今回は9月7日の石破茂首相の退陣表明が中心だ。7月20日の参院選投開票での自民党の敗北で石破氏が退陣するのは時間の問題だった。問題なのは、新聞を中心とした大手メディアの姿勢である。政治報道の中では、国政選挙で2連敗すれば、首相がその責任を取って退陣するのは当たり前と考えたのかも知れない。ところが、今回はその〃当たり前〃が世論調査で覆され、世論はどちらかと言えば「石破氏は辞める必要がない」が「辞めるべきだ」を上回った。多数を占めた野党が連立に向けて協議すらできない状況下で、「比較第1党」が政権を担っても世論の同意があれば、かまわないのではないか。多党化時代を迎えた日本の民主主義にとってこんな当たり前のことがなぜ、このような結論になってしまったのか。世界的には、欧州を見ても分かるように、国民の多様な考え方の広がりに伴い多党化はむしろ常識になってきている。
「石破氏降ろし」を仕掛けたのは、「政治とカネ」で問題となった自民党旧安倍派を中心とした〃裏金議員〃や〃統一教会汚染疑惑議員〃だった。それに、石破嫌いの麻生太郎元首相の麻生派などが乗り、大手メディアが加担する形で石破氏を引きずり降ろした。それが見え見えだったからこその世論の「石破辞めるな」ではなかったか。このメディアの露骨な加担は、国民のマスメディアへの不信感をいよいよ募らせたと思う。
参院選直後に起きた読売新聞と毎日新聞の「石破氏退陣へ」誤報問題。特に号外まで打った読売に対しては「政治報道史に残る誤報」(文藝春秋10月号「新聞エンマ帖」)との厳しい見方もある。だが、読売は検証記事を掲載し、「首相が辞意を周囲に明言したが、その後翻意した可能性があり、結果として誤報となった」として一応ではあるが、誤報を認め、関係者を処分した。これに対して、毎日は石破氏が退陣を表明した翌日の朝刊で読者にその経緯を説明しただけで誤報とは認めなかった。毎日では「誤報ではない」との意見はあるものの、学者やジャーナリストから強い批判の声が上がっている。私ももちろん批判派である。今回は石破退陣報道と誤報問題を中心にフェイスブックで発信した。
▼〃傲慢〃な読売新聞の検証記事 「虚偽の説明」の根拠は
これほど〃傲慢〃な「検証記事」をあまり見たことがない。あまりにもその内容がアリバイ的な表現であふれているからだ。読売が9月3日付朝刊で大々的に紙面展開した「石破首相退陣へ」の誤報報道を検証した記事を読んだ私の率直な感想である。
記事は、石破氏が「辞める」と周囲に明言したことを踏まえて報道したとし、その後、翻意した可能性が見つかった。だから「報道は当時、その可能性への思慮が足りず、結果として誤報となった」ので読者におわびする、と1面準トップのリード部分で書いている。まず、この部分でのけぞってしまった。「誤報」と認めたならば、もっとストレートに謙虚な姿勢で素直に検証すべきではないのか。これでは一体何のための「誤報の検証」なのか分からない。
さらに、特別面の「石破首相退陣報道の検証」の中で、「読売新聞は、石破首相の発言をもとに退陣意向を報道したが、首相はさまざまな場で『自分は辞めるとは言っていない』と繰り返している。こうした虚偽の説明をされたことから、進退に関する首相の発言を詳細に報じることにした」とわざわざ囲み記事で石破氏の「虚偽の説明」を強調した。確かに「辞めるとは言っていない」という部分はメディア各社が報じている。読売報道を受けて言った石破氏の言葉だが、「虚偽の説明」と言い切るだけの根拠はあるのか疑問である。
参院選で敗北した石破氏にマスメディアが民意だからといって退陣を迫ることについては必ずしも否定しない。ただ、特別版で石破氏が辞意を表明した根拠を具体的に列挙しているが、そのいずれもの根拠に「周辺」「周囲」というあいまいな書き方をしている。ジャーナリズムの「情報源の秘匿原則」から情報源を確定的に報じることができないことは理解できるものの、これらの匿名の証言が石破氏の本音なのか、確かめたのか。その辺の検証がない。
党内基盤の弱い石破氏が、大きくなるばかりの自民党内の「辞任」を求める声や新聞を中心とした「退陣要求」に日夜、頭を悩ませ、側近らに「退陣」をにおわすような言葉を漏らしたり、弱音をはいていたことは容易に想像できる。だからといって、一国の首相が本当に辞任の意向を固めたのかどうかは別である。
