コラム「番犬録」第8回 自民党総裁選、高市早苗氏が逆転勝利 「解党的出直し」に程遠い派閥ボスによる〃旧態依然〃 親和性が高い自民党議員や党員が〃排外主義的〃な外国人政策などで高市氏に共感か 本当に「ガラスの天井」は破られたのか 「スパイ防止法」で参政党を巻き込むのか 「奈良公園のシカ」発言など高市氏の「スピーチ監修」は安倍氏の御用達ライターで「日本会議」会長か 交渉の行方は不透明ながらハマスが「人質全員解放」に同意 「ノーベル平和賞」受賞にこだわるトランプ氏

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 石破茂首相の退陣表明に伴う9月22日から始まった自民党総裁選。10月4日に投開票され、高市早苗前経済安全保障担当相が新総裁に決まった。15日召集で調整が進む臨時国会で、多数を占める野党が統一候補を立てない限り、高市氏は日本で初めての「女性首相」となる。「解党的出直し」を掲げて戦われた総裁選だが、12日間、メディアを独占しただけで、5人の候補者が持論を封じたこともあり、〃シカを蹴った外国人〃(高市氏)と〃ステマ選挙〃(小泉進次郎農相)という言葉が目を引いただけの内容の乏しい選挙戦となった。

 高市氏と小泉進次郎氏の2人がトップ争いをし、どちらかと言えば「小泉氏やや優勢」との報道が目立ったが、結局、高市氏が予想外の逆転勝利した。その背景には、自民党が7月の参院選で大敗した原因について、「リベラル寄りの石破政権の発足で、排外主義的な『日本人ファースト』を掲げた参政党に岩盤保守層を持って行かれた」との危機感(朝日新聞)が自民党内にあったようだ。このため林芳正氏以外(後に少し触れている)の各候補は当初から外国人政策の厳格化を訴え、高市氏は特に「奈良公園で外国人がシカを足で蹴った」など真偽不明の主張で危機感をあおり、それが地方議員らの心に刺さった可能性がある。また、高市氏は地方票掘り起こしのため、多数の保守的な自民党員を新たに獲得したことを地方票が増えた理由に挙げる政治ジャーナリストもいる。

 注目されるのは、4日の投開票後に流れたTBSの報道だ。TBSによると、政治部与党キャップの解説として、その背景には「党内で唯一の派閥を率いる麻生太郎最高顧問(元首相)の存在」があった。麻生氏は4日午前、周辺に決選投票では高市氏を支持する考えを伝えるとともに、1回目の投票では小林鷹之氏と茂木敏充氏に入れるように求めた。その上で、両氏に1回目の投票では協力することで決選投票では高市氏に入れるよう求める戦術だった。実際、茂木氏の陣営幹部は取材に「麻生さんとは貸し借りがあったので2回目は高市氏に入れた」。小林氏も敗戦の弁の中で高市氏に投票したと話した。こうした狙いが奏し、決選投票では予想外に高市氏が議員票を積み上げ、党員票と合わせて小泉氏を振り切った、としている。

 テレビ朝日のテレビ中継を見ていておなじみの田崎史郎氏が決戦投票直後の解説で議員票の票読みで「やはり、小泉氏がやや有利」と解説していたが、結果は間違いだった。その背景は、派閥が跋扈したこれまでの総裁選と同様、〃旧態依然〃とした派閥ボスによる票割りだった。事実上の「首相選び」なのに、何が「解党的出直し」なのか、と突っ込みたくなる。だから、「裏金議員」や「統一教会」問題で自民党はあいまいな結論しか出せない。

 高市氏は「裏金議員」について、選挙戦でも「自分が当選したらそれなりに処遇する」としている。萩生田光一衆院議員ら旧安倍派をどのように処遇するのか。役員人事や組閣を見守りたい。

 また、「初の首相含みの女性総裁」誕生ということで「ガラスの天井が破られた」と評価する識者も出ている。確かに、女性が米国に先立って日本の政治のトップに立ったという意味は大きい。だが、高市氏は伝統的な「家族主義的国家観」をベースに、選択的夫婦別姓、同性婚に強く反対し、男系男子による皇位継承などを支持する〃超タカ派〃政治家である。

