10月10日の夕方、公明党の斉藤鉄夫代表が高市早苗自民党総裁との会談後、26年も続いた「自民党との連立離脱」を表明した。自民派閥の「裏金問題」を受けた企業・団体献金の規制強化に自民が応じなかったことが表向きの理由だ。本当の理由は総裁選前から警告のあった右派的発言の多すぎる高市氏への拒否反応だと思う(公明党は公式には認めていないが)。衆院選、参院選と自民党の「政治とカネ」問題などが原因でジリジリと公明党も国政選挙で大きく票を減らし、衆参両院で自公が過半数割れとなった。さらに、高市総裁が党の役員人事で、「政治とカネ」の象徴でもある旧安倍派の5人衆のひとりである萩生田光一元政調会長を幹事長代行という重職に抜擢し、裏金議員を復権させたことも追い打ちをかけた。公明党より先に国民民主党の玉木雄一郎代表と高市氏が極秘で会い、高市氏の後ろ盾の麻生太郎副総裁と榛葉賀津也・国民幹事長と接触するなど、公明にとっては自民の〃ナメ切った〃対応ぶりにも公明が自民を見限った、といえる。
公明が抜けたことで、選挙協力もなくなり、自民は次期総選挙で52は減る(JX通信・米重克洋氏)との分析もある。自民党議員に大きなショックが広がっている。
高市氏の後見役の麻生副総裁は公明党幹部のことをかつて〃ガン〃と表現したこともあり、その不仲は有名だ。菅義偉元首相ら本来は公明とのパイプ役が機能しなかったことも、「離脱」を止められなかった原因に挙げるメディアもある。いろいろ後付で理由は付けられるが、「何をしても最後には折れてくれる」という自民側の油断が一番大きいと思う。
公明が連立から抜けたことで首相指名が不透明になった。立憲民主は「野田佳彦代表にこだわらない」と野党各党に伝え、「国民の玉木代表を有力候補のひとり」としたが、玉木氏は「首相となる覚悟はある」といいながらも、立憲に安全保障や憲法改正、原発再稼働の対応を求めるなど煮え切らない対応に終始。自民側も国民や維新を取り込もうと必死だが、いまのところ、そのめどはたっていない。当初、10月15日に予定された臨時国会開催日も20日か21日に延期され、10月末に訪日が予定されるトランプ大統領の相手が誰になるのかも決まっていない。「訪日中止の可能性」の報道も出てきた。テレビの情報番組を中心に熱狂していた「初の女性首相」に待ったがかかっている。
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故安倍晋三首相を敬愛してやまない自民党右派(復古主義派)などの「安倍談話の上書きは許さない」との強い反対で閣議決定を経た「80年首相談話」を出せなかった石破茂首相は同じ10日、「首相所見」を発表して信念を貫いた。発表直前に北岡伸一東大名誉教授と面会しておそらく意見を聞き、保阪正康氏、故半藤一利氏、猪瀬直樹氏らが書いた近現代史の書物を読み、自分で20回も推敲した(記者会見での発言)という所見は、予想通り「植民地支配」「侵略」など加害の歴史認識について歴代内閣を継承する、としてスルーした。しかし、記者会見では日本軍の行動が「侵略」だったことを認める発言をしている。「なぜあの戦争を避けることができなかったか」をさまざまな観点から自分流に検証し、自分の言葉で「今日への教訓」を導き出す内容となった。私は〃リベラルびいき〃なので、安全保障などで内容の一部に見解の相違はあるものの、「ホンモノの保守とは何か」を追求した首相として、歴史の教訓から今日学ぶものを深く洞察した素晴らしい分析と言葉に納得している。古い言葉かもしれないが「オールドリベラリストここにあり」との立場を内外に示したものと評価する。「首相談話」は出し続けることに意義がある。
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一方、パレスチナ・ガザの戦闘をめぐり、トランプ大統領の仲介で、イスラエルとイスラム組織「ハマス」との和平案が一応、合意に達した。10日には、停戦の発効に伴い、和平案の「第1段階」で定められたラインまでイスラエル軍は撤退し、約20万人の市民がガザ北部に戻った。いよいよ13日にも、人質が解放されるか、イスラエル軍がガザから完全撤退し、ハマス側も武装解除に応じるかが注目される。13日にエジプトでトランプ氏を議長としてアラブ諸国と欧州の首脳会議が開かれ、戦闘を再開させないためのに協議する。イスラエルはもうガザでの一方的な殺戮はやめてほしい。一刻も早くガザに平和が訪れることを期待したい。今回は、「高市首相が誕生するのか」「石破首相の80年所感」が中心となった。
