「菅首相長男の違法接待問題」総務省局長と長男の生々しい会話録音 「文春砲」が音声公開して炸裂 放送行政はゆがめられていないか もはや「疑惑」では済まない

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 「文春砲」が再び、菅義偉首相の長男の総務省幹部との接待問題で炸裂した。何度も国会でこの問題で答弁に立った秋本芳徳総務省情報流通行政局長が昨年12月に会食した際、週刊文春がその模様を直接、取材・録音しており、週刊誌発売前日の17日午後4時すぎ、文春オンラインで記事と共にその音声を公開した。

衛星放送の話題は「記憶にございません」

 秋本局長は、衛星放送など許認可に関わる総務省情報流通行政局のトップで、文春が音声などを公開する少し前のこの日17日午後2時すぎ、衆院予算委員会で立憲民主党の後藤祐一議員から、昨年12月10日の会食での会話を問われて、以下のように答えていた(17日の朝日新聞デジタル「政治タイムライン」)。

 後藤議員「スターチャンネルに限らず、東北新社の事業について話があったのか」

 秋本局長「東北新社様、スターチャンネルの事業が話題に上ったことはないという風に考えております」

 後藤議員「BSとかCSという言葉はどうか」

 秋本局長「東北出身者あるいは親御様が東北出身者の懇談会という位置づけでございまして、BSやCSについて話題に上ったという記憶はございません」(筆者注=秋本氏は福島県出身、菅首相はご承知の通り秋田県出身)

 後藤議員「放送業界全般についてはどうか」 秋本局長「放送業界全般の話題が出たという記憶もございません」

 18日発売の週刊文春2月25日号「菅長男『ウソ答弁』証拠音声を公開する」によると、2月13日にも文春記者に「首相長男の菅正剛氏(東北新社の総括部長、同社の子会社「囲碁将棋チャンネル」の取締役を兼ねる)と会食中、東北新社の業務の話やCSやBSなど衛星放送の話をされていたのでは」と問われた秋本氏は「していません」「していないです」ときっぱり否定していた。

 「記憶にございません」。45年前の1976年のロッキード事件でも、同じ言葉が国会の証人喚問で繰り返された。事件の規模こそ異なるものの、当時、検察担当だった筆者にとっては、何とも懐かしい言葉だ。考えてみれば、元首相の田中角栄氏を追及し失脚に追い込む端緒となったのも、立花隆氏が月刊誌「文芸春秋」に発表した「田中角栄研究」だっだ。このときも「大手メディアは一体何をしている」と批判されたことを思い出す。

「放送業界やBS、CS」の話を再現した文春報道

 今回の週刊文春の報道では、秋本局長が強く否定する菅正剛氏ら東北新社側との会食での「放送業界やBS、CS」の話が生々しく再現されている。証人喚問ではないので秋本氏が議院証言法に問われることはないが、国会で虚偽答弁を繰り返していたことになる。

 この会食は秋本氏が国会答弁した2月17日から2カ月少し前の話で、「記憶にございません」で済まされない。結果として、「国権の最高機関」としての国会を愚弄したことになる。確かに、「官僚の人事支配」を自著で自慢するほどの菅首相の長男に会食に誘われたら官僚は断れない、ということは理解できる。

 「総務大臣時代、プラプラしていた」(週刊誌インタビューでの09年6月当時の菅首相の言葉)長男を総務大臣政務秘書官にし、自分の秋田県出身の人脈を生かして長男を就職させた。その先が、総務相に許認可の権限のある衛星放送などを手がける東北新社だった。

 会社は長男を総務省への「接待要員」として重用した。人脈を生かすことを否定はしないが、そもそも、政治家が自分の息子を利害関係がある会社に就職させたこと自体が間違っていたのではないのか。菅首相には、この点でも反省する姿勢はない。この点からも菅首相と長男は全くの「別人格」というわけにはいかない。

 この問題が発覚したのは、週刊文春が2月11日号「菅首相長男、高級官僚を違法接待」 とのスクープを放ち、昨年10月から同12月まで総務省の許認可を受けて、衛星放送を運営する東北新社の総括部長の菅正剛氏が上司とともに、許認可権のある総務省ナンバー2である谷脇康彦総務審議官、吉田真人総務審議官(国際担当)、秋本氏の部下である情報流通行政局官房審議官の湯本博信氏と秋本氏の4人と4回も会食した。文春は「利害関係者」との会食は国家公務員倫理法に基づく倫理規定違反に当たる可能性、と報道していた。その後、国会でもこの問題が追及され、この幹部4人は、総務省の調査で菅正剛氏ら東北新社側と16年以降、延べ12回会食し、直近の会食ではタクシー券や手土産を受け取ったことが明らかになっている。

 週刊文春2月25日号によると、昨年12月10日 夜、菅正剛氏と東北新社の子会社「東北新社メディアサービス」の木田由起夫社長が東京・六本木の小料理屋に秋本局長を接待した。週刊文春は複数の記者を付近の座席に張り込ませて、3人の会食での会話の内容聞き取り録音した。

 公開された録音は、聞いてみると、確かに言葉が不明瞭な部分は多いものの、その雰囲気は伝わってくる。文春は 他の客の声や雑音を専門業者に依頼して、除去し解析を進めたという。メディアの取材でここまでやるとは驚きである。文春取材のきめの細やかさにはいつも脱帽だ。