 朝日新聞電子版によると、三重大の岩本美砂子名誉教授(女性学)は「ガラスの天井」を「組織内で女性の昇進を阻む存在があることを意味する用語」と定義。三つのタイプに分けた。①男性的な価値観に合わせ、男性と同じように振る舞うタイプ②女性と男性の利益に妥協点を見いだし、現実問題として解決を図り「女性」ではなく、「政治家」であることを強調するタイプ③男性中心の政治に挑み、女性政策を推進するタイプーの3つ。

 高市氏について岩本氏は、男性議員によって作られた規範や価値観に合わせてきた①に当たると見る。そして「女性の支持も一部にはあるが、旧安倍派を中心に、保守派が首相になってほしいという層の支持をまとめたのが実態。女性の貧困やしんどさについて考えている人たちに支持を広げてこそ『鉄の天井』を破ったといえるのではないか」と厳しい指摘。

 イタリアの女性首相、メローニ氏。2022年から首相に選ばれ先進国首脳会議(G7)でもおなじみだが、右派政党「イタリアの同胞」(FDI)、を結成し、現在も党首。若いころにはファシズム政党に参加したこともある。最近ではパレスチナ支援問題にも理解を示すなどリベラルな側面も打ち出していることから「メローニ首相を目指せ」との識者もいるが、どうだろうか。高市氏はそもそもファシズム政党の出身ではない。しかし、政策協議に前向きになるなど参政党と親和性もないわけではない。どちらにしろ、与党は少数派となり、相方の公明党からの高市氏の「強硬保守」への強い拒否感もあり、自民党の右傾化をけん制するために「連立離脱をほのめかす」(毎日新聞)との報道も出てきた。自分流の保守的な政策を打ち出すのは容易ではない状況である。いまは、この辺の力関係に期待するしかない。

 トランプ氏の和平案をめぐり、ハマス側が「人質全員解放」に同意するなどパレスチナ情勢は不透明ながら和平に向かって動いているように見える。今回は自民党総裁選が中心でパレスチナ情勢と「ノーベル平和賞受賞」にこだわるトランプ氏の姿などをフェイスブックで発信した。

▼総裁選、「排外主義を認めない」が最低限の条件

 国会議員を含め自民党員だけの選挙という意味での 国民不在の自民党総裁選。事実上の首相選びだ。だから、誰がなっても国民の生活に関係する。また、外交や安保もその影響ははかりしれないほど大きい。

 いまの5人の候補者に首相にふさわしい人は残念ながらいない。従って、あくまでも「消去法」だが、最低限の条件として、「排外主義」を認める、いや、煽るような候補者が選ばれたら、日本も確実に〃トランプ化〃の方向に向かう。いまは、自民党員の良識に期待するしかない。(9月29日)

▼「どこからでも手を合わせたい」高市氏のズルい靖国対応

 このような言い方が一番ズルい・・・。

 9月28日、フジテレビの番組での高市早苗氏の対応。(首相になったら靖国神社に参拝するのかについて)「(東京裁判での戦犯は)いったん刑を執行されて、その段階で日本国内でも罪人ではありませんよね」と述べた。

 その上で「だから私は手を合わせたいと思います」と言い「どこからでも、手を合わせたいと思っております」(日刊スポーツ)。

 問題は「どこで」にある。今回総裁選では〃封印〃したはずの「靖国参拝問題」。信念があるならば、奥歯にものがはさまった言い方ではなく、従来通り、きちんと主張したら、どうだろうか。断るまでもなく、私は首相の「靖国参拝」に中韓米のクレームがあるからではなく、憲法の「政教分離原則」尊重の意味で反対だ。首相には、厳しい「憲法尊重順守義務」が課せられている。(9月29日)

▼高市氏、参政党との政策協議に前向き 梅村氏も「実質的に援護射撃する」

 これは少しびっくりした。自民党総裁選に立候補している高市早苗氏は9月28日夜に配信されたユーチューブの番組で、参政党との連携について「この政策だったら一緒にやれる、ということを協力していくのは、立法府としての全体の責任だ」と述べ、参政党や日本保守党との政策協議に前向きな姿勢を示した(朝日新聞)。もしも、高市氏が総裁(首相)になったとしても、連立を組む公明党との関係もあり、党内をこの線でまとめることは容易ではないだろうし、少数与党として、他の野党も呼び込まなければ、とても、盤石な体制とはいえない。