前にも書いたことを繰り返すが、誰を指すのか読者には分かりようのない「周辺」や「周囲」だけの証言で「月内にも退陣へ」と打つのは乱暴過ぎないか。私の知る大手メディアの政治部OBは、このケースの場合、首相本人か少なくとも幹事長の確認が必要だ、としている。検証記事では、毎日がニュースサイトで「退陣意向」をいち早く報じたことが読売も7月23日の夕刊や号外で報道するきっかけになったことをにおわせる書きぶりをしている。毎日が打ったので安心して読売も続いたということなのか。
その毎日のデジタル版が報じたのは「8月末までに表明」という記事。すでにその時期は過ぎた。9月4日朝刊は読売誤報について、共同記事を使用して自社記事は載せなかった。ただし、「総裁選前倒し、行方は」の記事の末尾にそれとなく「進退に決着がついたという状況に至っていません。引き続き取材を続け、結論が出た段階で一連の報道についてご説明します」と書いている。これではとても、読者を納得させることにならない。毎日は、一刻も早く検証記事をだすべきだろう。
読売は、公設秘書給与の不正受給問題で社会部が東京地検特捜部の捜査対象を間違えた検証記事を8月30日に出したばかりだ。今回の政治部の「石破氏退陣へ」誤報について、私も「誤報」ではないか、と指摘してきた。読売はドンとして独裁的な権力を振るっていた〃ナベツネ〃こと渡辺恒雄氏が昨年12月に亡くなって8カ月を超えた。読売で大誤報の連発はなぜ起きたのか。ナベツネに従順だったといわれ、今や上層部を支配している、とされる社会部出身のリーダーたちの〃タガ〃が緩んできたせいなのか。小林篤子・社会部長は「罰棒・更迭」、今回の川嶋三恵子・政治部長は「けん責」。この処分の大きな違いは何なのか。上層部のガバナンスを含めて改めて、少なくとも第三者を入れた委員会で再調査するべきは、企業不祥事でのガバナンス調査を主張してきたマスメディアにとって当然なことである。
コンプライアンス問題に詳しい元検察官の郷原信郎弁護士は当初からブログで読売の「石破氏退陣へ」報道を「誤報」と断じ、それにきちんとした対応をしない読売を批判し続けてきた。今回の検証記事についてもフェイスブックで厳しい意見を発信している。
「意向を固めたとの報道が結果として誤報になった」のではない。「意向を固めた」というのは本人の内心の問題、それを本人への確認もなく、「退陣へ」と報じ、号外まで出したのは、いかに弁解しても、明白な「誤報」。「ヨミウリ」は新聞社であることを放棄したということか。
読売新聞。これにどう答える。 (9月3日)
▼若い世代が突きつける「四つのダメ」と「日本人ファースト」
今日の朝日新聞朝刊「多事奏論」に原真人編集委員は、立憲の長妻昭氏が躍進した政党に投票した人たちの声を集めた分析結果を紹介している。
長妻氏は、そこから四つの「ダメ」が突きつけられたという。①既存政党はダメ②外国人や福祉に手厚い政党はダメ③社会保障の充実を言う政党はダメ④財政規律を言う政党はダメ―とし、これまで正論とみなされてきたことが若い世代にはことごとく受け入れられなくなっている現実が浮かび上がった、と書いている。
確かに、参政党が躍進した理由もその辺にある。原氏は「過去の政治の不作為が若者から逆襲されているということなのだろう」と結論している。
だからこそ心配なのだ。四つのダメを認めることは、「日本人ファースト」に象徴される「今だけ、カネだけ、自分だけ」という〃自分だけ政治〃に陷ることにならないか。9月8日の「石破降ろし」のための自民党総裁選を前倒しするかの投票。メディアは、こぞって石破氏側の敗北を予測している。若手議員からは「解党的出直し」の声が上がっているからだそうだ。まさか、「解党的出直し」とは、「日本人ファースト」の風に自民党も乗るということではないだろうか。とても心配だ。(9月5日)
▼〃犬笛メディア〃に引きずり下ろされた石破氏
石破氏は結局、古い自民党のボスたちと勝ち馬に乗りたい国会議員、〃犬笛メディア〃により、引きずり降ろされた。
石破氏は最近の首相には珍しい国会でのその真面目で丁寧な答弁ぶりと旧安倍派など党内右派から「左翼」といわれるほどのややリベラル寄りの考え方が国民から一定の支持を得ていたことも事実だ。「他の人よりはまし」と考えるふだんは野党支持の人々からも人気があっただけに残念だ。
何よりも、本人が一番落ち込んでいるのではないか。午後6時からの記者会見では、朝日は「会見場に現れた首相の顔はわずかに紅潮し、めがねを直す右手は震えていた」と書いている。しかし、私はテレビで見ていたが、朝日記者とは異なり、石破氏は会見の最後の方でめがねの奥から涙がにじみ出ていたように見えた。
