新聞労連や民放労連など九つの労連でつくる「日本マスコミ文化情報労組会議」(MIC、南彰議長)はこのほど報道関係者を対象に行ってきた「報道の危機アンケート」の結果(概要)をまとめて発表した。その中身は現場の悲痛な声に満ちあふれている。その実態は、現場だけでの抵抗では何の解決にもならない状況に、日本のメディアが追い込まれているといえる(アンケート結果の概要は固定ページに掲載しているので、現場からの声を読んでいただきたい)。
報道の自由を阻害する放送局幹部
MICは2月26日から報道関係者を対象としてオンラインによるアンケートを実施してきた。まだ募集は続いているが、「安倍晋三首相が緊急事態宣言を発した4月7日以降、回答数が増えた」として概要をまとめ発表に踏み切った。その一部は何社かのメディアで紹介されたが、PDFでまとめた本文を読むとあらためて深刻さが浮き彫りになってくる。
4月21日現在の回答数は214(有効回答)。うち放送局社員が41・6%と半数近く、新聞社・通信社社員は22%。次いで放送局の関連会社等が12・1%、過去に新聞社・通信社に勤めていた9・8%となっている。放送局社員が圧倒的に多いことから、彼らが日々さまざまな圧力を受けていることが分かる。
その証拠に「あなたは現在の報道現場で『報道の自由が』が守られていると思いますか」との問いに、全体では57・9%が「守られていない」と答えている中で、新聞・通信社系現場の回答は46・3%なのに対し、放送局系現場は59・1%と6割に達している。そして報道の自由を阻害している要因は何かとの質問で、新聞・通信社系現場は70%が「政権の姿勢」と答えているのに対し、放送局系現場はなんと90・4%が「報道機関幹部の姿勢」と答えている。新聞・通信社系現場の回答が何となく建前的と感じられるのに対して、放送局系現場の9割の声は具体的であり、極めて切実だ。これは安倍政権の攻撃対象が主にテレビに代表される放送メディアにあることを物語っていると思える。
現場だけでは抵抗できない状況に
アンケートに示された現場の声に対して、外野が「抵抗しろよ」というのは簡単であり、SNSでは実際にそうした上から目線の意見が散見される。しかし、現場だけではどうしようもない状況は、コロナ禍で突然生まれたものではない。有名な「国境なき記者団」が2002年から毎年発表している報道の自由度ランキングで、日本は第2次安倍政権になって極端に下がっている。最高順位は2010年の鳩山由紀夫内閣時で11位だったのに対して、2013年からの安倍政権では53位(13年)から72位(16、17年)に極端に下落。20年は66位に「上昇」したが、喜ぶほどの順位ではない。
2013年から7年あまり。新人記者は中堅になり、記者クラブのキャップはデスク、デスクは部長、部長は編集幹部にと階段を上り、フリーランスの記者が活躍した「悪夢の民主党政権」(安倍首相の口癖)時代を知らない世代がメディアの中心を占めるようになったことが、今日の状況を招いていると思える。
アンケートについてMICは「報道機関幹部の姿勢に対する危機感が強く浮き彫りになった」とし、報道現場で働く仲間の命と健康や権利をしっかり守る姿勢を早急に整えるよう求めている。MICの次のような言葉をメディアに関わる者は現役であれ、OBであれかみしめることが大事だろう。
「感染防止」を理由に対面取材が難しくなったり、取材制限が始まったりしていますが『大本営発表』一色に染まった戦前の報道の過ちを繰り返してはなりません。『こんな状況だから政府を批判すべきではない』という考え方こそ、間違いをスピーディーに正す機会を逸するおそれがあり危険です。批判すべきと考えたことは臆せず批判することが大切です。