▼「人事は全てお任せします」と麻生氏に〃確約〃 高市新総裁
まだ、首相に選ばれるかも確定していないのに、なぜか、高市早苗自民党新総裁のもとでの、人事がメディアで盛んに報道されている。
党役員人事は総裁に決まったのだから当然だ。しかし、官房長官や外相など閣僚人事が「決まった」と新聞が書くのは違和感がある。
10月6日の東京新聞の朝刊。署名がないので共同通信の配信とみられるが、高市氏が下馬評を覆して小泉氏を破った舞台裏を探る記事に「選挙中、高市氏は麻生太郎最高顧問と面会。総裁選後の人事は全てお任せします、と確約していた」とあった。
思わず、「えっ」とのけぞってしまった。あくまで記事通りだとしたらだが。自分の「クイーンメーカー」(この言葉でいいのか迷う)である麻生氏に「相談」するならば、まだ理解できるが人事権全てを渡してしまうとは―。高市氏はただ首相になりたかっただけの人だったということか。
昔、「田中曽根内閣」(田中角栄氏の影響力が強かった中曽根内閣のこと)といわれたことがあった。今回はそれよりひどい〃麻生高市内閣〃になるのか。85歳の麻生氏も麻生氏だが、高市氏が「人事全てを任せる」というのは、まっとうなトップのやることではない。(10月6日)
▼世間に開き直った形の〃萩生田氏抜擢・復権〃
マスメディアは既成事実に弱い―。
「解党的出直し」ではなかったのか。高市早苗新総裁による自民党役員人事が固まった。5人の主要役員のうち、副総裁に収まった「クイーンメーカー」の麻生太郎氏、幹事長の鈴木俊一氏、総務会長、有村治子氏と3人はいずれも唯一解体しなかった派閥の麻生派からだ。いくら高市氏の総裁当選に貢献したからといってやりすぎだろう。論功行賞人事というよりは麻生氏自らが決めたのかもしれない。
最大の問題は言うまでもなく、「解党的出直し」の原点である「裏金問題」の旧安倍派5人組のひとり、元政調会長、萩生田光一氏を「幹事長代行」という党の重職に抜てき、復権させたことだ。
高市氏は選挙中から「裏金問題は人事に影響はない」との伏線を張っていたので、高市総裁となれば、萩生田氏の復権は当然と世論に対して開き直っているようにも見える。高市氏は選挙中にこのことを予告していたのでメディアでは、既成事実になっていた。
そのためか。10月7日付朝刊の朝日、每日、東京の各紙とふだんは自民党に比較的厳しいはずの新聞には、このことを批判する社会面での展開はなかった。
萩生田氏といえば、安倍氏の秘蔵っ子で、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)とのズブズブの関係でも知られる。5年間で2728万円の「裏金」を受け取ったとして、ことし8月、政治資金規正法違反で政策秘書が罰金刑を受けたばかりだ。昨年4月には、「党役職停止1年」の処分を受け、前回衆院選では「非公認」だった。
こういう人物を約半年で復権させた高市氏。テレビの情報番組では、普通のサラリーマン家庭で育ったなど「初の女性首相含みの総裁誕生」とヨイショする番組ばかりであきれてしまう。
総裁選で選出直後の共同通信の世論調査。「高市氏に期待する」が68.4%、女性首相の誕生についても86.5%とご祝儀相場とはいえ、いまのところ世論は高市氏に好感していることがうかがわれる。ただ、この調査では「裏金議員起用反対」が77%にも上っている。
「政治とカネ」「靖国参拝」「外国人政策での共生と包摂」という懸念からくる政権離脱含みの要求を早速、連立相手の公明党から突き付けられた。高市氏にとっては予想外だったのではないか。
頼りの国民民主との連携も最大の支援組織・連合らの力で必ずしもうまくいっているようには見えない。海外メディアからは「極右」に見える高市氏。85歳の麻生氏の指導のもと、どれだけ能力が発揮できるか。右翼バネが強く何をするか分からないところもあるポピュリストでもあるので、国民のひとりとして、その行方をしっかりと見守る必要がある。(10月7日)
▼マスメディアは「スパイ防止法」で高市氏との対決の覚悟を
高市早苗氏の怖いところは、総務相時代の放送の「停波」発言に見られるように、国家権力を使った言論弾圧を何のためらいもなく、口に出してしまうことだ。
