少数与党で変わる国会 長く続いた制度や慣行を改める好機 事前審査制や欧米に比べ少ない審議時間   期待したい迫力ある論戦

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 少数与党の衆院予算委員会で2025年度予算案審議が始まった。丁々発止、迫力ある論戦を期待したい。またこの機会に自民一強時代に築かれた国会運営の仕組み、例えば予算案などを国会に提出する前に自民党と各省で、調整する「事前審査制」をはじめ、欧米に比べて少ない国会の審議時間を増やすなど、長く続いた制度や慣行を改める好機でもある。

アベノミクスの脱出に悪戦苦闘

 日本は、アベノミクスの壮大な実験が裏目に出て、脱出に悪戦苦闘中だ。膨大な国債を日銀に引き受けさせ金利が動かせず、経済政策が打ち出せないでいる。

 池袋や新宿の公園などで週一回行われる炊き出しをのぞくと、ワイシャツ姿のサラリーマン風の若者、子ども連れの主婦も目につく。始まる1時間も前から並び、新型コロナウイルス感染前よりも長い行列になるという。

 毎年のように大型予備費や補正予算が編成されるが、予算編成時に計上した予備費や、使われない不用額が急増した。不用額は令和4年度11兆円、令和5年度7兆円。繰越額は令和4年度18兆円、5年度11兆円にもなる。もう少し緊張感が必要ではないか。

 次元の異なる子育て支援策は、国民に説明のないまま、それぞれの医療保険から供出させることになり、国民負担は1兆円の増加となる。増税といわれていないが増税そのものでる。東日本大震災復興のための住民税1000円は期限になっても、廃止せずに森林環境税に切り替えられた。一度手にした税は絶対に離さないつもりのようだ。

江戸時代の「5公5民」に近づく国民負担率   

 国民所得に対する租税と社会保障の両負担を合わせた国民負担率は、1990年ごろは27%だったが、今や48%だ。江戸時代の「5公5民」に近づいている。2025年の物価の値上げは、24年の6割増で2万品目にのぼり、25年は既に6121品目の値上げが予定されている。実質賃金は2001年以降最高に伸びだが、物価はこれをさらに上回っており、実質賃金は低下している。注目されるのは、米国などでは基礎控除に当たる標準控除の額は、インフレに合わせて取りすぎないように返還している。日本も考えるべきだ。

「パーキンソンの法則」

 日本経済の低迷はこの30年、実質賃金が増えず、個人消費に回らないことに原因があるとされる。国民経済の6割近くを占める個人消費が増えることが肝心かなめだが、たとえば国民民主党の年収控除の引き上げについて、財務省は減収になると反対だ。ところが予算の不用額や繰越額は急増しているのだ。

 特別会計は429・5兆円で一般会計の4倍近い。かつて塩川正十郎財務相が「「母屋(一般会計)でおかゆを食っているのに、離れ(特会)で子どもがすき焼きを食っている」と評したことがある。
この特別会計は、各省庁が傘下に抱えている団体や企業が、その省の政策を実行するための予算である。ただし傘下の団体は天下りが多く、経理も入り組んで無駄も多く予算も膨大で、伏魔殿と呼ばれてきた。特に社会保険料やガソリン税など財源を持つ特別会計は、各特会を所管する官庁が自分の財布のように予算を使い、各省庁や族議員の既得権益の温床になっているとされる。厚生保険特会や国民年金特会では、巨額の予算が不採算の特殊法人や関係団体に天下った厚生労働省OBの高額の報酬などに使われていることが指摘されている。

 英国の歴史学者で政治学者、パーキンソンは、ドイツ参謀本部などの官僚機構を研究して「役人は入った税金はすべて使い切る」「仕事がなくても役人の数は増える」という法則を発見、定期的に行政のチェックが欠かせないと指摘した。

政治家優遇の税の不公正に怒りの国民

 特別会計はこれまで監視がなかったとされる。資金は一般会計からの繰り入れや独自財源、民間からの借り入れなども複雑で、国会などでも追及しにくかったからのようだ。また社会保険料やガソリン税など特定の財源を持つ特会は、支出だけを減らせとは言いにくいらしい。

 国債残高、いわゆる財政赤字は、令和6年度末には1105兆円に達した。1兆円とはどのくらいの規模かというと、1万円札をここに積むと世界一高いチョモランマの8849メートルを超える。それが1100本分になる計算だ。気が遠くなるような数字だが、毎年9月から12月まで4カ月近く予算づくりをしていて、なぜ天文学的な数字にまで積み上がってしまったのか、検証も欠かせない。

 世の中なんとなく陰鬱な空気で、頭を押さえられている感じなのは、国民はいくら働いて税金を納めても一向に財政赤字は減らないことも影響している、とみる経済学者もいる。

 政治と裏金の問題で国民から今も厳しい怒りが続くのは、国民は厳正に税金を納め義務を果たしているのに、政治家には相続税にまで恩典があることの不公正さにあるのではないか。

欧米の国会審議は1000時間、日本は60時間 

 一方、審議の在り方も改革の焦点だ。1995年の保守合同で55年体制ができて以来、予算案や法案は国会に提出する前に、自民党の事前審査という関門を通る。また同党議員は党議拘束で賛否が縛られているので、審議が尽くされなくても可決されていく。自民党が過半数を占めていたからできたことで、審議重視の原点の戻すべきだろう。

 また日本の国会の審議時間は、欧米の議会に比べて格段に短い。各国の議会制度に詳しい大山礼子駒澤大学名誉教授によると、日本の本会議は60時間ぐらいだが、欧州の議会は年に1000時間から1200時間という。また審議時間を増やすだけでなく、審議を国民に公開して理解を広げることでも国際標準に近づけるべきだと、指摘している。

「不易流行」  

 東洋の古典に「不易流行」という一句がある。時代の変革期には、残すべきものは残し、不要になったものは変えていく取捨選択が大事なことを言ったものとされる。

 与野党逆転国会では野党も政策資源の投入や負担の調整など、歳出と歳入に責任を担うことになった。野党の要求で導入された省庁別審査は、各省の予算の無駄を集中的に審査する。責任も重くなったが、政権担当能力を磨く機会でもある、国会審議と慣行が一皮むけるか、切磋琢磨の議論を期待したい。

                                   (了)