便宜供与におわす長男の「あんないい仕事を」

 解析された音声を元によみがえった放送業務に関する3人の主なやりとりは・・・。

 当初、正剛氏は秋本局長に対してお互いの出自である東北地方の話や家族の話題などを如才なくふっていく。秋本氏も2016年からの会食(国会答弁、総務省調査は16年7月から4回)でなれ親しんでいるせいか、「気心を知れた関係をうかがわせる」と文春は書く。会食は午後6時15分ごろから始まり、午後7時40分、木田社長が「吉田さんがなんかうちの岡本さんの面倒をみてもらっているみたいで・・・すみません」というと、秋本氏は「ああ」。木田社長「すみません。本当にすみません」。正剛氏「あんないい仕事」というと、秋本氏「いえいえ」と答える。

 「吉田さん」とは、総務省吉田総務審議官のことで、「岡本さん」とは、11年から18年まで株式会社「囲碁将棋チャンネル」社長をつとめた岡本光正氏のこと。岡本氏は現在、業界団体の一般社団法人「衛星放送協会」の専務理事だという。この記事では、吉田氏が岡本氏にどのような面倒をみたかまではわからない。正剛氏の言う「あんないい仕事」の内容も不明である。ただし、吉田総務審議官が岡本氏を通じて会社側に何か便宜を図った可能性があることを想像させる。

「どっかで一敗地にまみれないと」と局長も発言

 そして、話題は〃本丸〃に近づいていく。正剛氏が口火を切った。「今回の衛星の移動も・・・」。木田社長「どれが?」。正剛氏「BS、BS。BSの。スター(チャンネル)がスロット(帯域)(を)返して」。木田社長「ああ新規の話。それ言ったってしょうがないよ。通っちゃてるもん」。正剛氏「うちがスロットを・・・」。木田社長「俺たちが悪いんじゃなくて、小林が悪いんだよ」。

 これに対して秋本氏は間髪をいれず「そうだよ」と同調した、という。専門用語が多く、言葉が途切れているので分かりにくい。正剛氏が「今回の衛星の移動」と述べる背景には、旧態依然とした衛星放送業界に新風を吹き込むため、新規参入を推進する動向がある。その旗振り役が会話の中に出てくる17年8月から18年10月まで総務省政務官をつとめたNTTドコモ出身の小林史明衆院議員だ。
 正剛氏の「スター(チャンネル)がスロット(を)返して」というのは、政府がBS放送への新規参入を進めるため、既存業者のスロット(帯域)が縮減されたことを指しているとみられる。さらに秋本局長は小林議員について「でもどっかで一敗地にまみれないと、全然勘違いのままいっちゃいますよね」と語っていた。

会食中の音声の一部を認める

 総務省は2月19日、衆院予算委理事会で週刊文春が報じた会食中の会話の音声データについて、音声の一部については、秋本局長のものと認めた。認めたのは、小林議員に関する部分。首相長男らが放送事業に関して発言している部分については、秋本氏が総務省の聴取に「記憶にありません」と説明していたことを明らかにした(朝日新聞2月19日付朝刊)。片方だけ認めて、放送事業に関する発言は「記憶にない」と否定する。おそらく、放送事業に関わる発言があったとすれば、自分の職務権限に関わってくるからではないのか。また、小林議員の発言については、これだけでは、正剛氏に迷惑をかけないと〃忖度〃した可能性がある。総務省は22日までに改めて4人から詳しい事情を聴き、国会に報告するという。

 コロナ禍で「勝負の3週間」のはずの2時間15分の会食で、白ワイン2本があいていたという。正剛氏は秋本氏にはお土産の高級チョコとタクシーチケットを渡した。最後に木田社長は「あの人、政治家になれる人だからね」とひとこと。正剛氏は「そうですね」と答えていた。

検察の出番ではないのか

 素人にはまるで、暗号のような会話だが、菅首相の息子で、菅氏が総務相時代の政務秘書官だから、民間人でも次官並の総務審議官や担当局長と会食できるのだろう。ふつうならば、「よく食い込んでいる」と上司から褒められるところだが、衛星放送の許認可という職務権限がある担当局長や総務審議官とこのような形で会食をすること自体、国家公務員倫理法の規定だけではなく、刑法の贈収賄罪にも触れ、事件に発展する可能性すらある。

 自民党は、正剛氏の国会招致を「民間人」を理由に拒否している。全容解明には、とても政権の身内の総務省や人事院の内部調査で済ます問題ではない。武田良太総務相は16日の国会で、この問題について「放送行政がゆがめられたのではないか」という野党の指摘に対し、「ゆがめられたとは一切、考えていない」と反論した。その上で、4人の処分に言及した。4人を行政処分で済ますつもりらしい。また、肝心な部分について、総務省は「調査中」を理由に答えていない。この問題はもはや「疑惑」では済まない「事件」である。東京地検特捜部の出番ではないのか。

次の文春砲におびえる政権

 最後に大手メディアにひとこと。この問題で大手メディアは、国会での経過を一応伝えているものの、独自の調査報道の結果のネタが全然出てこない。調査報道を始めているのかも伝わってこない。3日の発覚から2週間以上が過ぎる。各社の問題の深層に迫る報道に期待する。週刊文春は2月25日号の記事の締めくくりにこう書いている。

 「武田総務相は国会で『放送行政がゆがめられたことは全くない』と強調したが、本当だろうか。小誌では、蓄積した取材記録のさらなる解析を進めている」

 2月24日午後4時すぎに更新される文春オンラインには、どのような「文春砲」が出るのか。政権はこれにおびえている。