「米民主主義が危ない」 中間選挙焦点は「黒人投票権制限」への賛否 トランプ「盗まれた選挙」を共和党6割超が信じ、民主党8割が否定

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 2022年11月の米中間選挙(連邦上院・下院および州議会・知事・州長官など州指導部の改選)の行方は、民主党支持が多数を占める黒人の投票権制限を狙うトランプ共和党の州選挙法改変を国民がどう受け止めるかにかかってきた。黒人の投票権制限とその撤廃をめぐる2大政党の攻防が米政治を大きく揺るがすのは、南北戦争後のいわゆる再建期(1865ー70年ごろ)、公民権運動(1950年代半ばから65年)以来のこと。米民主主義は黒人差別との戦いの歴史でもあるが、2017 年のトランプ政権登場で始まったその第3幕が決戦段階に入ろうとしている。

固定化する深い「分断」

 2020年選挙の結果をバイデンが「不正投票で盗んだ」とするトランプ虚偽発言は今も米国民の3割、トランプ支配下にある共和党支持者では6割超が信じている。一方、民主党支持層では8割超が信じていない(主要な世論調査による)。トランプ政権の下で選挙の実施、認証の責任を担った3権の各機関がすべその事実なしと確認しているにもかかわらず、この数字はほとんど定着している。民主・リベラルVS.保守・右翼の分断がますます深まっていることを示す。 

 トランプのこの求心力はどこからくるのだろうか。トランプ大統領を押し出したのは、グローバリズムがもたらした貧富格差の広がりの中で、民主党支持だった白人の低学歴、勤労者層が政治への不満と不信を高めてトランプ支持に回ったからとされている。これはその通りだが、民主、共和両党とその支持層の間のここまで深まった分断の説明には十分ではない。

歴史にまとわりつく「黒人差別」

 米国政治の歴史をみると、南北戦争を主導して勝利した共和党がその後のほぼ70年、長期支配を謳歌する。奴隷制度は廃止されたが、解放されたはずの黒人は「隔離」(ホワイト・オンリー)という新たな差別構造に閉じ込められた。1929年に世界大恐慌が始まるとルーズベルトの民主党政権がとって代わり、黒人勢力を取り込んだ同党支配の時代に。第2次世界大戦終結後の1950年代半ばから黒人の公民権運動が高揚して、ジョンソン政権は議会での共和党議事妨害(フィリバスター)を乗り越えて1964年公民権法、1965年投票権法を成立させた。

 ジョンソンは南部民主党の白人の多くが共和党に奪われるだろうと覚悟の決断だった。その通りになっただけでなく、1980年選挙で民主党は大敗、共和党右派レーガン政権が登場、保守の時代が始まったとされた。冷戦終結後、クリントン(民主党)、ブッシュ(共和党)、オバマ(民主党)、トランプ(共和党)と両党の激しい政権争奪合戦が続いてきた。これによってリベラル(民主)対保守(共和)という政治理念による分断が深まった。

「落選拒絶」は既定戦略

 黒人大統領オバマ誕生は、国際的には米民主主義への称賛を得たが、共和党は「全て反対」を宣言した。テレビの人気リアリティ番組でホストをしていたトランプは、オバマが実は米国生まれではなくて大統領にはなれないという「嘘」を執拗に取り上げる反オバマ・キャンペーンに精を出した。

 大統領になり、2020年の再選をかけた選挙戦が始まると、投票日まで半年もあるときに「民主党は大がかりな不正投票をやる」と発言、しばらくすると「選挙結果を受け入れるか」とのメディアの問いに答えを濁しながらも「拒否」を示唆している。選挙で負ける可能性に備えて、あらかじめ「不正投票ー落選拒絶」を支持者が受け入れやすくする世論地ならしをしていたと見て間違いない。

あと2世代ー白人は過半数割れ

 「再び偉大な米国」(MAGA)がトランプの基本スローガンである。極右、白人至上主義、陰謀論などの勢力がそのもとにはせ参じている。彼らが復活を目指す「偉大な米国」は多民族、多元文化が共存する今の民主主義米国ではなく、白人が主導していた時代の米国であることは明らかである。

 この「MAGA」という大義のために、トランプは民主主義の土台をなしている選挙の結果を拒絶し、支持者に呼びかけて選挙結果を最終的に確認する議会審議を阻止し、自分を当選者に入れ替えさせるために議会襲撃に走らせた。ここまでトランプとその支持者を駆り立てているのは、あと2世代、20年余りで米国の白人は人口の過半数を割り込むという危機感(恐怖?)ではないかと思われる。(1月23日記)