安倍晋三首相はなぜ辞任表明に追い込まれたのか。第一次内閣の時と同様に、森友、加計学園問題や桜を見る会、検事総長人事などが相次ぎ、新型コロナウイルス禍が追い打ちをかけた。晴れの舞台になるはずだった7月の東京五輪は吹っ飛び、コロナ対応を巡り批判が渦巻いた。全世帯に2枚ずつ配布する布マスクも「アベノマスク」と揶揄され、「エイプリルフールか」との声も出た。コロナ禍が持病の悪化をもたらし、展望もあるわけではなく、ついには政権を放り出したというところだろう。一説には海外で憶測されているが、安倍が辞めたのは健康よりも、トランプ米大統領から日米安保条約の廃棄を通告されたからだとの見方もあった。
世界から警戒される「菅政権」
自民党は「ポスト安倍」を目指して一斉に動き出した。最新情報では官房長官の菅義偉が出馬宣言をするらしい。他の候補が来週だとのんきなことを言っている裏を突いたようだ。幹事長の二階俊博、安倍も菅を推していることから、流れは一気に決まりそうにみえる。「ゲッペルス政権」の誕生といったところだ。
ポスト安倍の有力者の一人の菅がやってきたことは、内閣の人事権を握って、各省庁をはじめ法制局長官や最高裁判事、宮内庁長官、国税庁長官、検事総長まで息のかかった人物で固めようとしたことだ。気に入らない者は放り出すが、決して左遷はさせず、必ず1階級特進させていたそうだ。KGBやCIAまがいのことをやってきたが、この辺がうまいところでまた、恐ろしいところでもある。ナチス政権のゲッペルスとかアイヒマンと言われるゆえんらしい。冷徹、沈着で優秀かもしれないが、法治国家、議会政治、民主主義、基本的人権、三権分立、貧富の格差、そして非正規雇用問題をどうするかとかという課題に感覚のない、権力の職人のような人物だ。こういう人をトップにしたら、日本及び日本人は周辺諸国をはじめ世界中から大いに警戒されるのではないか。
伝統の統治システム崩壊
しかし来年秋までには総選挙が控えている。菅を首相に担いで選挙ができるだろうか。「菅首相」の下で総選挙を実施すれば、金権選挙になる可能性もある。本格的な日本再生の改革論議は、その先になってしまうだろう。「小人、天下を取れば災禍並び起こる」(大学)という状況が、また続くことになりかねない。
一説に防衛相の河野太郎ではないかという見方もある。新首相が誕生したらすぐ総選挙をやらせるというのだ。新内閣の課題に話題を集中させて、「アベ政治」の検証とか反省などは過去のものにしてしまおうという思惑だ。石破茂は副総理などで処遇する。元首相の小泉純一郎以来、政治は意外性の連続で来たから大いに要注意だ。安倍周辺が考えそうなことでもある。検察やマスコミの反撃を恐れている感じもする。自民党の伝統の統治システムが壊れかけているともいえる。
アベ政治の総括・検証
まずアベ政治を総括、検証をしないといけない。次にポスト安倍の日本はどのような課題があるのか、ポスト安倍の候補者も語らないといけない。自民党執行部はそれなしに一気に首相争いに話題を転じたいようだが、きちっと8年を総括すべきだ。メディアもそれが大事だ。そしてアベ政治のいいところがあるとすれば継承してもいいが、まず人心一新が大事だ。それが振り子の理論と言われてきた。60年前、安全保障条約改定を押し切った安倍の祖父の岸信介から、「所得倍増」を掲げ経済に重点を移した池田勇人への首相交代のような転換が、今回、できるのだろうか。(敬称略)