 しかし、参政党側も、〃タカ派発言〃を繰り返す(総裁選では党員票を取りたいためにかなりトーンダウンさせてはいるが)高市氏なら政策協議を受け入れる可能性は大きい。特に「スパイ防止法」で、参政党を巻き込んで、国民民主や日本維新と連携することは大いにある。「スパイ防止法」はかなり昔のことだが、統一教会の関連団体「国際勝共連合」が全国で推進運動を繰り広げたが、反対が強く、「廃案」となった代物だ。なぜ、いままた登場するのか。

 右派月刊誌「WILL」10月号で、高市氏は「自民党は保守回帰する!」とのテーマで文章を書いているが、「自民党が保守政党ではなくなってしまった」「自民党が何をしたい政党なのか分からなくなった」との全国の遊説先で聞いた各地の声を紹介はしているものの、おそらく総裁選を意識したのだろう。肝心の「保守回帰」の内容に具体的なものはなかった。

 どちらかというと、同じ10月号の今回の参院選で維新から参政党入りして当選した梅村みずほ参院議員と作家の門田隆将氏との対談が興味深い。

 梅村氏は「高市氏は強い信念を持った政治家に見えます。そんな高市氏でも、自民党内や霞が関、オールドメディアからの妨害には苦戦を強いられるでしょう(中略)」と分析。その上で「参政党なら連立相手もしくは野党の立場から、自分たちの主張をしっかりすることで高市政権を実質的に援護射撃することができる。自民党にも百人単位で保守派がいます。一緒になって自民党をも動かしていきたい」と語っている。梅村氏は参政党の5人いるボードメンバーのひとりとしてリーダーの神谷宗弊代表を支えている重要幹部である。

 高市氏が総裁(首相)に選ばれれば、参政党も積極的に動くということなのだろう。やっぱり、参政党は自民党の旧安倍派を中心とした復古主義グループの〃別働隊〃のように見えてしまう。
 
 そうなると、日本は現在の「中道右派」の自民党政治から「国家主義的な右翼政党」に大きく舵を取ることになりかねない。そのような意味で、自民党を支持していない人にとっても、自民党総裁選の結果はとても他人事では済まされない。(9月29日 )

▼ノーベル賞ほしさのトランプ和平案 パレスチナに平和を!

 これはどうしてもノーベル平和賞がほしいトランプ米大統領の野望の表明だ。 平和賞の受賞者発表は10月10日である。

 パレスチナのガザ沿岸の〃リビエラ化〃などというおぞましい解決策をこれまで口に出してきたトランプ氏なので、そのように思われても仕方ない。

 トランプ氏がイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、合意を取った上で9月29日にイスラム組織ハマスとの停戦に向け20項目の包括的和平計画を示した。

●合意後、直ちに戦争終結、イスラエル軍は段階的に撤退
●合意から72時間以内にハマスが人質全員を返還。イスラエル側も拘束したパレスチナ人を解放
●ガザはパレスチナ人らの委員会が暫定統治し、トランプ氏の率いる機関が監督
●米国はアラブ諸国と連携し、国際安定化部隊を創設
●イスラエルはガザの占領や併合はしないし、住民がガザから強制的に退去させられることはない

(朝日新聞)

 20項目の和平案のうち、うち一応、ハマス側も受け入れられる可能性のある条件が並ぶ。ただし和平案は「ハマスはガザの統治に一切関与しない」とした上で、肝心の「二国家共存」の前提となる「パレスチナの国家樹立」は明記されていない。また、イスラエル軍の撤退は段階的とされており、ハマス側が求めている完全撤退はほぼ実現しないだろう、というのが専門家の見方だ。

 ハマス側はこの和平案を「検討する」としているが、トランプ氏は9月30日、ハマスに対し「3~4日以内」に回答するよう求めた。ハマス側がどう出るか全く分からない状況だ。しかし、和平案の内容は巧みにトランプ流のゴマカシがある上、どちらに転んでも、イスラエルの意向に沿ったものに見える。

 ただ、この7日でガザ戦争は2年になり、すでにガザでは、イスラエル軍の一方的な攻撃により約6万6千人もの人々が虐殺されている。また、地上戦も始まり、ハマス掃討を口実とした虐殺が続き、住民の飢餓状態も深刻化している。

