「桜を見る会問題」「前首相不起訴へ」との報道も 証人喚問は当然だ 安倍氏は辞職だけでなく引退を

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 たとえ、秘書がやったとして刑事責任は免れても、一国の首相が国会の場で何度も繰り返し、国会や国民を結果として堂々とだました政治責任は大きい。前例もあるのだから、偽証罪のある国会での「証人喚問」は当然である。また、2度にわたり、9年近くも首相をつとめた政治家として議員辞職だけでなく、引退も考えてほしい。安倍晋三前首相の後援会が「桜を見る会」の前日に開いた前夜祭(夕食会)の費用を安倍氏側が補填していた問題である。

 毎日新聞が12月19日付朝刊1面トップで「『桜』前夜祭不記載 安倍前首相を不起訴へ 秘書は年内略式起訴 東京地検」と報道した。すでに、公設第1秘書らの略式起訴が朝日新聞などで報じられており、安倍前首相の「不起訴」は予想通りの結論といっていいだろう。毎日の記事では「東京地検特捜部は、安倍氏本人の関与も捜査しているが、本人が費用の補填や政治資金収支報告書の不記載を指示していた明確な証拠は得られていないといい、刑事責任を問うのは難しいと判断しているもようだ」と報じている。

検察との〃出来レース〃か

 まだ、安倍氏自身の検察聴取がなされていないと見られる段階での(あるいは聴取済みなのかもしれないが)、この検察の判断には多少、違和感がある。ただ、国会議員がらみの政治資金規正法違反だと、検察では総額で1億円を超えていなければ起訴しないとの暗黙のルールがある(前田恒彦元特捜部検事)とされている。毎日新聞報道によると、今秋ごろから安倍事務所関係者ら100人前後から聴取を重ねてきたというのだから、安倍氏の指示などを裏付ける秘書からの供述は得られなかったのではないか。安倍氏は18日、「結果が出次第、誠意を持って答えさせていただきたい」と特捜部の捜査終結後、国会招致要請に応じる意向を示している。安倍氏のこの対応は、何か検察の動きと連動しているように感じるし、勘ぐりかもしれないが、検察と安倍氏側、菅義偉政権の〃出来レース〃のようにも見える。

 どちらにしろ、年内に特捜部による安倍氏の聴取があり、秘書らが政治資金規正法違反(不記載)で略式起訴。その後、国会の場で安倍氏はこの問題の説明をすることになるのだろう。新聞報道によると、自民党はこれまで国会で安倍氏に説明させることに消極的で、衆参両院の議院運営委員会で非公式の形で一連の経緯を説明することを主張している。愚弄されたのは国会なのだから、自民党としても大いに怒ってしかるべきだが、この党はこのところ、そうした〃自浄作用〃ができなくなっている。

 これに対し、立憲民主党をはじめとする野党は公開で開かれる予算委員会で安倍氏を参考人として招致することを要求しているという。私はこの野党の要求はおかしいと考える。森友学園、加計学園の問題と並び、「桜を見る会」は、前夜祭の問題だけでなく、安倍氏は選挙民である地元の支援者を大勢招待して、結果として選挙を有利にしようとしたことは疑いがない。事件にしやすいから前夜祭の方に検察が手を付けたという側面も忘れるべきではない。これは安倍氏の得意とする「私物化」であり、このことだけでも許されることではない。

元首相の「証人喚問」は過去3例も

 ここは過去にも、首相を退任した後に国会で疑惑について説明を求められたケースがあるのだから、嘘をついた場合は偽証罪で訴えることのできる「証人喚問」で安倍氏から説明を聴くことは当然ではないのか。朝日新聞12月19日付朝刊によると、①リクルート事件での中曽根康弘元首相②東京佐川急便事件で竹下登元首相③佐川急便グループからの借り入れを巡って細川護煕元首相ーの三つの前例がある。安倍氏にとっても、変にかばい立てをされるよりも、「逃げた」といわれないためにも、国民への説得性のあるこちらの方がベターなのではないか。

