NTTが野田、高市両元総務相ら政務3役にも高額接待 中立性・独立性高い「第三者委員会」で徹底検証を
おそらく、総務官僚や自民党の「電波・通信族(以前は『郵政族』といった)」の国会議員は週刊文春が放つ〃文春砲〃におびえているのではないか。特に毎週水曜日の夕方、インターネットに載る文春オンラインの動向については、気にせざるを得ないはずである。
一連の週刊文春報道をみると、そのターゲットが「首相の長男」や政権の目玉政策「携帯電話料金の値下げ」をキーワードとする菅義偉首相その人にあることは間違いない。
政治家まで拡大した接待事件
第一発目は、首相の長男が絡む放送事業会社「東北新社」による子飼いの「内閣広報官」を含む総務省トップ官僚への違法接待だった。続いて政府が30%もの株を持つ日本最大の通信会社「NTT」による総務官僚への接待。そして、今回はそのNTTの内部文書を基に自民党幹事長代行の野田聖子氏や衆院議員高市早苗氏という総務相経験者や菅氏の右腕で、無派閥有志でつくる「ガネーシャの会」のメンバーとして菅氏に総裁選出馬を求め、菅氏の立候補表明の会見では司会を務めた、お気に入りの坂井学官房副長官(当時、総務副大臣)まで直撃する事態となった。
総務省接待事件は、官僚だけでなく、これで政治家にまで広がった。
自民党は、国会での野党の追及をかわすことに必死だが、検察がまだ動かない以上、(市民団体などからの贈収賄の疑いでの告発は出ているので、検察はこれを無視できず、いずれ結果が出るはずである)、国会での国政調査権を使った関係者の参考人招致は当然だ。その一方で、身内の入った総務省による「検証委員会」などではなく、客観的、公正な立場からヒアリングやパソコンやスマホなどのデータを電子的に解析する「デジタルフォレンジック」などを駆使した事実認定をきちんと行い、原因究明や再発防止策をも提言する中立性・独立性の高い「第三者委員会」(名称は「検証委員会」でもいい)での調査によって、徹底的にそのウミを出し切ってもらいたい。
急きょ「第三者委」で調査へ
武田良太総務相は、2人いる副大臣のうち、当初から「情報通信」を担当する新谷正義総務副大臣をトップとした検事出身の弁護士ら第三者も入った委員会を立ち上げることでお茶を濁そうとしていた。ところが、野党側からの「副大臣や職員がメンバーとなると、客観性や透明性が担保されない」との当然の批判に追い詰められて3月12日になって、態度を変え、委員全員を「第三者」とすることに方針を転換した。
新谷副大臣については、週刊文春3月18日号が「ことし1月6日にNTTからの接待が準備されていたが、2度目の緊急事態宣言が現実味を帯びる中、キャンセルした。店への予約は入っており、秘書がその6日前に〃迎賓館〃で接待を受けていた」と暴露している。新谷氏は「接待を受ける」はずだった。そのような人物を「接待事件」の検証委員会のトップなど、元々とんでもないことだったからである。
そもそも、総務副大臣は場合によったら、この問題では、当事者になり得る濃厚な関係者である。どこからみても、中立性・独立性の高い「第三者」とはいえない。そのようなポストにあった人物を委員に据えるだけで「第三者委員会」としてはアウトである。
厚労省「統計不正」調査の検証を教訓に
2019年、厚労省の「統計不正問題」のときに、監察本部長たる厚労大臣の下に設置された毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会そのものの中立性・独立性への疑問が初めから指摘されたことを思い浮かべてしまう。このとき、政府は第三者性のほとんどない委員会を設置して世論をなだめようとしたが、その手は二度と通用しない。
