点検・NHKニュース7(4月1日) 首相インタビューを割り込ませ、放送時間を延長 首相動画(音声付き)は計3分39秒 なぜ、まん防適用か、の解説なし

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 4月1日のNHKニュース7を録画して、菅義偉首相の露出度などをチェックした。この日のニュースの主柱は、新型コロナウイルス対策・まん延防止等重点措置(まん防)初適用という政府決定で、菅首相はトップニュースに登場、さらに途中、速報としてインタビューが放映された。動画(音声付き)だけで、計3分39秒に上った。音声なしの首相動画も流れた。その結果、ニュースは3分間延長された。国会での質疑では、政府のコロナ対策を批判した野党議員の質問は放送されなかった。昨年来の一連のコロナ対策の中でのまん防適用の意味や位置づけ、今後の課題についての専門記者や専門家の解説はなかった。

首相インタビューを速報

 2021年度最初のニュース7の見出しは、①速報「まん延防止」大阪・兵庫・宮城に ②対策はどう変る ③大阪616人 東京475人 ④世界のコロナ 英仏の状況 ⑤短観 業種間格差広がる ⑥センバツ 東海大相模が優勝-の6本。①から④がコロナ関係で7時22分54秒まで続いた。

 菅首相が登場するのは3回。最初は、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部で、まん延防止適用についての文章を読み上げる動画(音声付き)で、7時0分28秒から1分30秒間。その後、対策本部の遠景があり、菅首相のアップの動画が18秒流れた。これは、キャスターの説明のバックで、音声はなかった。

 次は7時10分54秒から。「菅総理の発言が入ってきました」とキャスターが告げ、記者との質疑のシーンが13分03秒まで放送された。音声付きのニュース動画は1分でも相当長いという印象があるが、記者の質問込みで2分09秒だった。首相動静に「午後7時11分から同18分まで、報道各社のインタビュー」とあるから、冒頭部分を放映したことになる。

 首相の動画(音声付き)は2回で計3分39秒。昨年3月の調査(2週間)では、安倍晋三首相の露出時間の最長は2分50秒だった。今回はこれを超えた。(参照:当ブログ・ウォッチドッグ21の松野執筆原稿「NHK『ニュース7』を点検した 首相が登場しないのは2週間で1日だけ」2020年3月19日)

天気予報直前にも首相

 コロナ関係ニュースに次いで、日銀短観と選抜高校野球決勝のニュースが終わったのは7時28分39秒。「次は天気予報か」と思っていたところ、「気象庁『余震』の表現使わない」の後、「“『子ども庁』創設”を提言」が続いた。官邸内を移動する菅首相の動画(音声なし)が6秒流れ、「強い決意でしっかり取り組んでいく」との首相の話をキャスターが紹介した。二階俊博自民党幹事長と会談したとあったが、動画はなく、菅、二階両氏を並べた写真が映った。気象情報が終了したのは7時33分だった。首相動画の割り込みの分だけ延長されたことになる。

政策ミス突く質問はカット

 衆参両院の議院運営委員会で政府の報告と質疑があったが、ニュース7は参院での質疑を放映した。自民、立憲、公明、維新、共産、国民各党の議員計6人が質問し、西村康稔経済再生担当相が答弁した。質問計53秒、答弁計88秒。質疑では一般に答弁の方が長くなる傾向があり、今回は許容範囲内、と言えなくもない。

 しかし、放送された内容に政権への忖度があることが、立憲民主党議員の衆参での次の質問を比較すると分かる。

 NHKの動画(音声付き):参院委員会

「宮城県、大阪府、兵庫県ではステージ4の指標もいくつか出ている。なぜまん延防止等重点措置で、緊急事態宣言でないのか」 (木戸口英司議員の質問)

