より、敬意と感謝の念を捧げます。いまだ帰還を果たされていない多くのご遺骨のことも、決して忘れません。一日も早くふるさとにお迎えできるよう、国の責務として全力を尽くしてまいります。 戦後75年、我が国は、一貫して、平和を重んじる国として、歩みを進めてまいりました。世界をより良い場とするため、力の限りを尽くしてまいりました。 戦争の惨禍を、二度と繰り返さない。この決然たる誓いをこれからも貫いてまいります。我が国は、積極的平和主義の旗の下、国際社会と手を携えながら、世界が直面している様々な課題の解決に、これまで以上に役割を果たす決意です。現下の新型コロナウイルス感染症を乗り越え、今を生きる世代、明日を生きる世代のために、この国の未来を切りひらいてまいります。 終わりに、いま一度、戦没者の御霊に平安を、ご遺族の皆様にはご多幸を、心よりお祈りし、式辞といたします。 |
青色の文字の部分を見ると、今年の式辞に、「積極的平和主義」と新型コロナ関係が加わったことが一見して分かる。そして、見落とせない重要な変更がもう一つあった。
加害責任、第一次安倍政権では言及
戦没者慰霊式の言葉で最も注目されるのは、過去の責任への言及であることは、フランスの通信社AFP日本語版が18日夕に「天皇陛下が『深い反省の上に立ち』 平和願うお言葉」という見出しで伝えていることからも分かる。
そこでクイズ。次の文章は全国戦没者慰霊式での首相式辞ですが、だれの言葉か当ててください。
「我が国は、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。国民を代表して、深い反省とともに、犠牲となった方々に謹んで哀悼の意を表します」
答えは安倍首相。2007年の第1次安倍政権時の式辞だ。前年の小泉純一郎首相の式辞と一字も違わないコピペ文だ。
アジア諸国への加害への言及は、細川護熙首相が1993年に初めて「哀悼の意」を表明し、村山富市首相が翌年「深い反省」を追加した(朝日新聞デジタル版2016年8月16日)。それ以来、言及は続き、第1次安倍政権はそのコピペで式辞を作ったことなる。その後も自民党政権、さらに2012年の民主党の野田佳彦首相まで踏襲されてきた。
歴史に学んだコピペは続けよう
アジア諸国との協力関係構築のための基礎とも言うべきこの文言のコピペを、第2次安倍内閣は2013年の式辞でやめて安倍カラーを打ち出し、継続してきた。それでも、昨年は、「歴史の教訓を深く胸に刻み」という言葉があったが今回、この抽象的な文言も削除された。過去に目を閉ざすな、と訴えたヴァイツゼッカー・ドイツ大統領の戦後40年演説とは逆の方向にさらに向かったことになる。
「これからはコピペ首相と呼びたいね」-という川柳を作り、安倍首相を揶揄したことがある。しかし、ここ30年近くを振り返ってみると、研究論文などとは違い、コピペ自体は悪いわけでなく、加害責任への言及など“いいコピペ”もあることが分かる。平和の方向を目指すいいコピぺは、むしろ積極的に続けてほしいものだ。
コピペにも歴史に学んだコピペあり (2020年8月15日夜、記す)