今回も、政権は同様のことを考えて、政権の都合のよい方向に誘導し、何とか事態を乗り切ろうとしたのではないか。厚労省の「統計不正」の特別監察委員会の報告書については、私もメンバーとして参加している「第三者委員会報告書格付け委員会」(久保利英明委員長)が格付けした結果は、「A」「B」「C」「D」という4段階では「評価できない」という「問題外」を意味する「F」判定を9人の全員一致で決めた。そして、「新たな委員会をつくって再調査すること」を求めたが、再調査は実現されなかった。今回も、総務相の当初方針のままでは、同じ誤りが繰り返される恐れがある。しかし、まずは「検証委員会」にどのようなメンバーが選ばれるのか、どのような報告書が出るのか、しっかり見極めたい。
「検証委員会」が最低限、日本弁護士連合会(日弁連)のガイドラインの「利害関係を有する者は、委員に就任することはでききない」との委員の選任基準にきちんと沿った委員で構成される委員会かを見極める必要がある。まずはそこから始めるしかない。「事実認定・原因分析・再発防止策」という報告書の内容も重大で、形だけの「第三者委員会」(これを「名ばかり委員会」と呼ぶ)ならば、問題の真相究明はできず、その結果は期待できない。「東北新社」[NTT」「NTTデータ」とこの問題で登場する企業も多岐にわたり、さらに、新たな疑惑が浮かぶ可能性も捨て切れない。できるだけ、事件の真相や全体像に迫る報告書を期待したい。
国会では、武田総務相自身もNTTの澤田純社長らとの会食に応じたことがあるのかが焦点となっている。3月12日にも立憲民主党の小西洋之議員が繰り返し追及した。これに対して武田氏は「国民に疑念を持たれるような会食や会合に応じることはない。何度も答弁している」と答えている。しかし「NTTからの接待を受けたことはない」とは言わなかった。武田氏が野党から疑われるのは、歴代の大臣や政務3役が軒並み、NTTからの接待を受けていたことが分かってきたからだろう。もし、現役の総務相まで接待を受けていたら……。政権に与える衝撃は大きい。
「接待ではない」、あきれる4政治家の弁明
3月10日夕、文春オンラインは、野田氏や高市氏ら元総務相に対して、NTTが接待をしていたと報じた。11日発売の週刊文春3月18日号によると、野田氏は17年11月と18年3月の2回、いずれも総務相在任中に、それぞれ立川敬二・元NTTドコモ社長、村尾和俊NTT西日本社長(当時)からNTTの東京・麻布十番にある〃迎賓館〃で接待を受けた。立川氏は野田氏と同じ岐阜県出身だった。また、高市氏も19年12月と20年9月の2回、NTTの澤田純社長から同じ場所で接待を受けた。坂井氏や寺田稔衆院議員も副大臣だった時期に、澤田社長らから接待を受け、総務相退任後などを含めると政治家計15人の接待が内部資料から確認できたとしている。
政治家は国家公務員倫理法の公務員倫理規定が適用されないが、国務大臣規範は、大臣、副大臣、政務官が①関係業者からの供応接待を受けること②職務に関連して贈り物や便宜供与を受けること—などを禁じている。しかし、なぜか、罰則はない。官僚には懲戒処分があるのに、政治家の方は責任を問われないのはおかしくないか。
朝日新聞デジタル(12日)によると、4人は11日までに、会食は認めたものの、いずれも「接待ではない」と反論している。
野田氏らの弁明内容は以下の通りだ。
野田氏は2回の会食を認めたうえで「プライベートな会合という認識だった」と説明。会食は、野田氏の地元・岐阜県の「県人会有志の懇談会」や、NTT西日本の支店長交代あいさつが目的だったとし、「接待」ではなかったとの認識を示した。一方、2回のうち、1回はNTT側の支払いだったとして11日、自らの飲食代2万6150円を返金したと明らかにした。
高市氏の事務所によると、会食の前にNTT側に会費を尋ねたところ1万円と伝えられたという。高市氏は、会費とは別に飲み物代なども想定し、2回とも5500円のお土産を会食相手の3人分持参していた。報道を受けてNTT側に2回の会食の会計額を確認。実際にはコース料金だけで1人2万4千円だったといい、支払った分との差額分として計7万3885円を10日に支払った。高市氏は10日にホームページで大臣在任中は、総務省の関係団体や関係事業者と会食を伴う意見交換をする際は全て「割り勘」とするか、全額を負担していたとして「『接待』は受けていない」と反論。「先方と取り決めた『割り勘』の会費を超えるような食事や飲み物が出されていたとしたら約束違反だ」として差額が生じていた場合はNTT側に返金する意思を示していた。
