「緊急事態宣言」これで本当にいいのか 改めて考えてほしい

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 発生元の中国では少し沈静化しつつあるものの、イタリアでは感染者や死者の増加が止まらない。日本でも毎日、大幅ではないが、感染者は増え続けて おり、テレビの「感染者速報」が市民の恐怖をあおる。そのような中、3月1 1日、新型コロナウイルスを新型インフルエンザ等対策特別措置法に加える与党の改正案が衆院内閣委で審議入りし、共産を除く与野党の賛成多数で 可決された。13日の参院本会議で賛成多数で可決、成立した。

国民の権利制限

 政府は10日、特措法改正案を閣議決定し、国会提出した。野党の立憲民主、国民民主の両党は、元々の特措法が旧民主党のときにできたとの経緯もあってか、特措法に基づく「緊急事態宣言」を出す際には、「国会での事前承認」を求めた。

 しかし、同日、共産を除く与野党は「緊急でやむを得ない場合を除いては、 国会に事前の報告をする」との付帯決議をするという方向で折り合った。11 日午前には、立憲は「党内には慎重意見もあるが、必要な法案だ」(安住淳国会対策委員長)=朝日新聞11日夕刊=であるとして、法案に賛成する方針を決め た。野党4党のうち国民もこれに同調、共産党は「立法事実がない」と反対し ていた。  

怖い政権の「情報統制」

 「首相が発する『緊急事態宣言』は、国民の憲法上の権利を制限する恐れが ある。感染症に対処する目的や必要性に比べ、手段の副作用が極めて大きく、 宣言を発する要件も明確ではない」(水島朝穂早稲田大学教授=憲法、東京1 1日付朝刊)」。水島教授のこの指摘は重い。

 そもそも宣言が出される時は「緊急でやむを得ない場合」と政権は説明する のではないのかー。落とし所の「国会での事前承認の明記」という最低限の条件すらクリアできずに、妥協する立憲や国民の対応は大丈夫なのか。目に見えない新型コロナウイルスの感染症の拡大という国民の不安感に乗じて、さまざまな問題で異論を排除し、説明責任を果たそうとしない安倍政権に基本的人権にかかわるこのような大切な問題を丸投げしていいのか。もう一度、考え直すべ きではないのか。コロナも怖いが、政権による情報統制はもっと怖い。    

 「緊急事態宣言」について、西村康稔経済再生担当相は11日の衆院内閣委で「伝家の宝刀として使われずに済むように、まずは感染症の収束に向け全力で取り組む」と説明した。もちろん、宣言はあくまでも、今後のパンデミック状態に 備えての準備なのだろう。だが、いったん「宣言」が出されたら、東京五輪は吹っ飛ぶし、経済的影響も計り知れない。  

 新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案の「緊急事態宣言」で可能になる主な措置は①住民への外出自粛要請②学校、保育所、老人福祉施設などの使用停止の要請、指示③音楽、スポーツイベントなどの開催制限の要請、指示④予防接種の実施指示⑤臨時医療施設のための土地、建物の使用。強制使用も⑥鉄道、運送会社などへの医薬品の運送要請、指示⑦医薬品、食品などの売り渡しの要請。強制収用も(11日付朝日朝刊)ーなどである。

 これまでのイベント自粛 や小中高の休みなどの「要請」から「指示」「強制使用・収用」とグンと強制力が大きくなる。宣言が出たら〃コロナ独裁〃という評論家もいるくらいであ る。

「広範すぎる」表現への規制

 可能となる措置の中でも、特に「情報統制(操作)のおそれ」を指摘する のは、山田健太専修大学教授(メディア法)だ。

 山田教授の11日のヤフーニュース「情報統制が不安を増幅させる~なぜ いま、緊急事態対処法がダメなのか」によると、特措法は、政府対策本部長 (首相)や都道府県対策本部長(知事)が、緊急事態において指定公共機関 に対し、特措法第20条第1項の総合調整に基づく所要の措置が実施されない場合に、必要な指示をすることができる(特措法33条1,2項)としている。特措法第2条の6の「指定公共機関」には、日銀、日本赤十字などのほか、公共放送の日本放送協会(NHK)も入っている。また、この対象には、 政令で自由に拡大可能であって、似たにたような法令の武力攻撃事態等対処法では国内のすべての地上波放送局と一部のラジオ局 が含まれている。                       

  さらに、災害対策基本法の指定対象機関には新聞社も含まれる。いわば、 国内のすべての報道機関は政府の指示下に置かれるということである。そして、問題は条文の「総合調整」の中身で、同時に「必要な指示」の内容も無限定に広がりかねない、と危惧する。山田教授は、このことは2012年の旧民主党政権下の立法時にも、表現に対する規制として「広範すぎる」と指摘されてきた、とし ている。  

  いまさらではあるが、法適用の要件の不明確性とともに、法制定時にもっ と議論を深める必要があったのではないのか。13日に成立させるのではな く、国会の議論はまだまだ必要なのではないのか。

「異論封じ」

 このところ、テレビ朝日の情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」に出演したレギュラーコメンテーターらの発言を誤報であるとして、厚生労働省や内閣官房など政権側が公式ツイッターで反論した。このことを巡りメディアやネットな どで「異論封じ」との批判を浴びた。安倍首相は、9日の参院予算委で「政府 が正しい情報を発信していくのは当然の役割だ」として投稿は問題ないとの認 識を示している。安倍政権になってから、政権に都合のよい人物をNHK会長 に登用するなど、メディアへの介入が目立つ。そのような人物にはたして全権 を委ねて大丈夫か。やはり「コロナ」も怖いが首相の「緊急事態宣言」も怖 い。

( この文章は、私の共同通信社会部時代の同僚、美浦克教氏のFBを参考に させていただいた)。