テレビ報道では、昨日、小泉進次郎農水相が菅義偉元首相とともに、官邸で「このままでは自民党は分断される」と7日中に退陣するよう説得したという。政治ジャーナリストの田崎史郎氏は、翌8日のテレビ朝日のモーニングショーで、あたかもその場面に自分も立ち会っていたかのように断定的に小泉氏の業績をたたえていた。そうだとすれば、〃漁夫の利〃を得たのは進次郎さんということになるのかもしれない。(この後で、進次郎さんは〃説得工作〃を強く否定している)。
テレビの「停波命令」などと、総務相の時に口に出してしまうタカ派の高市早苗前経済安全保障担当相が首相になったら、何をするか分からないので、答弁能力などで危なっかしいところはあるものの「小泉進次郎首相」誕生は現実味を帯びてきたのではないか。
それにしても、野党第一党の立憲は本当にだらしがない。立憲こそ、「解党的出直し」が必要だ。地方での地道な政治活動から積み上げないと未来はない。
石破氏は、結局、「日米関税交渉」での一応の決着に道筋を付けただけで終わった。この問題ももともとトランプの無理筋の要求だった。それにしてはよくやったと思う。あれほどこだわっていた戦後80年の「首相談話」も空約束に終わるのか。まだ、退陣まで少し時間がある。どちらにせよ、こうなることは予想されていたが、何とも後味の悪い結果となった。(9月7日、8日)
▼ 新聞社説の「ようやく」や「ついに」で分かったこと 「石破氏降ろし」へのマスメディアの加担
昨日の「石破首相退陣表明」を受けた9月8日付の在京6紙の社説(産経新聞は「主張」)を読んでいて面白いことに気づいた。各紙ともに石破氏の「退陣表明」が遅すぎた「遅きに失した」ことや、それに伴い「50日間もの政治空白」が生じ、物価対策などに手を付けられなかったことを非難する内容は共通だったが、異なる点もあった。
それは社説冒頭の書き方である。読売は「石破首相がようやく退陣を表明する考えを表明した」とし、産経は「ようやく退陣を表明した」と書いた。いずれも「ようやく」という言葉が際立つ。一方、朝日は「ついに退陣を表明した」と「ついに」を使った。毎日、東京新聞、日本経済新聞はそれぞれ単に「辞任を表明した」にとどめている。もっとも、毎日はサイド記事の「クローズアップ」で「ようやく決着した」と書く。
「ようやく」も「ついに」もネット検索すると、「長い期間に努力が達成された」「待ち望んでいたことが到来した」というニュアンスがあり、私には、それまで新聞を中心とした大手メディアが「石破氏降ろし」に加担して「退陣要求」を強く訴え続けてきたことを象徴する表現に見えた。
私が社説の細かい表現にまでこだわるのは、なぜか。今回、大手メディアは、自民党と公明党の連立政権が7月20日の参院選投開票で目標よりも3議席少ない47議席しか取れず衆院に続いて過半数割れしたことから石破氏の責任を追及し、退陣を迫る〃政治部犬笛報道〃(ジャーナリスト・北丸雄二氏の東京新聞「本音のコラム」での言葉)が目立ったからである。
もともと、今回の「石破氏退陣」を仕掛けたのは、石破氏に恨みのある旧安倍派の〃裏金議員〃や〃統一教会汚染疑惑議員〃たちと見られている。それに派閥として唯一残っている麻生派が加わった「反石破連合」が画策したものと私は見ている。また、それが時がたつにつれ、石破氏支持がけっこう強かった自民党の地方支部にまで退陣を求める党員らの声がじわじわと浸透していったのは、追い詰められた石破氏の側近がこれらの動きに対抗するためにぶち上げた「解散総選挙論」が逆効果となったから、との政治ジャーナリストの分析もある。確かに、そうだとするならば、石破氏側にとって、これは〃禁じ手〃の非常にまずい対応だった、と思う。
だからといって、大手メディアがこれほど長い間にわたって「反石破派」の動きに加担したように見えるのは「選挙で負けたら退陣」という政治部的伝統はあるにせよ、石破支持の読者からみたら「偏っていておかしい」と思われるのは当然ではないか。ふだんは野党に投票するような人々などの間から「石破辞めるな」の声が高まり、世論調査で内閣支持率もアップし、「辞任する必要はない」との声が大きくなっていったのも、その辺にありはしないか。
「民意」はもちろん「選挙結果」の形で表れるだけでなく、「世論調査の結果」でも表れる。9月6日、7日に共同通信が行った世論調査。石破氏の退陣表明の後の紙面に掲載された(調査は表明前。毎日、東京)。その結果は「石破氏は辞任すべき」が44・7%、「辞任すべきではない」52・5%と相変わらず、「辞任すべきではない」との声の方が多かった。これも「民意」である。ただ、ポイントとしては、8月調査よりも、その差は10ポイントも縮まっていた。
▼毎日新聞は〃誤報〃と認めず