 おそらく、トランプ氏も強調しているが、ハマスがこの和平案を拒絶すれば、これまでのイスラエル軍の残虐さを考えると、ガザはさらにひどい状況になる。

 地上戦が始まる時点でガザにいるハマスは2千~3千人と報道されていた。あくまで推測だが、さらに、少なくなっているのではないか。ハマスはいま「奴隷の平和」か大虐殺を伴う「戦闘継続」か、との厳しい決断を迫られている。これ以上、住民をひとりも犠牲にしてはならない。ハマスは、いったんは引いて、国際世論を味方に付けた話し合いによる戦いを再構築する時期にきているのではないか。このところの国連での「パレスチナ国家承認」の動きをみると、国際世論も少しずつではあるが、パレスチナ寄りに変化してきたように見える。さらに、それらの動きに期待したい。パレスチナに平和を―と心から願う。 (10月1日)

▼こだわり続けるノーベル平和賞 「米国にとって大きな侮辱」とトランプ氏

 「世界各地の紛争解決に貢献してきた」と自画自賛を繰り返すトランプ氏。やはりノーベル平和賞受賞はあきらめきれないようだ。

 9月30日の演説でトランプ氏は、受賞の可能性について「絶対にない」と言いながらも(受賞を逃せば)「米国にとって大きな侮辱になる」と強調した(読売新聞)。さらに「これまで類のない偉業を成し遂げてきた米国が受賞すべきだ」と改めて訴えた。 

 ノーベル平和賞の予想に定評があるノルウェーの国際平和研究所のグレーガー所長によると、「トランプ氏が地球温暖化対策の国際的枠組み『パリ協定』から離脱したことや各国に高関税を発動したことを挙げ、平和の促進に関心のある人物の姿ではない」と述べている(産経新聞)。

 この記事では、グレーガー氏は、記者への弾圧を調査する米非営利団体「ジャーナリスト保護委員会(CPI)」を受賞予想の最初に挙げた。CPIの受賞は「記者が情報を伝えられなくなれば、平和と民主主義は危機に瀕する」とのメッセージになると指摘した、と書いている。

 ニューヨークタイムズを提訴するなど、相次いで自分の気に入らないメディアへの「言論統制」を強めるトランプ氏。なぜ、ここまで受賞にこだわるのか。「平和賞は執務室に飾りたい至高のメダル」(コラムニスト、山中季広氏)なのかもしれないし、憎きあのオバマ氏ですらもらっているとの歪んだ対抗心もあるのだろう。

 「核なき世界の実現」を訴えたオバマ氏とトランプ氏では、平和についての思いや人間としての品格も、「世界での納得度」も全く異なると私は考えるが、皆さんはどう思われるか。(10月2日)

▼高市氏が総裁選に勝てば、日本会議会長になった谷口氏がやはりスピーチライターをやるのか

 本日発売の週刊文春10月9日号。自民党総裁選で小泉進次郎氏側近がライバルの高市早苗派の神奈川県内の党員を勝手に大量離党させていた、という記事が目玉だ。小泉氏は先に出た電子版記事について「著しく事実に反する」と文春側に訂正を求めるコメントを出すなど4日の総裁選投開票を目前に大騒ぎになっている。

 早速、コンビニで週刊文春を買い求めて、記事を読んだ。私が興味を持ったのは「大量離党させていた」という部分ではない。4ページのこの特集の後半にある「疑義続々高市鹿蹴りスピーチ監修は安倍御用達ライター」との記事にあった。

 「奈良公園で外国人がシカを蹴った」や「通訳の手配が間に合わず、不起訴にせざるを得ない話を聞く」との高市発言が根拠不明だと物議を醸している問題で、ツッコミどころ満載のこのスピーチを一体誰が考えたのか。 

 文春記事によると、高市氏周辺の話として、「故安倍晋三首相のスピーチライターとして知られた谷口智彦氏が演説文の監修を務めたと聞いています。安倍首相路線を継承する狙いがあるのでしょう」。

 そこまではいい。谷口氏は日経BPの記者や編集委員を約20年間も務めたジャーナリスト。現在、68歳。外務省の外務副報道官にスカウトされ、13年に内閣審議官に就任。安倍氏の施政方針演説の内容などを担当。19年には、安倍氏がロシアのプーチン大統領に向けて語った「ウラジーミル、二人の力で、駆けて、駆け、駆けぬけようではありませんか」との有名なフレーズも。

