「ジャニーズ会見NGリスト問題(上)」事務所が何らかの「関与」の疑い 司会者も手元にリスト持つ 〃ジャニーズ帝国〃という権力とメディアの「共生」 拍手する記者たちの情けない姿 権力にこび侮られる

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 ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏(2019年に87歳で死去)による性加害をめぐり、事務所が10月2日に開いた記者会見で特定の記者を指名しないようにする「NGリスト」が存在していたことが明らかになった。ジャニーズ側は会見の運営を依頼したコンサルティング会社に謝罪させるなど、火消しにやっきとなっている。日がたつにつれ、メディア報道により、ジャニーズ側が単にリストの存在を知っていただけでなく、司会者が会見の際に手元にリストを持っていたことも新たに分かった。

 メディアなどに流出した「NGリスト」「指名候補者リスト」の二つと会見の録画を詳しくみてみると、司会者は少なくともリストを参考にして記者会見が行っていた可能性があることがうかがわれる。「リスト作成」がジャニーズ事務所主導だったかどうかはともかく、何らかの事務所の「関与」があった疑いは濃厚になってきた。この問題について、時系列で経過をたどりながらその問題点を考えてみた。

説明責任果たし再度会見を

 運営に関わったスタッフの証言として①「リストは事務所の要望に基づいて作成された」(FRIDAYデジタル、10月6日)②「事務所幹部から『会見を荒れないように手立てを考えて』といわれた」(8日、日本テレビ「真相報道バンキシャ」)などの報道も新たに出てきた。しかし、事務所側は7日に、このFRIDAY報道について、公式サイトで否定している。どちらにしろ、会見の運営を依頼した責任は免れず、結果として加害企業が記者選別の会見を行ったことになる。ジャニーズ事務所は「リスト問題」の説明責任をきちんと果たすべきで、あらためて早急に記者会見を開く必要がある。

 この「記者NGリスト」問題から見えてきたものは何なのかー。今回の問題では、〃ジャニーズ帝国〃という権力と「共生」してきたテレビを中心とするメディアとジャーナリストの存在が浮かび上がる。これを見透かしたように振る舞うジャニーズ側による法律事務所やコンサル会社を使ったなりふり構わないしたたかな戦略も垣間見える。マスメディアはこの問題で、以前から週刊文春が20年以上も「告発キャンペーン」を続けていたのにかかわらず、これを無視、「メディアの沈黙」と特別調査委員会報告書で指摘された。メディアが権力にこびるから権力に侮られるのだ。

 いま、ジャニーズ事務所もNHK報道により、とんでもない〃工作〃が暴露され、その後も、新事実が明らかになるなど追い詰められているように見える。2時間という時間制限がある上、「更問い」(追加質問)も許されない記者会見で一方的に「ルールを守れ」というジャニーズ側に対して、これに迎合したメディア側の一部から拍手が起きるなどジャーナリストとして何とも情けない姿をテレビ中継によって視聴者にさらしてしまった。メディアよ,もっとしっかりしろと言いたい。

藤島前社長はなぜか「過呼吸」で欠席

 都内のホテルで開かれた2日のジャニーズ事務所の記者会見は、前回9月7日の会見で「社名存続の方針」を発表、これにメディアからだけでなく、経済界からも異論が続出し、所属タレントが出るテレビ番組からスポンサー契約を見直す企業が相次いだ。このため、起死回生の仕切り直しとしてジャニーズ側がこの日の記者会見を設定した。午後2時から始まった会見には、大手メディアやフリージャーナリスト、海外メディアの記者、芸能リポーターら約300人が参加。NHKとテレビ東京を除く民放各局が生中継するという当初からヒートアップした会見となった。私も2時間8分にわたる会見を視聴した。

