3月4日発売の週刊文春3月11日号によると、菅(義偉)首相は「文春の報道以来、正剛氏と何度も話をしているのですが、『あいつはこう言っているんだ』などと長男の言い分を鵜呑みにして周囲に語っています。この期に及んで『俺がこういう立場だから(書かれた。)。あいつは(上司に)呼ばれて行っただけで、主体的に接待をしたわけじゃない。(39件の接待のうち)20件ぐらいだけだろ』などと擁護しているのです」(官邸関係者)などと、グチっているという。
長男への擁護が示す、菅氏の傲慢ぶり
菅氏は3人の息子さんのうち、正剛氏を最もかわいがっているそうだが、これでは、親としても落第だ。あんなに怖い顔をしているのだから、厳しくしかることぐらいはやったのかと思った。身内や自分に尾っぽを振ってくる子飼い官僚には甘い菅氏の性格がにじみ出てくるような記事である。
菅氏のこのような姿勢が問題をますます大きくしていくことに気づかないのだろうか。ここにも7年8カ月もの間、安倍晋三首相の力をバックに、官房長官としてその剛腕を持って君臨した菅氏の傲慢ぶりが出ている。正剛氏が「主体的に」違法接待をしたのか、東北新社側が正剛氏の立場を利用したのか、あるいはその両方か—。
菅首相への忖度でその成果はあまり期待できないものの、当面、総務省が立ち上げる原因究明と再発防止のための「検証委員会」の調査を待つしかないのだろう。委員会はすでに調査をスタートしたのか。「副大臣をトップとする」と、武田良太総務相は2月24日の記者会見で明らかにしたが、まだ決まっていないのか、そのメンバーなども報道されていない。副大臣がトップなので、少なくとも日弁連のガイドラインを満たす「第3者委員会」として独立制・中立性に疑問符が付くことは自明だ。
総務省で事務次官に次ぐナンバー2の地位にある谷脇康彦総務審議官や山田真貴子内閣広報官(病気・入院を理由に3月1日、辞任。接待当時、総務審議官=国際担当)ら総務省の放送行政に関わるトップクラスの官僚との東北新社の接待の席には、菅正剛氏は必ず同席していたわけで、官邸内の〃身内〃の前で思わずぼやいたグチにしろ、菅氏のこの言い分は通らない。身内のなかにも、「おかしい」と思う人がいるので、このようなグチも外部に出てしまう。また、官邸内で「誰が漏らしたか」の〃犯人捜し〃が始まっているのではないか。
谷脇氏3回、山田氏1回、いずれも“NTT迎賓館”で
そんな中で、また放たれた「文春砲」。3日夕、文春オンラインが今度はNTTから、谷脇氏と山田氏らが高額接待を受けていた事実を暴露した。3月4日発売の週刊文春は「総務省幹部がまた国会ウソ答弁 菅首相最側近官僚にNTTが58万超絶接待」との見出しで、谷脇氏や山田氏のNTTとのズブズブの癒着ぶりを報じた。詳しくは週刊文春を読んでほしい。文春報道よると、山田真貴子氏は菅正剛氏ら東北新社幹部から1人あたり7万4千円の接待を受けた半年後の昨年6月4日、東京・麻布十番のNTTの関連会社が経営する接待用のレストランで、巻口英司総務省国際戦略局長と2人で、NTTグループの総帥、NTT代表取締役社長の澤田純氏らNTT側から1人5万円の接待を受けていた。
接待では1本3万8千円のシャンパン「ドン・ペリニヨン」や1本12万円の赤ワイン「シャトーマルゴー」が使われた。このレストランは、「NTTによるNTTのための迎賓館」で、会計は4人で33万円だが、4割引になり、計20万円。山田氏らはそれぞれ1万円を置いていったという。山田氏は2月25日、衆院予算委に参考人として呼ばれ、このときは「東北新社以外ともルールに基づいた会食はあった」と「ルールに基づいた」を強調する答弁をしていた。山田氏は28日の入院前に、周囲に「(接待は)1回だけなのに、そんなに飲んだり食べたりしていない」と自分が集中砲火を浴びることへの不満を口にしていたという。しかし、実際は1回だけではなかった。
好意的にみれば、山田氏は〃割り勘〃として1万円を払っているから「大丈夫」と思い込んでいたのかもしれない。それにしても、ワイン通といわれる山田氏が「シャトーマルゴー」の値段を知らないわけがない。東北新社の接待がかなり高額になった理由も高いワインを頼んだのからではないかと言われている(山田氏が頼んだとは思われないが)。差額1人4万円、東北新社の接待分と合わせて計11万4千円。こんな接待が繰り返され、まかり通るとは・・・。これでは、菅首相の庇護の下、子飼いの官僚たちはやりたい放題といわれても仕方がない。
