投稿者: 第５３回 対馬固有の天道信仰とは何か
対馬は人口３万人ぐらいの町だが、神の島と呼ばれるだけに古社が多い。対馬固有といわれる天道信仰を知りたかった。市の教育委員会を訪ねて説明を聞いた後、「対州神社誌」を見せてもらうと、起源説話についてこうある。
天皇から「宝野上人」の号贈られる
島の照日某という人の娘が日輪の光に感じて妊み、男児が生れた。この太陽の子は誕生したときに、瑞雲がたなびいたので人々は天童法師（童子）と呼んだという。
天道法師は小さい時から聡明で、９歳の時に仏門に入り、奈良で修行を積んで神通力を得て、703（大宝3）年に対馬に戻る。７１６（霊亀２）年、天童法師３３歳の時に、元正天皇（文武天皇とする説も）が病に伏すと、対馬から飛行して奈良へ赴いて病を治したので、天皇から「宝野上人」の号が贈られ、豆酘（厳原町の一部）からは年貢が献上されるようになった。
朝鮮、満州など東アジア文化に広がりもつ感精神話
豆酘の北東に広がる霊山の龍良山（たてらさん）の八丁角（はっちょうかく）にある石積みが、天道法師とその母の陵とされる。原生林の中に昼でも薄暗い。不入坪（いらぬつぼ）と呼ばれる一角がある。地元の人は「オソロシドコロ」と呼んでいて、1人では近づけそうにない雰囲気がある。神聖視されているところは戔嗚尊をまつる神社の境内の一角にもあり、そこは樹木が密集していて、神の拠り所で神聖視されている。
「日光感精」神話については、兵庫県の出石神社の祭神、天日槍（あまのひほこ）の生誕神話にも似た話がある。天日槍は新羅王の皇子とされ、「日光感精」で生まれた女性を妻にしたところ、この女性は日本に渡ったので後を追って日本に来て、日本各地を回って稲作、灌漑、米作り、医療、養蚕、焼き物などを広めたといわれる。日本書紀も触れており、当時も話題になったのだろう。感精神話は、朝鮮、満州、モンゴルなどにもあるといわれ、東アジア文化に広がりをもっている。
対馬の中で引き継がれた天道信仰
天道信仰は、母と子の二神が信仰されるので、神功皇后とその子にあたる応神天皇がそろって信仰される「八幡神」とも似ているところがある。
天道信仰の祭神は太陽神だが、阿麻氐留（あまてる）神社の祭神も太陽神だ。伊勢神宮の祭神もアマテラスで太陽神だ。ただ天道信仰の天道神と、皇祖神のアマテラスは別の太陽神だったとされ、また阿麻氐留神社は、天地を照らす太陽神そのもの、自然の太陽がそのまま神格化されて祭神とされているという。天道信仰は太陽信仰からなり、母子神信仰、修験道、古神道などと重なって、対馬の中で引き継がれてきている。
対馬の神話は大和政権の神話と交流か
延喜式神名帳を見ると、天照神社と呼ばれる神社は、大和国城下郡鏡作、大和国城上他田、摂津国嶋下郡新屋、摂津国嶋下郡新屋、山城国葛野郡木島などにもある。似た名前で丹波国天田郡に天照玉命神社がある。
対馬出身の古代史学者、永留久恵氏は著書の「古代史の謎 対馬」のなかで、「山を神体とする天道信仰は、原初の形としてあり、祖霊神だから太陽神としても人々に祀られていた。その後、対馬の祖霊＝わだつみ＝天道神＝日の神は、昔からあった対馬の祖と仏教などが結びつき、さらに後になって朝鮮半島、大陸との外交上重要な接点である対馬に注目した大和政権の神統譜に組み込まれていった」とみている。またこの対馬の神話は、大和政権の神話と交流があったかどうか興味深いところだが、少なくともそれ以前から存在していたようだ。
（了）