 まず、会見に出た事務所側からは、9月に現事務所の社長となった東山紀之氏、、V6メンバーとして活躍したジャニーズアイランド社長の井ノ原快彦(よしひこ)氏の2人と顧問弁護士の西村あさひ事務所の木目田裕氏、新たに「チーフ・コンプライアンス・オフィサー」として招請された山田将之弁護士が並んだ。社長を辞めたとはいえ、事実上の最高責任者の藤島ジュリー景子氏は「過呼吸」を理由に欠席した。また、コンサル会社との9月30日の打ち合わせに社長を辞めたはずの藤島氏も同席していたことも8日、ジャニーズ事務所が認めた(日本テレビの報道番組「真相バンキシャ」)。

まるで「ショー」

 藤島氏にはなぜ、代表取締役で残るのかという問題も出てきた。藤島氏は、前回会見でその理由として、「性加害への補償の取り組み」を強調したが、文春オンライン(9月20日)が指摘した「相続税支払い免除の問題」という新たに浮上した疑惑が残っている。このことについても会見で代読された手紙で触れてはいるものの、とても納得できるものではない。藤島氏本人からきちんとした説明がほしい。 

 冒頭、東山社長が事務所の社名を「ジャニーズ」から「SMILEーUP」に変更。旧会社は被害者への補償に専念し、所属タレントらの仕事の交渉の代理や管理を行う新会社を1カ月以内に設立する。また、性被害については、9月末までに届けた人が325人に上り、11月から補償を開始し、事務所は補償後廃業する。そして、新会社の社長は東山氏が兼務し、井ノ原氏が副社長となることを明らかにした。

 この後の細かいやりとりはメディアの報道やユーチューブでの会見動画をみてほしい。東山氏や井ノ原氏のタレントとして持つ演技力もあり、ドラマの台詞のようにすらすらと雄弁に答える姿に、加害企業の「謝罪会見」ではなく、まるでショーをみているような感じになった。これが、有名タレントをトップとした同社が狙った効果なのかもしれない。

井ノ原氏たたえるスポーツ紙に違和感

 ところが、翌3日、スポーツ紙各紙を見てびっくりした。エンゼルス・大谷翔平投手のメジャー初の日本人ホームラン王との大ニュースを押しのけて各紙とも、この会見を1面トップにするなど全面展開していた。そして、何よりも驚いたのは、井ノ原氏が会見の在り方に抗議する記者たちへの苦言をたたえる記事だ。私は大きな違和感を感じた。

 記者会見の後半になって、最前列にいた記者らから「司会者のあて方がフェアでない」などと抗議の声が上がり、会見がややざわついた。それを日刊スポーツは「穏やかイノッチ存在感『落ち着いて』」との見出しの後にこう書いた。

 「緊張感が漂う中、井ノ原の穏やかな人柄が随所ににじんだ。会見開始前には『1社1問で』『指名を受けてから質問を』などのルールが示された」。これに続いて記事は「井ノ原は『落ち着いて行きましょう』『皆さん冷静に』と場の混乱を収めつつ、質問を繰り返す記者に『さっき質問されたのを聞いちゃったんですけれど・・・」と申し訳なさそうに指摘するシーンもあった」とした。

 そして『井ノ原は、この会見は生放送で全国に伝わっているし、子どもたちも見ている。被害者の皆さんには、自分たちのことでこんなにもめているんだと見せたくない。ルールを守る大人たちの姿を見せたい。どうか、落ち着いてお願いします』と切実に訴え、会場に拍手を起こしていた」と書いている。このシーンは、他のスポーツ紙も日刊スポーツとほぼ同様に「荒れるメディアに井ノ原苦言」(東京中日スポーツ)などと書いた。なぜか、一般紙はほとんど取り上げなかった。