収賄罪を適用される額50万円前後(元東京地検特捜部副部長若狭勝弁護士)からみれば、確かにまだ届かない。しかし、50万円というのは、検察官が持つ「起訴便宜主義」からくるあくまでも〃起訴基準〃にすぎない。単に額や回数だけでなく、その「悪質性」や「社会的影響」も配慮すべきではないか。当初「金額がやや足りない感じ」と言っていた若狭氏もその後、NTTからの接待問題の発覚もあり、「贈収賄罪は、行政がゆがめられてなくても、『行政がゆがめられる恐れ』があれば成立します。50万円以上が目安となりますが、総務省幹部が利害関係者とズブズブの関係にあるのは明白です。悪質性が高いため、(検察は)総合的に判断するものと考えられます」(3月5日、日刊ゲンダイ)とその見立てを軌道修正した。
山田氏絡みで、東北新社に新たな違反疑惑
山田真貴子氏には、3月5日の参院予算委で立憲民主の小西洋之議員の質問で新たな疑惑が明らかになった。
その疑惑とは、6日付朝日新聞朝刊によると、東北新社が2017年1月に高精細の「BS4K」放送の認定を総務省から受けた後、放送法が定める外資の出資比率の20%規制に違反していた。総務省は「そのことを認識していなかった」と答弁したが、認定を取り消していなかった。小西氏は「首相の長男が働いている会社だから、放送の認定を取り消さなかったのではないか」と追及。総務省の吉田博史情報流通行政局長は「当時の担当者に確認したところ、違反していると思っていなかったと聞いている」と説明した。さらに、「この問題の責任者は誰か」と問われ、吉田氏は「当時の情報流通行政局長の山田真貴子局長です」と答えると、委員会室からどよめきが起きたという。なぜどよめきが起きたのか。答弁に立った吉田氏は山田真貴子氏の夫だったからだ。
1998年に発覚した大蔵省(現財務省)でキャリア官僚が摘発された「大蔵省接待汚職事件」(いわゆる「ノーパンしゃぶしゃぶ事件、収賄で大蔵省幹部ら7人が逮捕・起訴)をきっかけにして、「国家公務員倫理法」ができ、割り勘でも「1万円以上は届け出」という倫理規定があるわけだから、「国民全体の奉仕者」として大きな逸脱があった場合は、厳しく処断されて当然ではないのか。ただ、政府もメディアも国家公務員倫理法の枠の中でこの問題をとらえているが、東京地検が捜査に乗り出すかどうかは別にして、本件は贈収賄事件の可能性がある問題である。このことを改めてもう1度確認しておきたい。
「再調査しない」官房長官は“山田隠し”
それにしても、3月4日の参院予算委での加藤勝信官房長官の、山田氏は「すでに退職した一般の方だから再調査はできない」との答弁はとても国民を納得させるものではない。収賄罪の時効は5年でその範囲内の接待なのだから、当然、徹底的に調査する必要がある。総務省の検証委員会でも山田氏のNTT接待は調査から外すつもりか。メディアは2月26日の6府県の宣言解除の首相記者会見をぶら下がり会見に変えたことについて「山田隠し」ではないかと批判したが、官房長官の「再調査しない発言」こそ、「山田隠し」であり、菅首相の「責任隠し」である。
5日夜、山田氏の後任内閣広報官の小野日子氏が緊急事態宣言2週間延長の首相記者会見の司会役としてデビューした。
午後9時からNHKで中継された記者会見は、1時間13分という菅氏にとって異例の長さの会見となった。小野氏は「自席からの追加質問はお控えください」と山田氏と同様の言葉を冒頭に発したものの、総務省接待問題については、質問側もぬるい内容だったが、主テーマの「宣言延長」については、甘すぎるといわれるかもしれないが、これまでの会見と比べて一応無難な会見だったといってもいいのではないか。
ただ、菅氏は会見中、幹事社以外のフリーの記者を含めた質問にも、その内容は別として一応、きちんと答えていたと思う。テレビで見る限り、菅氏はかなりプロンプターをみていたので、小野氏は各社の記者たちに質問内容を事前取材したのではないか。私は首相会見の司会は、記者クラブが主催しているのだから、クラブ側がやるべきだと考えていることは強調しておきたい。
