「連続執務147日の実際」首相動静の分析 土日・休日48日のうちフル出勤は3日 官邸滞在60分以内は13日、最短は36分

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 安倍晋三首相が17日に日帰り検診を受けたことで、新型コロナ対策のための「147日連続執務」による疲労を心配する声が上がっている。「147日連続執務」という言葉からは、休日を返上をして対応に当たったという献身的なイメージが浮かぶが、この間の土日・休日計48日を「首相動静」で調べると、朝から夕方まで働いたのは3日だけで、45日は午後出勤・夕方帰宅などの半休で、官邸にいた時間が60分以内は13日、最短は36分だった。「147日休みなし」「5カ月ぶり休日」が与える印象とはほど遠い。

麻生財務相「147日間休まず働いてみたことありますか?」

 「147日連続執務」の実態を調べようと思いたったのは、17日夜の麻生太郎副総理兼財務相の次のような発言を知ったからだ。
 「麻生太郎財務相は17日夜、『147日間休まず働いたら、普通だったら体調としては、おかしくなるんじゃないの』と語った。そのうえで、『「休む必要があるということは申し上げた。ちゃんと自分で健康管理するのも、仕事の一つだ』とも述べた」(朝日新聞デジタル)。

 「麻生財務大臣は17日夜、報道陣の取材に…『あなたも147日間休まず働いてみたことありますか?ないだろうね、だったら意味分かるじゃない。140日休まないで働いたことないだろう。140日働いたこともない人が、働いた人のこと言ったって分かんないわけですよ』」(TBS)

ベタ記事で時代を読む

 新聞を開くと、政治面の最下段などにある小さな記事「首相動静」を私は読む。首相の出勤状態はもちろん、面会者を見て「国家安全保障局長が多いなあ」「またJR東海名誉会長か」「読売新聞主筆は最近登場しないが…」と感想を持ちながら、首相の関心事を推測する。大げさに言えば、「ベタ記事から今の政治を、時代を読む」というのが持論で、今回は、「147日」の首相動静を「時事ドットコム」で検索して分析した。

 首相の「147日連続執務」は今年1月26日(日)から6月20日(土)までで、その間の土曜日、日曜日、休日は計48日。

出張・国会の日はフル出勤

 首相が朝から夕方まで丸1日仕事をしたのは、48日のうち3日だけだった。

3月7日(土)午前8時57分から福島県内の宿泊ホテルで富岡町長らと懇談。県内視察後、官邸へ。新型コロナウイルス感染症対策本部に顔を出し、官邸を午後6時4分に出た。
3月20日(金)午前9時34分、皇居着。春季皇霊祭に参列した後、官邸へ。午後6時29分に官邸発。
4月29日(水)午前7時1分、官邸着。衆参予算委員会などに出席し、官房長官やコロナ担当大臣らと会った後、午後7時41分、官邸発。
*3日とも官邸から自宅に直行している。

  官邸滞在:60分以内=13日 最短=36分

 上記3日以外の45日は、午後出勤がほとんどで、執務時間(官邸着から官邸発まで)が60分以内の日が13日あった。最も短いのは4月26日(日)で、首相動静は次の通り。

 午前中は来客なく、私邸で過ごす。午後3時42分、私邸発。
 午後3時53分、官邸着。同4時3分から同15分まで、加藤勝信厚生労働相、菅義偉、西村明宏、岡田直樹、杉田和博正副官房長官、北村滋国家安全保障局長、和泉洋人、長谷川栄一、今井尚哉各首相補佐官、秋葉剛男外務事務次官、鈴木康裕厚労省医務技監。
 午後4時29分、官邸発。午後4時43分、私邸着。

 官邸滞在時間36分のうち、コロナ担当の大臣や官僚と会っていたのは12分。自宅からのドアツードアでも61分だ。

 朝から出勤した日もある。2月2日(日)は午前8時51分、官邸着。自衛隊のヘリコプターで、海上自衛隊横須賀基地へ。中東に派遣される護衛艦内を視察した後、官邸へ。11時20分、官邸を出て自宅に向かった。半日仕事だ。

