「首相と記者とのソーシャルディスタンス」のその後

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10月7日の「ウォッチドッグ21」に「首相と記者とのソーシャルディスタンス」という記事を書き、12日にその続編を書いた。その後、私が指摘した二つの問題で動きがあったので報告しておきたい。

首相と内閣記者会懇談会 今回は朝日は出席、東京は欠席

 一つは、13日夜、東京・紀尾井町のホテルニューオータニの宴会場で菅義偉首相と内閣記者会加盟報道各社キャップとの懇談会があった。朝日新聞の首相動静によると、約1時間。3日朝の首相との「パンケーキ懇談会」に「懇談ではなく、記者会見で学術会議の会員候補拒否問題についてきちんと説明してほしい」という理由で欠席した朝日新聞は今回は出席した。14日付朝日新聞朝刊は「機会をとらえて取材尽くします」との見出しで以下のように書く。

 「(前略)(キャップ懇談会は)会費制で首相側から呼びかけられました。首相に取材する機会があれば、できる限り、その機会をとらえて取材を尽くすべきだと考えています。対面して話し、直接質問を投げかけることで、そこから報じるべきものもあると考えるためです。
 参加するかどうかはその都度、状況に応じて判断しています。3日には、首相と内閣記者会に所属する記者との懇談会がありましたが、出席を見送りました。日本学術会議をめぐる問題で当時、菅首相自身による説明がほとんどなされていなかったためです。
 その後、首相から一定の説明はありましたが、朝日新聞は首相による記者会見の開催を求めています。今後もあらゆる機会を生かし、権力を監視していく姿勢で臨みます(政治部長・坂尻顕吾)」

 東京新聞は「首相の1日」の記事の末尾で「内閣記者会加盟報道各社キャップと首相との懇談に本紙記者は参加しませんでした」と書いた。

 朝日新聞は「首相から一定の説明があった」ことを出席の理由に挙げているが、5日と9日の2回の首相の「グループインタビュー」を一応、評価したということなのだろううか。「記者会見」はまだ実現していないので、読者にもう少し、詳しい説明がほしい。

 首相との「グループインタビュー」というやり方は、これまでにもあったようだ。これまでは「内閣記者会」主催で定期的に行われ、当番制の幹事社が代表して首相の意向を聞き出すというやり方をしていたという。しかし、その代わりに任意の個別なメディアとのインタビューはしないのが慣例となっていたという。それが、2012年12月の第2次安倍晋三内閣で個別のメディアのインタビューに応じるやり方に変わったという。それが菅政権となり、官邸側にインタビューを申し込んだ各社のうち、3社が質問し、他の社は傍聴するという形に変わったわけだ。その問題点については、2回にわたる「首相と記者とのソーシャルディスタンス」で触れたので参照してほしい。

柿崎補佐官就任で共同が「見解」と「識者」の意見を聞く記事

 二つめは、共同通信社は1日付で首相補佐官に就いた前論説副委員長の柿崎明二氏について14日、識者の意見をまとめた記事と共同通信としての見解を加盟社に配信した。東京新聞は15日付朝刊で「メディア不信を招く恐れ」の見出しでこの記事を使用した。記事はリードで「権力を監視する側からいきなり政権内に入るという異例の転身に対し、メディア不信を招くと批判の声もある」と書いた。

 計4人の識者の意見を載せた。田島泰彦・元上智大教授(メディア法)は「政権を監視するジャーナリストが権力の本丸に入るのは市民サイドから見れば疑念を抱かざるを得ない」と批判した。またジャーナリストの田原総一朗氏「官邸に入ったこと自体がいけないとは思わない。問題は、これまで同様に意見が言えるかどうかだ」と指摘した。

 その上で「政権を取材していた者が、その権力の中に入っていくことに多くの人が違和感を持っているのではないかと考えます。政権と報道機関の距離感を危惧し、こうした転身が報道不信につながるとの意見もいただいています。ただ、この人事によって共同通信が権力監視を緩めることはあり得ません。これからも時の政権に対し適切な距離を保ちながら、真相に迫る取材をしていきます」との共同通信としての見解を出した。

 私は10月7日の「ウォッチドッグ21」の記事で、共同通信は9月26日付で加盟社の編集・論説担当者宛にこの問題の事情説明の文書を出し、それが、文春オンラインで明らかにされたことを書いて「責任あるメディアとして一般読者や視聴者にもこのことを知らせた方が良かった」と指摘した。身びいきといわれるかもしれないが、少し、遅くはなったが、このような記事を出したことは良かったと思う。