18年6月、坂井氏は篠原弘道NTT会長から接待を受けた。寺田氏は、20年9月に澤田社長から接待を受けている。寺田氏の事務所も会食はNTT側の支払いだったとして11日に寺田氏の飲食代を返金したという。
このほか、内部資料にあった国会議員の名前は、大臣経験者が新藤義孝氏と佐藤勉氏の2人。副大臣経験者は、西銘恒三郎氏、山口俊一氏、柴山昌彦氏、小坂憲次氏(故人)、上川陽子氏の5人。政務官経験者は、世耕弘成氏、小林史明氏、藤川政人氏ら過去7年間で計15人、延べ41件に及ぶ。その多くがNTT側は、酒代込みで3万〜5万と設定したものの、ワインやシャンパンを空けるので料金は跳ね上がるという。
野田氏ら4人とも「一部は払った。返金した」との見苦しい弁明だ。要するに、ゴチになったが、あくまでも「接待」ではなかった、ということらしい。こんな言い訳が社会常識として、果たして通用するのか。永田町の非常識というが、あきれるしかない。
贈収賄の可能性あるが、簡単ではない「立件」
今回の政治家への接待をどのように見るか。おなじみの元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は「起訴されるかどうかは接待の回数や金額で決まる(以前、若狭氏はその額を50万円程度)としていた」との前提だが、政務3役として職務権限を持つ者が接待を受け、その席で職務権限に絡む話が出ていれば、何も請託(お願い事)がなくても単純収賄罪に該当する可能性がある」(週刊文春3月18日号)という。また、元検事の落合洋司弁護士は「接待とは〃もてなす〃ということだ。完全な割り勘ならば、〃もてなした〃や〃もてなされた〃とはいえないが、一方が払い、もう一方が払わない場合、さらには、一方が10のうち8,もう一方が2を払った場合、〃もてなし〃になるだろう。そうした点について、実態に即して見なければならない。その上で、野田、高市両氏のNTTとの会食は贈収賄に当たる可能性がある」と指摘している(12日、ヤフーニュース)。
若狭、落合両弁護士とも「贈収賄」の可能性を指摘するが、「立件」はそう簡単にはいかなそうだ。くりかえしになるが、国会議員は、国家公務員倫理法の適用を受けず、国務大臣規範には罰則もないため、懲戒処分もできない。国会の参考人招致程度で済まされる可能性もある。
菅氏とNTTの利害が一致
今回のNTTによる接待問題の背景には、2018年8月、当時、官房長官だった菅氏が携帯電話料金について「今後、4割程度下げる余地はあるのではないか」といった発言をして通信業界に激震が走ったことにある。20年9月、首相に就任した菅氏は政権の目玉政策として「携帯料金の値下げ」をぶち上げた。このテーマは菅氏の持論で、その主張の理論的バックボーンを作ったのは、菅氏が総務副大臣のころから目をかけてきた総務審議官だった谷脇康彦氏(官房付に更迭されたため、今月中に定年退職の予定)だった。だから、東北新社やNTTから接待を受けた内閣広報官の山田真貴子氏を辞めさせると、谷脇氏にも影響するとして、菅氏は当初、山田氏を続投させたものの、山田氏は病気を理由に辞職してしまった、ということらしい。
