政府は3月4日、東京電力福島第一原発事故に伴う福島県双葉町の全域に出ている避難指示を、駅周辺の帰還困難区域など一部で解除した。翌5日には大熊町の一部地域も避難指示を解除した。続いて10日には富岡町の夜ノ森駅周辺も一部解除された。これによりJR常磐線は3月14日に浪江~富岡間で運転を再開、仙台まで全線がつながったことになる。 双葉駅から国道6号線を渡り比較的線量が低い太平洋側の産業拠点に向かった。
かなり残る帰宅困難地域
地震で地盤沈下した両竹、中浜地区はいまだに湖のような湿地帯だが、県内外から建設関連企業など17社の進出が決まり真っ白なテントを張った建物や研究施設の建設が急ピッチで進んでいる。
双葉駅はこの9年間、雑草で覆われ周辺の商店街も朽ち果てていたが、JR常磐線全線開通でリニューアルした。3月26日、聖火はJヴィレッジを出発して大野駅から臨時列車で双葉駅に移動、駅前広場でトーチに点火、ランナーがリレーする。聖火リレーは「復興オリンピック・パラリンピック」としての位置づけを強く意識して検討が進められた。被災3県の一つである福島県を出発地とすることで「希望の道を、つなごう。」と、困難を乗り越える力や不屈の精神を全国に受け継いでいくというコンセプトだ。
だが大熊町では大野駅に通じる道路だけは完成したが、駅周囲の住宅や商店街への入り口がバリケードで封鎖したまま。それは原発の廃炉作業や国際研究産業都市構想に基づく必要な物資輸送を目的にした専用道路を確保するだけの工事といえる。 また除染したとはいえ福島県の放射線量はまだ高い。双葉駅付近の放射線量は0.47マイクロシーベルト、大野駅付近の放射線量は1.67マイクロシーベトだ。浪江町では0.13マイクロシーベルトと低い地域もあるが、帰還困難地域はかなり残っている。しかし県は、国の長期目標である被ばく線量の年間1ミリシーベルトに影響する数値ではなく、「聖火リレーの開催に問題はない」としている。
車両に付着したチリに23倍もの放射能
今年1月、全線開通に向けたJRの試運転で「帰還困難区域を通過した車両に付着したちりの放射能濃度が、通常の車両より23倍も高かった」と動労水戸が明らかにした。列車床下にはモーターを覆うフィルターがあり、外気を取り込む際にちりなどを吸収する。このフィルターからちりを採取、放射性物質を調べる市民団体「つくば市民放射能測定所」が測定した。その結果、1キロ当たり2350ベクレルのセシウム137が検出された。これは通常運行の車両より23倍も高いという。
一方、コロナショックで慌てふためく安倍晋三首相も6日、冨岡町のホテルに一泊。7日朝、常磐線の試運転列車に乗車、富岡駅から双葉駅に移動した。首相の目的は常磐自動車道・常磐双葉ICの開通式出席と浪江町に開所した水素製造拠点の視察だ。「福島水素エネルギー研究フィールド」は太陽光パネルで発電した電力で水を電気分解して水素を製造する。いわば究極のエコエネルギーで、ここで製造した水素の一部は東京五輪の聖火台や聖火リレー用トーチの燃料にも使われるという。安倍政権のしたたかなプロパガンダだが、五輪開催の炎が揺れている。(Photo by Ken Shindo)