20年間、アフガニスタンで反政府武装勢力タリバンとの戦争を続けてきた米軍と同盟国軍は、7月末までに全面撤退する。すでに大使館の警備部隊などを残し、ほとんどが撤退を完了した。
外国軍撤退は、2015年からカタールで断続的に続いていた、米国とタリバンの和平協議の合意(20年2月29日)での「135日以内の縮小」「2021年4月末までの完全撤退」に基づき、バイデン政権が8月末まで実施完了期限を延期して実施した。
首都カブールのアフガニスタン政府は、この和平協議への米国の強い参加要請を拒否し続けた。政府とタリバンの内戦は続く。
変化したタリバンと、統治の変化
現在、公表されている政府軍の規模は18万人余で、陸軍17万人余。空軍7千人余、他に国家警察隊9万人余、2019年度の国防予算は19億ドル余。米欧の援助による兵器の質は相当に高い。一方タリバンは武装兵力4万5千-6万5千人(数字は共同通信社世界年鑑による)、兵器の質は、通常の銃砲に過ぎない。
それなのに、双方が支配している地域は現在、政府軍が国土の50~60%、タリバンが40~50%程度と推定されている。双方の民族的構成は。タリバンはアフガニスタンで最大民族のパシュトゥン人。政府軍はパシュトゥン人とそれに次ぐタジク人で、国政での対抗感情が、軍内の結束に悪影響を及ぼしている。
タリバンが登場したのは1994年。イスラム神学生の武装集団として発足したタリバンは、パキスタン国境に近い南部カンダハルを制圧、96年には首都カブール、98年にはほぼ全土を支配下に置いた。まもなく中東を追われた国際テロ組織アルカイダが、タリバン政権を頼って逃げ込んできて、本拠地をアフガニスタンに移した。アルカイダは2001年9月米同時多発テロ事件を引き起こし、米国はアルカイダだけでなく、その保護者のタリバン政権への戦争を開始した。
タリバン政権は崩壊、米軍に追撃されながら、パキスタンに逃げこんだ。それから20年間、タリバンは次第にアフガニスタンに復帰・浸透、米軍と政府軍に対するゲリラ攻撃と支配地域を拡大してきた。支配地域の統治では、以前の偏狭なタリバン流イスラムの強制ではなく、非タリバンの有力者たちの協力も得て統治地域を広げるようになっている。
BBCチームの本格的なタリバン支配地域の取材から
私は、国内と英国、米国のアフガニスタン報道をできるだけウオッチしてきた、その比較では、英国BBCの電子版が断然優れているとおもう。
最近では、BBC取材チームがアフガニスタン北中部のタリバン支配下のバルフ州に入り、本格取材したリポートに感心した。4月15日のBBCアジア版で大きく報道した『国連支給の教科書で女子生徒も熱心に学習』の冒頭だけ、紹介しよう。
BBC取材チームの求めに応じ、まず、説明役のハジ・ヘクマット首長(市長)が案内したのは、初級学校。女子生徒と男子生徒の教室は別で、女子生徒教室はヒジャーブ(イスラム教徒の女性が頭からすっぽりかぶる服装)姿の女子生徒で満員。先生も女性。
タリバンの現地教育委員会の中学教育担当のサラフディンは、当地では女子生徒の中学進学も積極的に奨励されているが、年長の女子生徒の進学が認められていない地域もある。と説明した。同氏によると、女子中学では女性の教師だけが認められ、ヒジャーブ着用は義務で、「教師たちがシャリーア(イスラム戒律)に従えば、まったく問題ない」
「アフガニスタン政府は、タリバンの支配地域でも学校のスタッフ(教師と従業員)の給与を支払い、タリバンが運営の責任を負っている。これが、全国のタリバン支配地域で実施されているシステムだ」と語った。
政府とタリバンの停戦、和平協議、政治参加への期待
今月末までに、米軍もNATO諸国も、大使館警備などを除き撤退する。その後、タリバンの攻撃が激化し、”治安が悪化する“と懸念する外国メディアが多い。その懸念はあるが、それよりも、この20年間、タリバンも苦難を重ね、現状まで復活した。その確かな支配地域は、北部国境地帯と西部のイラン国境地帯で、首都カブールはじめ主要都市は反タリバン勢力の統治が続いている。それ以外の地方都市、農村地帯は、入り組んでいる。BBCチームがしっかり取材したような農村地帯では、タリバンが支配しながら、非タリバンの地元幹部が実務的な世話をし、教員たちが、政府の予算で教育をやっている。