 文春は谷口氏に高市氏のスピーチを監修したかを直撃したが「そういうことは普通、誰も答えないでしょ」と軽くかわされている。

 高市氏はいまも、亡き安倍氏に心酔していることを隠さないので、谷口氏の「スピーチ監修」もありなのだろう。

 そこも大きな問題ではない。気になるのは谷口氏が「日本会議」の会長にことし7月から就任していることである。正直言って、私は谷口氏がそんな右寄りの人だとは知らなかったので、少し驚いた。

 高市氏応援団には、櫻井よしこ氏ら日本会議周辺のゴリゴリの右派系人物が多い。ウィキペディアによると、日本会議は右派から極右にあたる、日本最大の保守主義、ナショナリスト団体。高市氏が総裁選に勝てば、谷口氏はやはりスピーチライターをやるのだろうか。

 だから、どうした、とその界隈から言われそうだが、参政党も含め〃右な人々〃は大喜びだろうな...。最近の政治は驚かされることが多すぎる。(10月2日)

▼〃超タカ派首相〃誕生へ 訴える力があった高市氏の「自己PR演説」

 朝からとても嫌な予感がした。心の中にはかすかにその可能性はあるとも考えたが、まさかの結果だったー。

 今日の自民党総裁選。国会では多数派のはずの野党のまとまれない〃自主的辞退〃のため、事実上の首相を決めることになる可能性の高い党内選挙で、大方のマスメディアの予想に反して高市早苗氏が小泉進次郎氏を破り新総裁に選ばれた。

 首相含みの初の女性新総裁である。政治の世界で〃ガラスの天井〃が破られたと評価する人もいるのかも知れない。朝日新聞電子版は早速、「高市氏『女性を先頭に立たせて』初の女性首相へ、格差解消はなるか」の記事をアップした。それはそれでいい。

 故安倍晋三首相をこよなく尊敬し、総裁選では封印したはずだが、中韓だけでなく、米国の反発も呼びかねない首相の靖国神社参拝推進や復古主義的な「家族主義的国家観」を持つ「超タカ派総裁」の誕生である。

 午後1時から約2時間以上の〃政治ショー〃に必ずしも自民党支持者ではない私もメモを取りながらテレビ中継に見入ってしまった。

 1回目の投票では、過半数を占めた候補者はおらず、高市氏と小泉氏の決選投票へ。テレビ朝日を見ていたが、政治ジャーナリストの田崎史郎氏もテレ朝政治部長も議員票や党員票の分析で最後まで「小泉氏やや有利」と発言していた。ところが、フタを開けると、その予測はひっくり返った。その瞬間、思わずため息が出た。

 このような結果になったのは、やはり7月の参院選での「日本人ファースト」を主張する参政党の躍進に、もともと、思想的にも親和性が高い人が多い自民党の国会議員や党員が〃排外主義的〃な外国人政策などで高市氏に共感したのではないか。高市氏が総裁選開始時に所見としてアピールした真偽不明の「奈良公園で外国人がシカを蹴った」キャンペーンはメディアのファクトチェックにもかかわらず、けっこう、保守層に受けていた。また、週刊文春がやった小泉氏に対する「ステマ選挙」や「神奈川県連での高市派の党員を小泉陣営が大量離党させていた」との記事も小さくない影響があったのではないか。

 もうひとつ、これが一番大きいのだろう。決選投票の前の自己PR演説だ。

 「昨今、全国各地で厳しい声を聞く。(自民党を)野党の時も支え続けた岩盤支持層の皆様、保守層の方々からは特に厳しい声をいただいた」

 高市氏の演説は短い時間であったが「日本」や「日本人」という言葉を散りばめながら、聞く人に訴える力があった。これに比べ、小泉氏の演説は平板で内容が薄かった。これを聞いたとき「少しヤバいかな」と思った。高市氏の演説は、やはり安倍氏のスピーチライターだった日本会議会長の谷口智彦氏の監修だったのか。証拠はない。思想はともかく谷口氏はスピーチライターとして人を引きつける文章を書く才能にめぐまれた一級の人物である。

 こう書くと、小泉氏の支持者とみられるかも知れないが、別に小泉氏を支持していたわけではない。高市氏だけが「ノー」だった。総裁決定後の両院議員総会で石破氏が現役の総裁として述べた「世界は対立と分断で満ちている。いまこそ、連帯と寛容を」と訴えた言葉も今は何かむなしい。何とも嫌な時代になった。せめて自民党が少数与党ということだけが少しだが、希望が持てる。(10月4日)