コラム「政治をなで斬り」自民党総裁選は菅氏が独走態勢 野党合流新党は現状打破できるか 巷に渦巻く不満や批判  

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 安倍晋三首相の後継を決める自民党総裁選は、菅義偉官房長官(71)が独走状態に入り、石破茂元幹事長(63)、岸田文雄政調会長(63)を大きく引き離している。菅氏は国会議員支持の割合の8割に迫り、全体、党支持層ともに圧倒的な首位に立った。菅氏は党内7派閥のうち5派閥を固め、無派閥の議員も大半が菅氏に流れたようだ。総裁選は14日の両院議員総会で投開票が行わるが、菅氏の勝利は動きそうになく、次期首相に菅氏が選ばれる可能性が大きい。

安倍政権引き継ぎ強調する菅義偉氏

 共同通信の8、9両日の世論調査で、次期首相に「誰がふさわしいか」と尋ねたところ、菅氏が50・2%に達し、石破氏の30・9%、岸田氏の8・0%を大きく引き離した。党支持層では67・3%と断トツだった。

 自民党総裁選に立候補した3氏は8日、党本部で演説会と共同記者会見に臨み、政権構想を示した。菅氏は「安倍政権の経済政策を引き継ぐ」とアベノミクス継承を強調した。石破氏は「グレートリセット」として社会変革を主張し、防災省の必要性を指摘した。岸田氏はデジタル時代を取り込んだ成長戦略再構築を唱えた。

 菅氏は10日、地方の自民党員とのオンライン会合で「豊臣秀長になりたいと思ったが、今は秀吉を目指している。途中から、そうなってしまいました」と語った。秀吉を補佐した弟の秀長から秀吉に乗り換えて、「天下取り」を目指す思いを吐露した形だ。

 菅氏を立志伝中の人物のように持ち上げて紹介するメディアもある。菅氏の公式ホームページには、『プロフィール / PROFILE 「すが義偉物語」』と題して、漫画入りでプロフィールが紹介されている。

 それを紹介すると、「すがちゃんは、秋田杉に囲まれた自然たっぷりの秋田県雄勝(おがち)町で生まれた。農家の長男として、家の手伝いをしながら高校を卒業」『「東京で自分の力を試してみたい」と思い立ち、家出同然で上京する』「入学後もアルバイトを続け、これまたさまざまな職場で働き、学費を稼ぎながら大学を卒業」。

 だが、菅氏の父親は地元の農業組合の長を務め、町会議員にもなり、姉は高校の教師だった。「豊臣秀吉を目指している」という菅氏は、「今太閤」と言われた田中角栄元首相をどこか意識しているようだが、貧農の出身で進学もできなかった田中角栄とは違う。

「10%動かせば政治は変えられる」

 巷には不満や批判が渦巻いている。剣道や居合の仲間と話していても政治や政治家に対する批判が出てきている。こんなことはなかった。

 「自民1強体制」の打破を訴え、立憲民主、国民民主両党が結成する新党に参加する意向を表明しているのが、元自民党で無所属の中村喜四郎元建設相だ。その中村氏は「10%の人を動かせば政治は変えることができる」と指摘し、「投票率を上げるには、保革伯仲のカギとなる108万人が動いてくれたら(与党に肉薄できる)」と述べている。

世論調査の数字と庶民の実感との乖離

 中村氏を知る元政治部記者は、次のようにこう話す。少し長いが、紹介してみる。

 「中村氏の言う通りだと思います。世論調査で表れる数字と、庶民の実感は相当乖離していると思います。自分一人が力んでもどうせ何も変わりはしないというあきらめ、過激な人と思われたくないので無難なところを答えておこうということなかれ主義、こういった風潮が現体制支持という結果を生んでいます。しかし、本当のところ現状に満足している人が多いとは思えません。それなのに投票率が低いのは、二つ原因があると思います」

 「一つは、野党共闘が進まず、一人区での候補者一本化が出来ないこと。どの選挙区でも、野党候補者の得票を一本にまとめれば、自民党候補者より多く、野党候補者を1人に絞れば勝てるのですが、それが出来ません。枝野も玉木も政治理念、路線の違いなどと子供みたいなことをいうだけで、本気で汗をかいていません。どんなご立派な政治理念を持とうと、政権を取らないと実現できないのですから、まずは小異を捨てて大同につき、政策の違いはその後で調整すれば済むことです。それなのに、結局は合流できず、失望した国民は立憲民主党の支持率を4%にまで下げ、国民民主党に至っては1%しかないありさま。選挙区の投票数の4分の1程度しか取れなくても勝てる自民党の高笑いが聞こえるのみです」

新聞の不勉強、やる気のなさ

 「二つ目は、メディアに現状を変えようという意欲も情熱もないことです。世論調査では、百年一日のごとく、『支持する政党は?』と聞きますが、こう聞けば、めぼしい野党がない以上、自民党と答えざるを得ない人が多くなるに決まっています。いい加減、設問を変えて、「あなたは現在の生活に満足していますか」『それはなぜですか』『何を変えたいと思いますか』と聞けば、庶民の不満がきちんと反映されるはずです。どこかおかしいと思いながら、なんの改善もせず、従来手法を繰り返すだけの新聞の不勉強、やる気のなさが、結局は政権与党を助けている事実にどうして気が付かないのでしょうか」

 「もし、巷間言われているように10月25日に投開票なら、まだ少し時間があります。小沢一郎、中村喜四郎氏らが先頭に立って、共産党を含む野党共闘を実現、全選挙区での野党候補一本化を進めてもらいたいものだと願います」

果たして秘策はあるのか

 立民、国民両党などが結成する合流新党の代表選では、立民の枝野幸男代表(56)が初代代表に選出された。得票率は7割を超え、陣営が「圧勝」の目安とした3桁の大台に乗った。党名は投票の結果「立憲民主党」に決まった。

 その前日の9日、立民、国民両党などで結成する合流新党の代表選に立候補した国民の泉健太政調会長と立民の枝野氏による日本記者クラブ主催の公開討論会が行われた。討論会の質疑で枝野氏は、各種世論調査で立民の政党支持率が一けた台前半に落ち込んでいる点を指摘されたのに対し、「手の内を言うわけにはいかないが 支持率について我々なりの分析データを持っている」と答え、“企業秘密”があることを匂わせた。果たして秘策が繰り出され、現状打破に向け新党の一体感を盛り上げる体制づくりに全力を挙げることができるだろうか。