「温室ガス50年に実質ゼロ」再生エネルギーを主力に推進を 原発再稼働が狙いの経産省

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 地球温暖化対策の決め手となる温室効果ガス排出削減について、菅義偉首相は、2050年に国内の排出を実質ゼロにすると表明した。これまでの方針は50年に80%削減だったが、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」参加の約120カ国が50年までに脱炭素化を表明する中で、孤立化を回避するためようやく舵を切った。

「50年実質ゼロ」に至る工程は白紙状態

 しかし、温室効果ガスの大半である二酸化炭素(CO2)排出のうち4割を占める発電部門は、主要国に比べて化石燃料による火力発電の割合が圧倒的に高いのが現状で、「50年実質ゼロ」に至る工程は全く白紙状態だ。経済産業省は、将来の電源構成比などを方向付ける「エネルギー基本計画」の見直し作業に着手しており、首相が宣言した「50年脱炭素化」に向けた具体的道筋を新計画で示す必要がある。

 18年に策定した基本計画は、30年時点で電源構成を火力56%、再生可能エネルギー22~24%、原発20~22%との内容だが、待ったなしの脱炭素化に向けて、再生可能エネルギーを主力に据えた新計画が求められる。50年までに脱炭素化が必要としたパリ協定の合意に呼応して、欧州は再生可能エネルギーが既に30%に達する。中国も9月に60年にCO2排出ゼロを目指すと表明した。日本の電源比率は18年で、33基中9基が稼働する原発は6%と現行計画を大きく下回る半面、火力発電の比率が77%と突出。現行の基本計画に逆行している。

温暖化危機防ぐため解決すべき課題

 これに対し再生可能エネルギーの比率は東電東日本原発事故後に上昇したものの、17%にとどまる。ネックとなっているのは、自然に左右される不安定性と割高なコストだ。これは蓄電設備の大容量化や発送電網の効率化、太陽光や風力、水力などの組み合わせに加え、省エネやCO2吸収の新技術を総動員して克服可能だ。というより、間近に迫る温暖化危機を防ぐため何としてでも解決しなければならない課題であろう。

 新たなエネルギー基本計画策定の作業に入った経産省の狙いは何か。再生可能エネルギー拡充への推進力を、CO2を排出しない原子力再稼働のバネにする戦略であるのは明白だ。つまり再生可能エネルギーも、原発も、という狙いだ。
 しかしCO2は排出しないものの、全くクリーンなエネルギーでないのは東日本原発事故を持ち出すまでもないだろう。危険な使用済み燃料は行き場がないまま青森県六ケ所村の再処理工場や全国の原発敷地などに仮保管されたままだ。高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に至っては、北海道の2町村が調査に応じることになったが、解決の見通しは全く立っていない。

原発は最も割高なエネルギー

 コスト面でも、使用済み燃料の再利用であるMOX燃料で稼働する原発は限られており、発電費用はその分割高になる。発電コストだけでなく安全投資や廃炉費用などを総合すれば、原発が最も割高なエネルギーであるのは明らかだ。

 こうした核燃料サイクルの破綻の実態や高コスト構造の問題に応えることなくして、同省が原発再稼働に前のめりになることは許されない。再生可能エネルギーを中核に、それに向かって新技術開発や政策を総動員して肉付けしていく見直し作業が必要だ。