コラム「政治なで斬り」政権を担うためにはどんな準備が必要か 鳩山、菅、野田3政権の総括必要 

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 友人からくるメールや手紙には、政治や経済の閉塞感を憂い、政権交代を待望する声がしきりだ。日ごろ政治や経済に発言や行動を控えている人にも、不満や憂慮が広がっている。

 立憲民主党にとって衆院3補選、静岡知事選の勝利は、梅雨の厚い雲間から薄日が漏れたように見えるが、自民党の敵失によるものという感覚だ。まだ早いという謗りは免れないが、立憲民主党の前身である民主党が、歴史的な政権奪取から鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦の三代、わずか3年3カ月で消滅した失敗の原因を検証しつつ、政権交代を目指す側は何を心掛けなければいけないかを考えてみたい。

鳩山政権「308議席」の船出  

 政権が時々、交代することが議会制民主主義の正常な姿である。これまでとは違った立場の意見が、政治や行政に反映され、既得権を整理し政策を改革するうえで欠かせない。また新政権が広い支持を得ることは、官僚機構などの抵抗を排除するうえでも大事だ。ただし安定した経済状況ではなく物価高騰、正規非正規問題、貧富の格差、ゼロ金利など厳しい経済状況の中での政権交代になると、その後の政権維持も難しい。

 2009年8月30日、総選挙の結果、立憲民主党の前身だった民主党は劇的ともいえる308議席、支持率は70%、議席占有率は64・2%に達した。単一の政党が獲得した議席・議席占有率としては、現憲法下の選挙では最高である。政権交代への期待がいかに高かったかがうかがえる。自民党は公示前より181議席減り119議席となった。

 民主党は社民、国民新党との連立を得て、党首の鳩山紀夫氏が首相に就く。日本の議会制度上初めての政権交代である。

 鳩山政権は基本方針の中で、国民の政治へのやりきれないような不信感、政治・行政の機能不全とそれに対する強い怒りが、高い投票率になって政権交代を求めたと分析。「コンクリートから人へ」―公共事業重視の政治の脱却、子供手当の導入や公立学校の無償化、高速道路の無料化をマニフェスト(選挙公約)に据えた。

 政治の進め方では大臣、副大臣、大臣政務官が中心となった各省縦割りではない官邸主導で、効率化を打ち出した。安倍晋三政権のトップダウン型に似ているが、政策転換が軌道に乗るまでと期限をつけ情報公開もはっきり明示した。

 注目されたのは、税金の無駄遣いを廃する名目で始めた事業仕分けだ。公開の場で有識者が官僚に詰問することで、ムダを排除しようとしたが、注目されたほど削減額は多くなかった。ただし何年か続けていたら効果が出たはずである。

 鳩山氏は「宇宙人」の異名があり、説明や調整なしで突然、政治姿勢を転換した。また沖縄の普天間基地の移転にこだわり、結局、アメリカの不信と沖縄の期待の調整を残したまま、基地移転は断念に追い込まれた。結果を急ぎ、粘り強い外交交渉を怠った。鳩山首相と小沢一郎幹事長の資金問題も自民党からの攻撃材料になった。政権を目指す以上は、日ごろから「政治とカネ」には注意が肝心だ。相手を批判、攻撃するのは得意でも、批判されると結束して対応するのが不得手で、足並みが乱れ付け込まれたりした。そして熱気と期待が急速に萎んでいく。

菅政権は「消費税10%」発言で参院選敗退

 鳩山政権を継いだ菅直人首相は、市民運動家出身と異色である。1997年に18年ぶりに政権奪還をした英国のブレア労働党政権を研究した。菅氏の著書の「大臣」によると、ブレア氏から官僚をコントロールするかを学んだといわれる。

 菅氏も参院選に当たって、「消費税率を自民党が提案している10%にという数字を参考にさせていただきたい」と発言して党内が混乱した。同党は「衆院議員任期中に増税はしない」と打ち出しており、しかもこの発言は参院選さなかだったので結果は惨敗となる。  

 選挙と税の関係では、1998年7月の参院選の橋本龍太郎政権がよく話題に出る。早くから自民党の勝利間違いないとの予測もあって、橋下氏は増税の可能性に言及、地方出身の議員から選挙への影響を指摘されると二転三転、軌道修正した。結果は改選議席61に対して44議席の惨敗となり退陣している。自民党で「選挙に税はご法度」といわれるゆえんだが、内閣支持率が高いとどの首相もこの金言を忘れがちになる。自民党税調の幹部は当時、「橋本首相は霞が関改革を言っているので、財務省に甘言の一服を盛られ気が緩んだのではないか」と、言った。

 鳩山、菅両氏とも突然、課題を掲げたかと思うと政策変更をしたりして混乱した。福島第一原発第一原子力発電所のメルトダウンへの対応だが、たとえ自民党政権でも大混乱したと思われるが、政治のトップは「着眼大局、着手小局」の慎重さが求められる。

 菅政権を継いだ野田佳彦政権は珍しく与野党、官僚機構などとの調整を得意とした。また国家戦略会議では安定成長戦略や経済成長戦略を作っている。野田氏は、社会保障と税の一体改革を掲げ、消費税を2014年4月に8%、2015年に10月に10%とする一体改革素案に積極的で、民主党内では異色だった。

欠けているのは「執着心」と「責任感」

 党内の小沢一郎グループ50人がマニフェスト違反だと反対して、「生活が第一」を結成して離党、野田政権は一瞬にして求心力を失った。TPP参加問題の党内調整や尖閣諸島国有化など外交問題でも混乱を招いている。しかも続く自民党総裁の安倍晋三氏との党首討論の経緯から、12月16日の総選挙が決まる。結果は2009年に獲得した308議席から一気に57議席へと大激減、安倍長期政権に道を開いた。

 後になって小沢氏は国民との約束を破る消費増税強行に反対して、離党したことについて、「筋の通った行動だった。野田政権はもっとは議論すればなんとかできた。意見がまとまらないのに打ち切って党の決定にした」と語っている。

 また別の長老議員は「権力の立場にあったら、その土台を壊すまで喧嘩はしないものだ。それが基盤を崩すまで喧嘩をしてしまった」といった。欧米の議会政治を見ていても、政権維持への粘り強さが欠けていた感じである。

 立憲民主党の泉健太代表は、先だってBS-TBSの番組「報道1930」で、政権交代を目指す党の姿勢について「過去の民主党政権の反省として、あまり数多くのことを約束しない。また、官僚とも単に敵対関係ではいけないし、日米関係も継続から入り信頼関係を大事にしながら進めていく」と述べた。

                
 確かにその通りだろうが、民主党3政権を総括しその反省からいうと、表現に問題があるかもしれないが、昔の体育会系みたいに、「不撓不屈」とか「執着心」「責任感」など、広く協調し合う精神力を鍛えることが大事なように思われる。

                                 (了)