原子力規制委員会は7月29日、日本原燃が青森県六ケ所村に建設中の使用済み核燃料再処理工場の安全対策が新規制基準に「適合」しているとの審査書を決定した。各種のメディアでは「1993年の着工以来、相次ぐトラブルなどで延期されていた再処理工場は完成に近づいたが、前途は多難」との趣旨の論調で報道していたが、規制委は審査書で「不都合な真実」を隠している。これを認識しているメディアもありながら、追及はあまりにも不十分だ。しっかりと報じているのは東京新聞ぐらいだ。ここでもメディアは「ムラ」の世界にどっぷりはまり込んでしまっていないか。
ネックの高レベル廃液処理
核燃料再処理をあらためて簡単に説明すると、全国の原発から運ばれる使用済み核燃料をせん断して濃硝酸で溶かし、リン酸トリブチルを使ってウランとプルトニウムを取り出す(ピューレックス法)。その時に出てくる燃料被覆管は低レベル放射性廃棄物(TRU廃棄物)として処理、残る不溶残渣や硝酸系の廃液は高レベル放射性廃棄物(廃液)として処理されることになる。たった一滴(0・05ミリリットル)でも致死線量の7000ミリシーベルトとされる廃液であり、安全のためにガラスと混ぜて溶かし、ドロドロになった溶融ガラスを専用の容器に入れて冷やすことで固化体にし、地層に10万年ほど処分しようという考え方だ。だが、この固化体が満足に作られていない。廃液は今も危険な状態のまま貯蔵されている。
再処理で出てきた高レベル廃液は貯槽というタンクに「一時保管」されている。この廃液をガラス固化する方法について、日本では「LFCM法」という手法を使っている。一方、フランスなどで使われているのは「AVM法」というものだ。
日本原燃はまだ施設全体が完成していない2006年度から08年度まで、原発から送られてきた実際の使用済み核燃料425トンを使って「アクティブ試験」なるものを実施した。試験では実際にプルトニウムを抽出することができたというが、問題はガラス固化がうまくいかず、試験で出てきた廃液の6割以上が実験から14~15年経っても貯槽に溜まったままになっていることだ。
原燃によると、ガラス固化できたのは07年に57本、08年から13年にかけて289本。だが再処理で出てきた高レベル廃液のうち64%にあたる223立方メートル(固化体430本分)は未だに高温のまま「貯槽」に残っている。崩壊熱が高いため貯槽内に冷却管を入れ24時間冷却しているが、電源喪失して冷却機能が失われ、温度が上昇すると廃液が沸騰し、「蒸発乾固」という状態になると、原燃も規制委のヒアリングで認めている。
一部のメディアは書いているが……
10万年間地層処分する以前に、なぜ固化させないのか。というより、なぜ固化体を作れないのか。その理由は、マスコミに知らされていないわけではないようだ。7月30日付の毎日新聞「検証」では『核再処理工場正式「合格」』という記事の脇見出しに『難関「ガラス固化体」』とうたっている。
その記事では「溶かしたガラスを混ぜて『ガラス固化体』にする作業の装置ではこれまで、廃液中の貴金属がノズルに詰まるなど、トラブルが相次いだ」と書かれている。毎日ほどではないが、読売新聞も29日付紙面で「(規制委の)検査前には高レベル放射性廃液をガラスで固める試験中、設備のトラブルが起きた」と簡単ではあるが触れている。
このトラブルが2013年以降、ガラス固化体づくりができないでいる理由であり、規制委と原燃が審査の対象から外してまで隠したい「不都合な真実」である。原子力規制庁もやむを得ず「直ちに大事故が起こると想定していない」などと釈明しなければならなくなった。
実はフランスなどで行われているAVM法では同様の事例は報告されていない。AVM法では、高レベル放射性廃液をいったん仮焼きして乾燥粉末にしてから溶融炉に投入。ガラス原料と混ぜて、電子レンジ方式の高周波で加熱し、ドロドロになった溶融ガラスを固化体容器に入れる。
一方LFCM法では、廃液をそのままビーズ状のガラスと一緒に溶融炉に投入。電気で加熱するが、温度が不安定になるため棒を入れて撹拌、さらに溶融ガラスの上部に「仮燃層」を設けて熱の一定化を図っているという。AVM法に比べて溶融炉そのものが大きいため、炉はセラミック製の耐熱レンガでできているが、撹拌棒は曲がってしまい、そのせいかどうかは不明だが、炉内のレンガが崩れ落ちたり、炉の底に白金族系の貴金属が積もって、ノズルを詰まらせてしまった。
東海再処理施設でも同じトラブル
実は六ケ所だけの問題ではない。日本原子力研究開発機構(旧動燃)の東海再処理施設でも同じことが起きていた。東海施設では1996年からガラス固化を開始したが、2014年中断。16年に再開したものの白金族の堆積で再び中断。19年にあらためて再開したが、7本製造したところでトラブルが発生し、みたび中断したままになっている。未処理のまま貯槽に溜まっている高レベル放射性廃液は338立方メートルと六ケ所より多い。
この装置も六ケ所と同じLFCM法だ。というより、東海の溶融炉をそのまま大きくしたのが六ケ所の溶融炉である。同機構が18年に東海再処理施設の廃止措置計画を発表した時の発表文では「(東海施設が)再処理技術の国内定着に先導的な役割を果たした」と自賛。六ケ所への技術移転はほぼ完了したとしていた。つまりトラブルもそのまま「移転」したということになる。
「蒸発乾固」、その次は?
