✺神々の源流を歩く✺ 第5回「白鬚神社」

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琵琶湖の厳島 渡来人が信仰

 春3月、近江の神社をめぐった。琵琶湖周辺は渡来人が開拓したところが多く、珍しい名前の白鬚(しらひげ)神社の由来を知りたくなった。大津駅から湖西線を北上し高島駅で下車。1台あったタクシーに乗って、10分ほどで白鬚神社に着く。白砂青松の向こうに広がる湖面はまぶしい感じだ。湖の中に建つ朱塗りの鳥居は、琵琶湖の厳島と呼ばれ、創建は垂仁天皇25年という伝承を持つ。神社の後ろの小高いところに古墳群があって、いい伝えなどからも相当古そうだ。

 古代史を考える場合、朝鮮半島にはかつて高麗、百済、新羅の3国が鼎立し、また半島と列島の間には今のような国境はなく、人々は自由に行き来していたことを知っておくと便利である。

全国に400の白鬚神社の総社

 白鬚神社は全国に4百社近くあり、ここはその総社である。神社は先祖を祖神として顕彰したものが多いので、各地の白鬚神社はこの神社で祭られている神の子孫でもある氏子たちが、広がって行った足跡ともいえるだろう。

 まず白鬚の名前だがいくつか見方があって難しい。谷川健一氏の「日本の神々」によると、白鬚は「比良神(ひらがみ)」とか「比良明神」と呼ばれ、ヒラはシラに通じ、新羅の初めの国号の新羅にも通じるとする。白鬚神社の背後に比良山地が連なっており、白鬚神社の祭祀は、この比良山の信仰にも深く関係あるようだ。

 中村利一郎氏の「白鬚考」も、新羅系神社説で、新羅は斯盧(しら)のことで、新羅と変わる過程で「しらぎ」が転化して白鬚神社になったとする。東京都墨田区に白鬚神社があり、近くの隅田川に白鬚橋が架かる。

 一方、埼玉県日高市の高麗神社の境内には、高麗王若光を祭る白鬚大明神がある。高麗神社だから高麗から来た人々が尊崇しており、宮司の高麗氏は代々「高麗」を名乗っている。

白鬚神社は渡来した由来に関係なく信仰

 宮崎県児湯郡川南町にある白鬚神社は、百済系渡来人に信仰されていたとされる。ちなみに高麗の白鬚は「口ひげ」で、比良山の白鬚は「あごひげ」と区別する見方もあるようだ。

 百済説では、百済(ひやくさい)が白鬚(はくしゅう)に転訛したと説いている。ソウル出身で関西大で教鞭をとっていた古代史家、段熙麟(たん・ひりん)氏は「日本に残る古代朝鮮『関東編』『近畿編』」で、「その観念的形相である白鬚をもじって名付けられたのではないか」とみる。韓国の昔話に、貧しい孝行息子の夢に白鬚の老人が現れ苦難を救う話がある。白鬚神社は渡来した由来にかかわりなく、多くの渡来人に信仰されてきたことがうかがえる。