 毎日新聞のWEB記事:衆院委員会

「(質問者の村上史好議員が)大阪府と兵庫県が2月末で先行解除されたことについて『政府は経済活動に軸足を置いて解除を優先した結果、現在の感染拡大を招いた』と指摘。『特に大阪、兵庫では、わずか1カ月でまん延防止措置を発令することになった。解除時期の判断ミスで、政府の責任だ』と批判し、『大阪市や仙台市では既にステージ4(感染爆発)ではないか。なぜ緊急事態宣言ではなく、まん延防止なのか』とただした」

 NHKには衆参両院の映像があるはずだが、ニュース7は、参院での質疑を選択することで、政府の痛いところを突いた衆院での質問をカットしている。編集の技で、政権への忖度放送の本領を発揮した形だ。

「追い詰められた選択」とテレ朝は解説

  見出し②では、まん防の内容に関して、キャスターが図を使ってわかりやすく説明したが、内容の紹介にとどまり、政府のコロナ対策の流れの中でのまん防適用の位置づけや今後の課題についての言及はなかった。安倍晋三政権時代は、こうした節目には、岩田明子記者がしばしば登場して“解説”をし、辟易したものだが、今回、官邸担当らは登場しなかった。

  対照的だったのが、この日のテレビ朝日・報道ステーション。後藤謙次・元共同通信編集局長が、政権がまん防を選択した背景について、次のように解説していた。

 「ここで(緊急事態)宣言をまた発令することになれば、あの解除はなんだったのか、となりますね、つまり、菅総理の判断ミスを認めることになるわけですね。そこで1ランク下のまん延防止の道を選択した。ある面でやむを得ざる選択と言いますか、積極的な選択というよりは追い詰められたというのが今回の措置だった」
 メディアには解説機能が求められるが、この日のニュース7にはこれが欠落していた。

欠ける「フォーラム機能」

 大型ニュースではそれぞれの分野の専門家が出て、説明するケースがよくあるが、この日のニュース7にまん防関連で登場した専門家は2人で、いずれも政府の基本的対処方針分科会のメンバー。会長の尾身茂氏とメンバー・釜萢敏日本医師会常任委員で、動画(音声付き)は尾身氏38秒、釜萢氏17秒だった。批判的な言葉は、釜萢氏の「もっと早くやるべきだった・・・」という発言だけだった。報道の重要な機能の一つは、多様な事実・意見を紹介する「フォーラム(広場)機能」だが、この機能も欠けていた。

 ニュース7では、動画(音声付き)が次々と流された。田村憲久厚労相9秒、西村康稔経済再生担当相5秒、そして大阪、兵庫、宮城の知事、大阪市長-と、為政者の動画パレードで、“やってる感”を視聴者に植えつける効果大だな、急落した内閣支持率がさらに落ちないのはNHKニュースの雰囲気作りが影響している、という印象を強めた。

生活関連のニュースは不可欠

 最後に事実報道について。ニュース7では、食料品などの値上げラッシュや消費税分を含める総額表示は報道されず、入社(庁)式も都庁だけだった。NHKニュースのメーン・ニュース7には、その日が丸ごと分かるメニューにしてもらいたい。大型ニュースに力点を入れた結果、視聴者に必要な生活関連のニュースがボツになっている。大型ニュース関連の企画記事は、別番組や特集に回し、ニュース7ではその予告にとどめるなど工夫をしてもらいたい。

 上掲のウォッチドッグ21の文章で、私は「多数の人が具体的な調査結果に基づいた意見をNHKに送り続ければ、ボディーブローのように効いて、watchdog(民主主義を守る番犬)の方向に戻す機会をつくる可能性があるのではないだろうか」と書いた。しかし、その後、NHKのニュースを視聴するたびに諦めの境地になり、調べる気力を失ってきた。今回の1日点検で、NHKの翼賛傾向が一層強くなっているとの印象を持つとともに、諦めずに調査しそのデータに基づく意見をNHKに送り続けることが大切なことを痛感した。(4月2日記す)