金網の中に”隔離”された感染クルーズ船

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新型コロナウイルスに感染したクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」が停泊する大黒ふ頭には全国から救急車が集結。「災害派遣」された自衛隊の救急車には航空自衛隊も。

 政府は新型コロナウイルスの感染者を乗せたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での対応に失敗、日本の感染症患者数は拡大の一途にある。

 1月18日、私は「2週間、クルーズ船に留め置かれ陰性と確認された乗客が明日、帰宅する」というニュースを聞いて都内から車で横浜の大黒ふ頭へ向かった。羽田を横目に横浜ベイブリッジを目指す。渋滞のない首都高速湾岸線で横浜港まで一時間。厳戒態勢だと思っていたが、道路規制も検問もない。大黒ふ頭のインターを出ると、海側に巨大なクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」が有刺鉄線を付けた金網の中に”隔離”されていた。

災害派遣と自衛隊法の拡大解釈

  建屋の隙間からクルーズ船が見通せる金網前には取材カメラマンだけが並ぶ。望遠レンズをのぞくと上甲板に点々と人影が見えた。ターミナル付近は警備するマスク姿のガードマンと関係者のみ。岸壁には「災害派遣」と書いた横断幕と標識を掲げた陸上自衛隊のジープや大型車両が船に横付けされ、ライトを点灯した救急車がサイレンを鳴らし、頻繁に行き来している。 駐車場には大型トラックやバス、救急車が乱雑に止まっている。救急車の形式や所属もバラバラだ。自治体に所属する車は東日本を中心に広域から集まった。

 気になったのは車体に白地に赤い十字のマークを付けた自衛隊の救急車だ。各車両には陸上自衛隊、航空自衛隊、海自横須賀、防衛学校、静岡富士病院のネールが読める。意外と気がつかれていないが一般の救急車には赤十字マークは使われていない。「赤十字マーク」は、戦争や紛争などで負傷した人々を救うために、国際人道法(ジュネーブ条約)などで定められたマークで日本の場合、使用できるのは自衛隊や日本赤十字社に限定されている。

米国人をバスで羽田空港まで送った自衛隊  

 当初、政府は2月19日に日本人乗客はじめ米国人、オーストラリア人らを下船させる準備をしていた。ところが16日夜遅く、羽田空港に米国政府手配の2機のチャーター機が到着した。そして17日午前3時すぎ、約340人の米国人乗客がクルーズ船から下船し自衛隊のバスで羽田まで移動、チャーター機に乗り込み、午前7時前に離陸した。

 安倍晋三首相は17日の予算委員会で、クルーズ船の米国人救出を米国が予定を変更してチャーター機を派遣したことにふれ「米国は当初、日本のクルーズの中でしっかりとした管理がなされていたが日本の負担軽減等を勘案、総合的に判断された」と釈明した。河野防衛相もブログで「米国政府から日本政府の対応ぶりに謝意が表明されるとともに、14日間の検疫期間を船上で過ごすことがウイルス感染の拡大を防ぐ最良の方法で、早期に下船・出国させる考えはないとの説明を受けています」と書いていたが「2月8日午後1時過ぎに、在京米大使館から米国人乗客に対してメールが送付され、『船内に留まる方がより安全である』旨が説明されています」と米国のご意向に逆らえない情けなさを吐露している。

 一方、帰国者の中から感染者が出たことを知ったトランプ米大統領は、この措置に激怒、米政府内で意見の食い違いがみられた。

感染者収容するPFI船舶を東京湾に

 見過ごせないのは17日未明、下船した米国人を自衛隊がバスで羽田空港まで送った事実だ。その根拠について河野太郎防衛相は2月14日付けのブログで「1月31日に自衛隊法83条2項に基づいて、自衛隊に災害派遣命令を出した」と述べ、さらに「命令の概要は、新型コロナウイルス感染症対策本部の方針を踏まえ、同感染症の感染拡大の防止が、特に緊急を要し、都道府県知事等の要請を待ついとまがないと認められることから、自衛隊法第83条第2項に規定する災害派遣により、感染症拡大の影響により帰国した邦人等に対し、救援活動を実施せよ」と看過できないことをドサクサにまぎれに書き込んだ。 また河野防衛相はブログで海上自衛隊の活動を支援する「PFI船舶『はくおう』を、帰国者の一時停留場所として活用するため、東京湾に向けて出港させました」とも付け加えた。同船は防衛省の艦船を委託管理している高速マリン・トランスポートが保有する客船だが、ここでも有事を機会に悪乗りして防衛省がチャーターする病院船建造を前提に拡大解釈して、不要な客船を東京湾に浮かべての実績作りは姑息だ。

 この「自衛隊が米国人をバスで羽田空港まで送った」事実について、政治ジャーナリストの角谷浩一氏は「災害派遣が人道的ではあったにせよ、米国人を『邦人等』と拡大して解釈しているが特に」緊急を要しているわけではない。今後も拡大解釈、超法規があるかもしれない」と国会チェックとメディアの役割の重要さを語る。 ウイルス禍は国際的にも大きな打撃を与えている。横浜港に停泊したクルーズ船にはカジノ施設がある。統合型リゾート施設(IR)を頼りにカジノ誘致を計画する横浜市も混乱の極みだが、神奈川県民も改めて「カジノNO」を突きつけだろう。習近平主席の国賓訪問どころではない。東京五輪の開催も延期か、中止の可能性も考えられる。