参院選投開票日直後の「石破氏退陣へ」報道の〃誤報〃問題で、読売は「結果としての誤報」を認める検証記事を出し、関係者の処分も発表している。同じ時に「首相は、自民党が8月にまとめる参院選の総括を踏まえ、同月末までに退陣を表明する意向を固め、周辺に伝えた」などと報じた毎日は8日付朝刊で「やっと」その経緯を紙面に載せた。結論部分だけ紹介する。
「当該報道をする時点で、首相本人が『政治空白』を懸念して報道を否定することは想定していました。しかし、記事の中で説明しておらず、読者の皆様を混乱させる結果となってしまいました。今回の報道への交流サイト(SNS)を含めた反響を教訓に、今後はより丁寧な政治報道を心がけてまいります。」
これは「検証記事」でもなく、定期読者でもある私には単なる言い訳にしか聞こえない。 (9月8日)
▼「右傾化歯止め政権」だった石破内閣 自民党は〃右旋回〃の総括
国会の衆参両院で自民党は過半数を割っているにもかかわらず、テレビでは「野党の連立協議はない」との前提で、朝から次の首相は誰かとの話題で持ちきりだ。連立協議もできない野党がだらしがないからだが、それにしても自民党による〃電波ジャック〃、何とかしてほしい。
そんな中で、自民党は10月4日に国会議員だけでなく、党員を含めたフルスペックの臨時総裁選を行うことを決定。総裁が決まるまでは毎日、一方的な野党不在の〃自民党翼賛報道〃が続くことになる。これはいつものことだから、仕方がないと言ってしまえば、元も子もないのだが・・・。おとといまで「石破辞めるな」などの声が国民のあいだで結構あったことは何だったのだろうか。
まだ全員が正式に立候補もしていないのに、次は小泉氏だとか、高市氏だとか、予想される5人の立候補予定者の品定めもテレビの情報番組で始まり、視聴率を稼いでいるようだ。そんなことよりも、私が気になるのは、石破政権の反動で自民党の右傾化がますます進まないか、という新たに浮上した問題である。
参院選の自民党敗北を受けて9月2日に同党が公表した総括報告書。「国民政党としての再生に向けて」との題で12ページにまとめられている。その中の「自民離れを招いたと考えられる経緯と要因」の部分が重要だ。九つの原因のうち①物価対策が国民に刺さらず、争点設定も不発だった②「政治とカネ」を巡る不祥事により信頼を喪失したーなど当然の敗因分析に続いて、「若年層・現役世代と一部保守層の流失、支持離れを生じさせた」との項目に私は注目した。
「一部保守層の流失」について①LGBT法の成立に対する不満②コロナ禍後の外国人観光客急増によるオーバーツーリズム問題、外国人の不動産取得問題ーなどが一部争点化される中で「自民党は左傾化している」「政府・与党は日本人よりも外国人を優遇している」などの疑念も一部世論に生まれ、他党へ流失することになったと分析。その上で「わが党への期待は失望へ、さらには拒否・忌避へ悪化し、今回は自民党へ入れないという声が各地で聞かれた。その受け皿となったのは参政党や国民民主党だった」と結論している。自民党の言う「解党的出直し」のスローガンの核心はここにあるのだと思う。この部分だけ取り上げると、少しはリベラル色のあった石破政権に対する「左傾化批判」を受けて右旋回するという〃総括〃だったと見ることもできる。
この辺のところについては、中国や韓国は敏感だ。中韓関係の回復。石破政権が日米関税交渉と並んで、地味ではあったが、頑張ってきた部分でもあり、私は評価している。韓国紙、朝鮮日報は「ポスト石破候補」の1人高市氏を安倍晋三元首相に近い保守強硬派の「女安倍」と紹介。小泉氏についても8月に靖国神社に参拝したとして「首相にだれがなっても韓日関係は後退する」(共同通信)と報じている。自民党の〃機関紙的〃存在だった産経も石破政権には冷たかった。だから、石破辞任表明後の社説に当たる8日の「主張」で「(石破氏は)家族の一体感を損なう選択的夫婦別姓の導入で煮え切らない態度を取り続けた。自民を長く支え続けた保守層が愛想を尽かしたのもやむを得まい」と踏み込んだ。
産経は「自民党の保守回帰」にもちろん大賛成なのだろう。しかし、リベラル的なことはかけ声だけでほとんどできなかった。あるいはしなかった石破政権。それでも世界的な潮流から見れば、珍しい「右傾化歯止め政権」だったのかもしれない。自民党は、もともと、憲法改正を党是とし、右派で復古主義派の日本会議国会議員懇談会の議員や統一教会に近い議員がうじゃうじゃいる政党であることを忘れない方がいい。〃参政党ショック〃の影響はやはり大きい。(9月9日)
(了)