小野氏は外務省出身で、菅首相の「後任は絶対に女性」という強い意向を受けて就任した。外務省は「利権にあまり関係がない官庁」との理由で選ばれたという。5日のA E R A dot.によると、官邸から急に指名を受けて「私がですか」と小野氏はメチャクチャ驚いていたという。抜擢された理由はほかにもあり、安倍政権時代、前任の山田氏と共に首相夫人の安倍昭恵氏が主宰した女性官僚の女子会に出席、お互いに意気投合。昭恵氏は14年5月29日のフェイスブックにそのときの模様をこう書き込んでいる。
<縦割り行政の弊害を打破するために、各省庁の女性たちの横のつながりを作っていきたいと思います。女子トーク炸裂でした・・・>
確か、冒頭部分は菅氏がよく使うフレーズである。昭恵氏のこの言葉は、何ともいいようがないし、その私物化にあきれるだけである。〃官僚女子会〃を批判するつもりはないが、仕掛けたその主人公はまた、お騒がせアッキーだ。本当にうんざりする。
情報通信のスペシャリスト、最重要な子飼い官僚
週刊文春が暴露したもう1人は谷脇康彦総務審議官。61歳。NTT側が山田氏以上に重要視している人物だ。菅首相が山田氏のクビをすぐにキレなかったのも、山田氏は首相が任用した内閣広報官であり、首相の任命責任を問われるからだとされてきた。もう1つの理由は、山田氏が辞めれば、谷脇氏に波及することを菅氏が恐れたと考えたのではないかともいわれている。
谷脇氏は菅首相の「天領」といわれる総務省での最側近であり、菅氏が首相就任当初から打ち出した「携帯電話料金値下げ」の〃旗振り役〃だ。いま、谷脇氏に辞められたら非常に困るのは菅首相である。だから、秋本芳徳情報流通行政局長ら2人は更迭したが、東北新社からの接待数や額は一番大きいのに、上司の谷脇氏は総務審議官のままとどめている。そのことを浮き立たせないためか、同じ総務審議官(国際担当)の吉田真人氏もその職にとどめた。担当局長以下2人が更迭されているのに、なぜ、谷脇氏は総務審議官のままなのか。不公平な処分を菅政権が堂々とやったのはなぜか。それほど、菅氏にとって谷脇氏の存在は重要だった。
谷脇氏は1984年、一橋大学卒業後、旧郵政省に入省。山田氏と同期。ウィキペディアによると、OECD(経済協力開発機構)事務局を経て、郵便貯金畑から情報通信分野に転じ、NTTグループ再編などを担当。郵政大臣秘書官等を経て、基礎的電気通信役務制度の創設や電気通信事業紛争処理委員会の設置などを担当する。2002年から在米日本大使館で「情報通信技術」政策担当参事官を務めた。総務省復帰後は、「2010年、新競争促進プログラム」や「モバイルビジネス活性化プラン」の策定にあたり、SIMロック解除、携帯電話インセンティブの廃止、仮想移動体通信事業者の新規参入などの施策を行い、業界では「谷脇不況」とも称された。 内閣サイバーセキュリティセンター副センター長を経て、16年から、総務省情報通信国際戦略局長。17年から総務省政策統括官(情報セキュリティ担当)、総務省総合通信基盤局長、19年から総務審議官(郵政・通信)。情報通信政策に詳しく、慶応大学大学院メディアデザイン学科特別招聘教授、東大大学院情報学環客員教授等も兼任する。規制緩和により、携帯電話、ブロードバンドなどの通信業界の競争を進める施策を行う。岩波新書「サイバーセキュリティ」など著書多数。 要するに、ゼネラリストではなく、情報通信のスペシャリストである。
次期次官人事絡み、更迭させぬ奇策も
谷脇氏は東北新社の問題が起きるまでは、「次期事務次官確実」といわれてきた。
総務省は2001年、中央省庁統合により、自治省、郵政省、総務庁の3つの官庁が統合してできた。総務省ホームページで17人の歴代事務次官をみると、自治省出身がやや多いものの、原則としては、自治省と郵政省の出身者が交互に次官を出してきた。現在の黒田武一郎事務次官は自治省出身で、郵政省出身者のトップである事務次官級の総務審議官の谷脇氏が今年夏の人事で黒田氏の後の次官になることは既定路線だったという。それが、今回の接待問題で谷脇氏が減給の懲戒処分を受け、次官就任は吹っ飛んだとみられていた。