 私の違和感はどこからくるのかー。「NGリスト」発覚後のことだが、ジャニーズ事務所側発表では、井ノ原氏がコンサル会社の出したメディアのリストの「NG」という文字について、「これどういう意味ですか?絶対当てないとダメですよ」と指摘したことが強調されている。会場がざわついた会見で「落ち着いて」「この会見は生放送で子どもたちも見ている。ルールを守る大人たちの姿をみせたい」と訴え、一部の記者たちから拍手を浴びるなど、井ノ原氏の姿は確かにこの日の会見では際だっていた。だが、少なくとも、井ノ原氏は、事務所の発表文を見ても、事前に「NGリスト」のことを知っていたことになる。

 また、この会見はそもそも、事務所の信頼を回復するためだったのではないのか。井ノ原氏はこのことを忘れて、「子ども」をだしに使って事務所が一方的に作った「ルールを守れ」と言い放った。果たして、「児童虐待」の問題が問われている側が言うべき言葉なのか。この記事には、そういう視点が全くない。

「1社1問」ルールに異議申し立てを

 この会見をテレビで見ていた私は、はじめは何で会場がこんな大騒ぎになっているのか、よく分からなかった。ところが、3日になり、この後、元朝日新聞記者で動画配信メディア「Arc Times」の尾形聡彦氏が会場で「フェアではない。なぜ、最前列にいるのに当てられないのか」など会見のあり方に異議を唱えていたことをネットへの投稿で知った。

 そして、今回の会見のあり方に大きな疑問を持った。それは、「1社1問で」というルールである。これは官房長官や首相会見で、いつの間にか行われるようになったメディアにとって官邸から押しつけられたルールである。これを受け入れてしまった官邸記者クラブにも大きな問題がある。会見当事者に都合の悪い「更問い(追加質問)」をさせないために、会見を受ける権力者側がメディアコントロールを意図したものであると私は考えている。

 今回、ジャニーズ側とメディア側がこの問題について、事前に話し合いがあった形跡はみられない。どうも週刊誌報道によると、ジャニーズ側が勝手に設定した「禁止事項」というのがあり、2時間という時間制限や「1社1問」、それに加えて記者の座席を確認するための「移動禁止」というのがあったらしい。

「更問い」ない会見受けない決意を

 会見を司会した元NHKアナウンサーの松本和也氏は会見冒頭に「1社1問、簡潔に、挙手」という〃ルール〃らしきものを一応は説明していた。また、そもそもメディア側は安易にこんなやり方に応じるべきではなかった。「更問い」ができないと、ジャニーズ側のあいまいな答弁、あるいは、質問ずらしなどを許してしまうからだ。ましてや、ジャニーズ側には、リスクマネジメントにたけた顧問弁護士がついている。

 ジャニーズ側の都合でやるのだから「更問い」のない記者会見ならば、受けないぐらいの決意が求められる。記者側としては、質疑応答に入る前に司会者がこの〃ルール〃を一応は説明しているのだから、遅くともこのときに異議を申し立てる必要があったのではないのか。その時は、異議を申し立てた記者への他の記者たちの同調・援護発言も必要だった。後付けかもしれないが、教訓としてほしい。

 また、前回の会見では4時間以上かけている。加害企業の不祥事会見なのだから、例え、時間が長くなっても、記者の質問に丁寧にかつ正直に答えるのが、「危機管理」の基本のはずである。今回これがなぜできなかったのだろうか。会見時間が長くなると、前回の「会見失敗」の教訓もあり、メディアの厳しい追及にあうとジャニーズ側が考えたからにほかならない。

「深く憂慮すべき疑惑」に不十分な会見内容

 長い間、事務所のトップが少年たちに性加害をしていたという世界でもまれな「児童虐待事件」であり、海外メディアの注目を浴びるだけでなく、国連の人権理事会の専門家からもこの8月「数百人が性的搾取と虐待に巻き込まれるという深く憂慮すべき疑惑が明らかになった」と指摘を受けている。それにしては、会見内容は不十分で、特に「長年にわたって問題を隠蔽し続けてきた事務所の権力構造を総括することは必要不可欠」(朝日新聞4日付朝刊社説)との指摘とは縁遠い会見となった。

                                     (続)