参院選挙敗北の責任をめぐって自民党内の混乱が続く。一時は旧安倍派、旧茂木派など石破茂首相辞任を叫び、複数のメディアが首相の辞任を報じた。首相は正面から否定し続投の意向だ。政治は党改革をはじめ多難な問題を抱えており、いつまでも政治空白を続けていられない。
石破降ろし劇で注目されたのは、野党支持層とみられるグループが「石破辞めるな」のプラカードを掲げてデモをしていたことだ。また新聞の世論調査では石破首相の続投への賛成が反対を上回った。その極めつけは、自民党支持層の多くが石破続投支持で、世論と自民党内の辞任派が二分されていることもその後、明らかになっている。
ただこうした結果は突然表面化したものではないようだ。テレビのワイドショー番組などが早くから石破降ろしと裏金問題をセットの関係で取り上げていたので、裏金問題の根の深さが理解されたのではないか。
石破降ろしは、ロッキード事件(1975~76年)当時に似た展開になっている。田中角栄前首相(当時)の逮捕を認めた三木武夫首相(同)が自民党内から「三木降ろし」に遭遇した。当時の世論も「三木降ろし」を「ロッキード隠し」として批判、三木氏は世論と、「議会の子」であるという信念でこの危機を切り抜けている。半世紀後の石破首相は党内最小グループで麻生元首相、岸田前首相に退陣を促されたが拒否するなど、三木政権に似たところがある。ともに力になったのは世論の支持である。
現在に戻って、ここに来て石破降ろしは下火になりつつある。いまは少数与党の立場だから、世論の動向にこれまで以上、神経を使わざるを得ない。党の組み合わせ次第で野党に転落することが起こりうるからだ。
「世論に聞け」とよく言われるが、これは多くの人の見方や判断には間違いが少ないからだ。また世論は政治のトップにいる人物の人柄、真剣さ、本気度などを瞬時に見分ける力があるといわれる。したがって石破氏が世論の動向に関心を持つのは大事なことである今回石破支持派も反石破派もSNSなどを駆使した。ただ駆使の仕方に違いがあり、石破支持派は、SNSを通じて「辞めるなデモ」の日程やデモの動員連絡などに多用している。
一方、右派グループは石破氏個人に攻撃を集中させた。特定の人物に焦点を絞って多角的に批判することで、その集団全体のイメージを落とすという手法だ。かつてドイツのヒトラー政権の宣伝相ゲッペルスが編み出した手法という。例えば参院選で日本保守党で当選した北村晴男氏は、「醜悪としか言い様が無い」などとX(旧ツイッター・Twitter)に集中して投稿している。もはやここまでくると誹謗中傷の類といえるだろう。
オールドメディアといわれる新聞は、政治が混乱すると首相辞任、次の総裁選びという政局劇に走りがちだと言われる。しかし今回でいえば、裏金問題は政治改革、党改革にとって大事な局面だった。辞任、総裁選びという流を追うのではなく、政治、党改革の議論をリードすべきではなかったか。日本の政党政治を一皮むくためには、ここが大事な局面だったと思われる。昨年の衆院選、東京都議会選挙、参院選の三つに負けたのだから首相が責任を取るのは当然ということになり、責任は辞任することで、新しい総裁選びだと一気に、政局に駆け上ろうとした感じがした。
ここで石破政権に失政があったかチェックしてみてみよう。まず外交ではトランプ関税をめぐって、日米交渉が危ぶまれたが15%の線で合意された。まずまずというところではないか。高額療養制度では政府の方針がぶれるなど問題があった。逆転国会で一番懸念されたのは、2025年度予算案審議だったが、結果は年度内に成立した。価格高騰では小泉進次郎農水相は備蓄米を放出して低価格米を市場に浸透させ価格を下げている。
もう一点見逃せないのは、少数与党の中で、国民民主党、日本維新の会、立憲民主党が補正予算や本予算や関連法案などの政策協議を進めるなど、新しい政策協議のパターンが生まれつつある。こうした経緯を見てくると、少し甘いかもしれないがそれなりに評価されるのではないか。
総選挙や参院選挙についていえば、選挙は結局、旧安倍派の裏金問題が有権者から不信感が示されたと言える。関係議員の処分もまだ徹底されず、問題解明にも消極的だ。有権者の一番の不満や不信は、国民はしっかり税金を納めているのに、政治家にはさまざまな恩典や特典あっても、いずれも改革のメスが入っていないことである。もう一点は今回の旧安倍派の石破批判のように、自分たちの失態は脇において石破批判に集中したのも不評だった。
国内総生産(GDP)の60%は国民の消費だ。賃金は上がっても物価はそれ以上に上がり、賃上げの実感が感じられないといわれる。最近、ひとり親世代は一日二食が40%もいるという調査結果が発表された。物価高、党改革を急ぐ必要がある。自民党政治というのは、もう少し国民生活に気配りをする政治だったように思われる。
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