週刊文春によると、しかし、「谷脇次官計画」は消えていないという。谷脇氏が62歳の定年を迎えるのは、来年の9月11日。懲戒が解かれ、承認可能となるのは、来年8月24日だから、定年延長をすれば、ぎりぎり間に合うのだという。あくまでも推測だが、菅氏はそういう思惑もあって、更迭しなかったのだろう。今回NTT接待の問題が新たに浮上したことで、まさかそれはあるまい。ここにも菅氏の人事掌握術が見える。自分のいうことを聞く子飼いは大切に、少しでも反対意見を言う官僚は飛ばす。組織にとって最悪な人事掌握術である。そのことを国会で野党に批判されても、菅氏は少しも改める様子はない。このような人物にとって、内閣人事局のシステムは有能な官僚つぶしの方向にしか機能しないのは自明である。
谷脇氏「応分の負担」と主張
NTTの接待問題で、谷脇総務審議官が接待を受けたとされたのは、文春によると、①山田氏がNTTから接待を受けた1カ月後の昨年7月3日、NTTデータの前社長岩本敏男氏と会食、一橋大1年先輩の金杉憲治外務省外務審議官(現インドネシア大使)、もう1人はネットビジネスを手がける経営者(飲食代合計19万3千円)②18年9月4日、総務省総合通信基盤局長に就任直後に直前までNTT社長だった鵜浦博夫相談役と(30万2千円)③その16日後の9月20日、NTT代表取締役社長の澤田純氏(8万7千円)—。会食場所はいずれも、山田氏と同じ東京・麻布十番の〃NTT迎賓館〃。飲食代金は総計58万円。ただし、4割引で谷脇氏は5000円を会費として渡している。実質は、3回の会食で約17万円。東北新社の4回約12万円を合わせると、計7回29万円となる。山田氏の計2回11万4千円と比べ約3倍の接待を受けたことになる。
5日の参院予算委で、谷脇氏は昨年7月3日の会食で支払ったのは5千円だったと明らかにし「応分の負担をした」との認識も示した。会食した飲食店のコース料理は多くが1万円以上。飲み物代は別。国家公務員倫理法の「利害関係者」であるNTTとの接待にあたる疑いが強まった。会食場所について谷脇氏は「メニュー表はなかった」と強調し、飲食費は「全体額は認識しておらず、会費として応分の負担をした」と主張した。4日発売の週刊文春は高級なワインや日本酒を飲んだと報じたが、谷脇氏は「食事、飲み物をいただいた記憶はあるが、おいしかったかどうかの記憶はない」と振り返った。(朝日新聞6日付朝刊)。指摘するまでもなく、「おいしかったかどうか」は違法接待問題では無関係だろう。
メディアは徹底的な調査報道を
野党による国会での追及はまだまだ続く。2日の衆院予算委では、総務省の原邦彰官房長は、東北新社による接待問題で調査した幹部12人のうち、1人がNHK役員とも会食していた事実を認めた。東北新社だけでなく、総務省と関係の深いNHKや民放、あるいは、民放の経営とつながる新聞社とはどうなのか。メディアはこの問題について、ことの展開によっては、自分たちの問題にもなり得ることを自覚すべきである。また、だからといって、報道に腰が引けることがあってはならない。このことについて週刊文春3月11日号のコラム「新聞不信」は「先を見通せないのか」でこう書く。
<(2月24日に東北新社の接待問題で)新聞は(11人の処分のあった)翌日の25日付朝刊で紙面を大きく割いたが、一連の疑惑が浮上してからかなりの時間がたっているのに、(各紙)同じことを書いている。(毎日も朝日も・中略)情報番組のコメンテーターが言いそうな記事を載せた。その隠された事実を明らかにするのが新聞の使命だろう>
〃文春砲〃で問題が明らかになったことは事実だ。「総務省接待事件」に関する一連の週刊文春の報道は、ジャーナリズムの一番大きな役割である「権力の監視」に従う優れたものである。だからこそ、その自負心から、このような厳しい新聞批判が書けるのだろう。
私は以前も書いたが、「新聞不信」氏と同じ認識だ。大手メディアはなぜこの問題で調査報道をしないのか。取材はしているのだが、いいネタが出てこないのか。問題発覚以来、1カ月以上もたつのに報道の仕方がかったるい。大手メディアは多かれ少なかれ「電波利権」の既得権者である。だからこそ、その不信を払拭するためにも、徹底的な調査報道でこの問題に応えるべきではないのか。もっと元気を出してほしい。それをしなければ、国民のメディア不信はさらに深まる。そのことを私は恐れる。