貯槽内には2系統の冷却管が入っているが、長期間の全電源喪失など何らかの原因で冷却水が流れなくなることは、あり得ない話ではない。原燃によると、貯槽内の温度が上昇して廃液が沸騰、蒸発。液中に溶解している物質が残って固まるという。これを「蒸発乾固」と説明する。ただ実際に蒸発乾固からどうなるのか、規制委側もこれまでの審査で質問したようだが、原燃側から納得できる回答を得たのかあいまいにしたままだ。蒸発乾固が起きる際には、プルトニウムなど核分裂性の元素を含む放射能を帯びたエアロゾルが廃液から飛び散るはずだが、これについての明快な回答もない。そもそも原燃の想定では、冷却喪失事故は蒸発乾固までとしているだけで、過酷事故が起こらないという判断自体おかしい。
高レベル放射性廃液のガラス固化の構造的な欠陥の処理こそ、安全対策上最大の課題であり、基本設計にかかわるとして新規制基準を明確にするべきだが、規制委は対応しようとしていない。そもそもアクティブ試験は旧安全委時代に旧規制基準で行われたものだとして、今回の審査の対象外としたままだ。使用前の事業者検査など、後段の規制に先送りするとしている。
臨界事故か、水素爆発の恐れ
だが、7月14日付の東京新聞のスクープで明らかになった、溶融炉で発生した廃液とガラスを混ぜた破片約160キロが長期間にわたって不適切に保管されていたという事実は、規制委が原燃をヒアリングして明らかになったものである。この他にも高レベル廃液150リットルの漏えい、廃液濃縮蒸発缶温度計腐食による廃液漏えいなどが明らかになっているが、いずれも「アクティブ試験の扱いは決まっていない」(原子力規制庁職員)として、先送りしたままだ。
溜まっている廃液の中に核分裂性のプルトニウムが混ざっていることは規制庁も認めているが「1リットル当たり6グラムを超えなければ臨界しない。臨界しない設計になっている。長時間の電源喪失でも臨界事故は発生しない」(6月17日、環境団体との交渉で規制庁職員)と決めつけている。
では、東京電力福島第一原発のような水素爆発はどうか。実は原燃の2011年報告で示した貯槽冷却が失われた場合の想定について、規制委はこっそり修正している。原燃報告では「最も早い沸騰開始時間は24時間後、水素の爆発濃度に達するのは約8時間後」としていたのを、18年の新規制基準では沸騰開始時間は変わらないが、水素爆発濃度は「84時間後」と大幅に繰り下げている。その理由は(ガラス固化が進まず)貯槽内の廃液冷却期間が当初の4年間から15年に大幅に伸びたためという。それでいて、アクティブ試験は審査の対象外だ。
こうした事実にもかかわらず、審査書は「再処理の事業を的確に遂行するに足りる技術的能力を有する」と言い切っているが、それでいいのか。
フランスに施設作ってもらうほか……
できもしない再処理計画など、さっさと止めろと言いたいところだが、そう言えないのがガラス固化体製造。巨大地震・津波や巨大火山噴火で長期間にわたる全電源喪失が起こらないとは限らない。このままでは、よほどのブレークスルーを待つか、AVM法に移行しない限り、危険極まりない高レベル放射性廃液は貯槽に溜まったままになる。日本がAVM法を購入できなかったのは、核兵器につながる再処理技術を移転することができなかったためだという説がある。このためのオールジャパン体制であり、NHKの好きな言葉である「日本の優れた科学技術」で何とかなるという幻想だ。当然、関係者は不都合な真実を分かっているはずだ。フランスにとっては枯れた技術であるAVM法を頭を下げて輸入し、ブラックボックスのまま施設を造り、今あるものだけでもガラス固化体にして、次世代に委ねる以外に道があるか。
なおかつ、ガラス固化体の製造は1万点といわれる再処理技術のひとつでしかない。どこに行くのか、彷徨い続けるだけではないだろうか。