 こうした短時間の執務も、「連続執務」の1日としてカウントされている。データは、上記の麻生発言が首相の労働実態に基づいた主張でないことを示している。

追加検診の方が長時間

 安倍首相の8月17日の日帰り検診は、6月に受診した人間ドックの「追加検査」(病院関係者)と伝えられているが、その日は6月13日(土)で、首相動静は次の通り。
   午前8時17分、私邸発。
   午前8時26分、東京・信濃町の慶応大病院着。人間ドック。
   午後2時20分、同所発。
   午後2時30分、私邸着。午後4時10分、私邸発。
   午後4時24分、官邸着。同32分、菅義偉官房長官ら。
   午後5時6分、 官邸発。
   午後5時18分、私邸着。

 病院にいたのは5時間54分。8月17日は、「午前10時28分、東京・信濃町の慶応大病院着。午後6時2分、同所発」で、7時間34分。なぜかこちらの方が長い。首相は3日間の夏休みの後、19日に午後出勤したが、丁寧な説明はしなかった。首相の健康不安への懸念を払拭できていないばかりか、増大させている。

平日連続3日も午後出勤

 7月になって、首相の午後出勤が平日にもあることに気づき、30日に当ブログ「ウォッチドッグ川柳」に次の句を投稿した。

 最多でも午後から出勤範示す  (風哲)

 首相が昼から出勤を繰り返し、コロナ時代の「新しい生活様式」の見本を示しているのか、と風刺した。投稿の前3日間の首相動静を略記すると-。

7月27日(月)午後1時16分、官邸着。午後5時から同14分まで、菅義偉官房長官ら。午後5時57分、官邸発。
7月28日(火)午後1時13分、官邸着。午後3時3分から滝沢裕昭内閣情報官ら。午後6時20分、官邸発。
7月29日(水)午後1時16分、官邸着。午後2時2分から西村康稔経済再生担当相ら。午後5時49分、官邸発。
*3日とも自宅から出て自宅に戻っている。

 7月25、26日の土曜と日曜を連休とした後、3日連続の午後出勤だ。28日は新型コロナの国内死者(クルーズ船関係を除く)が1000人を超え、29日は、1日の感染者が初めて10000人を超えた、と報道された日だった。

 さらに、国会は6月17日に閉会されたまま。首相は夜の会食もコロナ感染拡大で自粛していて、6月19日夜、麻生氏らと会食した際は、3カ月ぶり-とニュースになったほどだ。記者会見は8月6日の広島での約15分の会見が49日ぶりだった。首相がコロナ対策の陣頭指揮を執って過酷なスケジュールをこなしていることを示すデータは見当たらない。むしろ、コロナ対策では司令塔がない、と首相のリーダーシップの欠如に批判が出るほどだ。

壁を乗り越え「首相動向」の充実を

 首相動静は、共同通信と時事通信の首相番記者が担当。旧官邸は、2階の首相執務室前の廊下も記者の出入りは自由だったが、新官邸(2002年完成)は執務室のある5階への立ち入りが原則禁止となった。5階の廊下をビデオカメラで写し、3階控室で記者がモニターを見てチェックする。だが、首相と同じ5階に部屋を構える正副官房長官らは内廊下から首相執務室に出入りできる。官房長官に面会した人が内廊下を通って首相執務室に入ったら、モニターでは確認できない。新官邸は、正面外壁はガラス張りだが、取材規制の壁が作られた。

 上記の7月27日の首相動静には官邸着の午後1時16分から、官房長官が入る午後5時まで記述がなく、この間の首相の行動は不明だ。こうした限界はあるが、今回、政権トップの首相は休日をはじめ勤務時間を自らの裁量で設定でき、半休を休日だけでなく平日にも取っていたという実態が確認できた。猛暑の中、背広を着て、首相を追っかける仕事は大変だが、首相番記者には、規制の壁を突き崩して、政治・時代を判断する素材・首相動静を発信し続けてくれることを期待したい。
                                   (8月19日夜、記す)

 〈追記1〉池上彰『今日の総理』(ビジネス社、2009年)は、福田赳夫から鳩山由紀夫まで歴代首相19人の「首相動静」から特徴的な記事をピックアップし、「ホテルのバーは安い-麻生太郎」「ひ弱なお坊ちゃんだった-安倍晋三」などとコメントしている。
 〈追記2〉参照:東京新聞8月20日朝刊「こちら特報部」の「首相の働き過ぎ 本当? 147日連勤 約3割は『時短』」