嘘の繰り返しの国会答弁

 「桜を見る会」前夜祭での安倍氏側による費用補填問題は、安倍氏の公設第1秘書が代表をつとめる「安倍晋三後援会」が「見る会」前日に2013年から2つの都内のホテルで開いた前夜祭で、安倍氏側がホテル側に支払った開催費用は15年から19年の(それ以前は時効)5年間で約2300万円だったが、1人5千円だった会費の総額は約1400万円で、差額が生じていた。

 これに対して、安倍氏は国会の答弁で以下のように答弁していた(毎日新聞デジタル11月24日、「疑問点と安倍氏答弁」から)。

【前夜祭の費用】
会場の受付で、安倍事務所職員が1人5千円を集金し、その場でホテル側に渡した(19年11月20日、参院本会議)。

【前夜祭が政治資金収支報告書に記載されていないのは】
この件で後援会への収入・支出はいっさいない。だから収支報告書への記載は必要ない(同)。

【一流ホテルなのに、1人5千円で足りるのか】
何回も使っている方と、いちげんの方とで、扱いが違う(1月27日、衆院予算委)。補填した事実もまったくない(3月4日参院予算委)。

【ホテルは前夜祭の明細書を発行したか】
明細書の発行はなく、ホテルからは営業の秘密に関わり資料提供に応じかねるとの報告を受けた(19年12月2日、参院本会議)。

 以上は、安倍氏の答弁の一部を改めて取り上げただけだが、6月の学者らの3回目の告発を受けた特捜部の今年秋からの安倍事務所やホテル関係者のへの調べで、新聞報道ではこの答弁はことごとく否定されている。大体、特捜部としてこの事件は難易度の高い事件ではない。安倍氏にしろ、秘書任せにしていたことが事実だとしても、秘書らをもっと厳しく問いただすか、ホテル側から聞けば真実はすぐに分かったはずである。また、会費と実際に安倍氏側がホテルに支払った差額の補填金はどこから出たのか。この金の「出の解明」も必要である。この点は、元法相で衆院議員河井克行被告と妻で参院議員案里被告の公選法違反事件でも、自民党本部からとされる1億5千万円の原資と同様に、今後も明らかにならない(公にされない)可能性がある。

〃共犯的立場〃にある菅首相

 秘書らが政治資金規正法違反(不記載)で略式起訴されれば、事件は非公開の書面だけの審理で終わる可能性が高い。処分発表で検察がどこまで詳しい説明をするかは、不明だが、〃検察リーク〃とみられるメディアの報道で、安倍氏側の補填問題が小出しに明らかにされてきたところを考えると、検察は処分時に詳しい説明はしないのではないか。首相を巻き込んだこれだけの事件なのだから、検察は捜査結果を詳細に発表すべきであろう。

 元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士は、略式起訴ではあるが、略式手続きを「不相当」として公判が開かれた「電通の違法残業時件」を例に挙げ、「秘書が略式起訴された場合、担当した簡裁判事が、書面審理だけで済ますとは思えない。公判が開かれる可能性が高い」(12月6日のブログ)としている。さらに、郷原氏は同じブログで「安倍氏の検察の聴取が被疑者としてではなく、参考人聴取ならば、事件の幕引きのためのセレモニー」とも指摘している。経緯をみると、おそらく安倍氏の検察による聴取は「参考人聴取」なのだろう。

 もう一つ重大な問題は、この問題で何度か、よく調べもせずに安倍氏を支える答弁を繰り返した、いわば〃共犯的立場〃にある菅首相である。この問題で自分自身の責任も口にしているが、どう責任をとるのか、はっきりしない。国民にとって、どうにもすっきりしない幕引きとなりそうである。まずは安倍氏が国会で何と言うのか、聞いてみたい。

下関の講演会で「桜」に触れず

 毎日新聞は20日付朝刊で、安倍氏が19日に選挙区がある山口県下関市を訪れ、ジャーナリスト櫻井よしこ氏の講演会に出席して、「体力を回復しながら、憲法改正に皆さんと共に取り組んでいきたい」と述べたと報じている。「桜を見る会」については、一言も触れなかったそうである。本当に懲りない人である。