週刊文春3月18日号によると、「携帯キャリアの収益で携帯3社のうち、3位に甘んじてきたドコモを強くしなければならない」とする菅政権発足で元気を付けたNTTの澤田純社長は、昨年9月29日、ドコモの完全子会社化を発表。11月17日、約4・ 3兆円を投じたTOB(株式公開買い付け)を成し遂げた。その2週間後の12月3日には、月額2980円の格安新料金プラン「ahamo(アハモ)」を発表。12月25日、NTTグループの随一の稼ぎ頭だったドコモが上場廃止となり、完全子会社化された。4人の政治家へのNTTの接待は、17年11月から20年9月までだが、NTTの狙いは稼ぎ頭のドコモの子会社化で、これは国民のウケを狙う菅氏の「携帯料金の値下げ戦略」と〃利害〃が一致していたのではないか。谷脇氏は国会で「NTTとの会食の時に携帯の話は出たと思います」と答弁している。谷脇氏は退職後も国会の委員会には出るとしているので、この答弁は、参考人招致で「いつの話なのか」「どのような具体的な内容だったのか」もっと詰めていく必要があるだろう。自民党が「一般人」を理由に拒否した、総務省で関係局長や総務審議官を歴任した前「内閣広報官」の山田真貴子氏が招致されるかも、今後の課題である。
澤田社長はTOBが成立した直後の昨年11月27日、ドコモの新社長に就任する井伊基之氏を連れて、官邸で井伊氏を菅氏に紹介している。さらに、新聞の「首相動静」にはない昨年12月12日夜にも、こっそり第2議員会館の菅氏の自室で澤田氏と会ったことも週刊文春には、書かれている。残念ながら、文春記事にはさすがに、2人の間で、何が話し合われたかまでは書かれていない。菅氏が官邸に住まない理由も、「夫人が嫌う」との報道もあるが、このような〃密談〃に便利だからということもあるのだろう。首相周辺によると、「澤田氏には、改革マインドがある。国際戦略もある」と菅氏はベタ褒めで、12月3日、「アハモ」が発表されると「NTTが先陣を切ってくれた」と絶賛していたという。2月発表のNTT決算は、最終利益がドコモ収益分の上積みで8300億円を超えて史上最高となった。ドコモの子会社化は澤田氏の狙い通りだったということなのだろう。
携帯電話の料金値下げは、ほぼ国民全員が携帯を持つ時代なので、文句の付けにくい問題ではある。だからこそ、国民のウケがいい政策なのだ。そうはいっても、「政府が値下げせよ」というのは、自由であるはずの市場にとって問題ではないのか。ソフトバンクの孫正義氏を菅氏が嫌っているとの報道もある。ソフトバンク、KDDI、楽天とNTTの4社体制の中で、このやり方は、元公社のNTT(いまでもNTT法では職員はみなし公務員である)だけを有利にしているのではないか。これで公正な競争といえるのか。このような背景がNTTによる政治家や総務官僚接待にはあることは間違いない。
【注】日本電信電話公社の民営化とは 独占力弱めて競争促す
NTTは日本電信電話公社が1985年に民営化して発足した。通信事業に競争原理を導入する狙いだったが、NTTの独占力が維持されたのが問題視された。そこで1999年年までに持ち株会社のNTT、東西の地域会社、長距離通信会社などに再編された。移動通信のNTTドコモは電気通信事業者の公正な競争を促進するため、政府措置として1992年にNTTから分離された。(日本経済新聞から)
問われているのは菅政権の体質そのもの
菅氏の首相就任時のスローガンは「既得権益の打破」にあったのではないのか。NTTの接待攻勢をみると、総務省ぐるみの〃接待漬け〃だ。東北新社の狙いが首相の長男を〃接待要員〃とした電波取りや競争各社の動向を知ることにあることは想像できる。それではNTTはどうか。それはやはり、菅首相の看板政策「携帯電話料金の値下げ」に応じることにより、稼ぎ頭のドコモの子会社化によるNTTの経営の安定と携帯電話分野でのトップになることを実現しようとしたのではないか。これが「既得権益の打破」なのか。NTTなどは、むしろ「既得権益の肥大化」ではないか。民営化とは何だったのか。
専門家によると、携帯電話料金の値下げは、メリットばかりではないという。「家族割りが適用されない」「利用機能が限られる」などのデメリットもあるそうだ。「ふるさと納税」「Gotoキャンペーン」もそうだが、菅氏の肝いり政策は、いずれも「弱者救済」などではなく、ほどほどにお金を持つ人たちへの「割引・おまけ商法」に見えてしまう。こう考えると、「総務省接待事件」は、菅政権の体質そのものが問われている問題なのだろう。