高市氏はスパイ防止法の制定を総裁選で公約しており、首相になれば、今後、この問題でマスメディアは真正面から対決することをしいられる。そもそも、スパイ防止法制定は旧統一教会の関連団体「国際勝共連合」のスローガンだった。
その覚悟をマスメディアは固めておく必要がある。そのような内閣ができるということだ。あまり、その自覚がなさそうに見えるのであえて言う。(10月9日)
▼問題の不幸はトランプ、ネタニヤフの両氏の「信用性」にあり
トランプ大統領は、ガザの戦闘をめぐり、イスラエルとハマスの双方が「われわれの和平案の第一段階に合意した」と発表した。和平交渉は一応は前進なのだろうが、中東政治をよく知る酒井啓子氏の分析(朝日新聞)によると、「ハマスが人質解放に同意したのは、イスラエル軍との圧倒的な力の差があり、戦闘を止めるためには、他に打つ手はなかったから」という指摘に納得できる。一方、イスラエルは「何らかの理由を付けて、合意を破って攻撃を再開する可能性は常にある」との見解にも、残念ながら同意だ。
トランプ氏はそもそも、ガザの和平に心から共感しているのか疑問だ。自分のことしか考えない人物であることは、これまでに嫌というほど見せつけられてきた。また、戦争が終わると、裁判が待ち構えているネタニヤフ首相の本気度も疑問だ。この問題の不幸は世界から信用されていない人物が「平和の行方」を握っていることだと考える。
私の予想が間違っていることを心から願う。(10月10日)
▼公明党をナメたあげくの末に
高市早苗自民党総裁は公明党をナメ過ぎていた。完全に相手の動きを読み間違っていたのではないか。
「一方的に連立政権からの離脱を伝えられた」。午後4時45分から始まった記者会見でこう切り出した高市氏の表情はさすがにこわばり、作り笑いもなかった。
まだ、高市首相という結論になる可能性は高いが、面白い展開になってきた。(10月10日)
▼石破氏の80年所感 ジャーナリズムの戦争責任にも言及
石破茂首相の80年所感全文を読んだ。保守政治家として過去の戦争と正面から向き合いジャーナリズムの戦争責任や今後の在り方まで言及する素晴らしい内容である。石破氏が自ら書き、専門家がデスク役をやったのではないか。
まず、感想としての第一報を書いてみた。閣議決定を経た「首相談話」の方がよかったが、自民党復古主義派の妨害で仕方なかった、と思う。
私は決して自民党支持ではない。公明党の政権離脱という中でやはり、こういうものを書ける保守政治家がいること自体を誇りに思う。石破氏が政権を去るのは何とも寂しい。(10月10日)
▼石破首相がどうしても国民に残したかった言葉 「80年所感」の意義
安倍晋三首相の「戦後70年談話」で私が一番問題だと考えたのは、「日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の8割を超えています。あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」という部分だ。
作家の保阪正康氏はこの部分について「論理が逆立ちしている。本来は、史実を見つめたうえで、謝罪については次の世代に任せる、ということではないか。(中略)ある面、歴史修正主義(最近では「歴史否定」という言葉を使うそうだ)を思わせる内容だ」と批判している(15年8月21日、毎日新聞)。
安倍談話はいつの間にか、高市早苗新総裁もそうだが、安倍首相を尊敬し、崇拝する自民党の旧安倍派を中心とする右派(復古主義派)にとって「これで、もうみそぎは済んだ。その上書きは許さない」との象徴となり、石破茂首相の「80年談話」発出の大きな障害になってきた。
今回の「80年石破所感」はそのような抵抗にあいながらも、閣議決定を経た「首相談話」という形にはできなかったが、何とか辞任直前にはなったが、石破氏がどうしても国民に残したかった言葉だったと考える。
1995年の戦後50年に際し、村山富市首相は初めて閣議決定した談話を発表して以来、2005年の小泉純一郎首相による60年談話、15年の安倍氏による70年談話と続いた首相談話でのキーワードは「侵略」「植民地支配」「痛切な反省」「おわび」だった。東京新聞は11日付の社説で「安倍談話であいまいにされた部分を埋める談話を閣議決定に基づいて出すべきではなかったか。率直に言って期待外れだ」と書いた。厳しい批判だが、石破氏の優柔不断とも見えてしまう政治姿勢や党内事情を考えると、やむを得ない部分はあると思う。だから、石破氏は「歴史認識」の問題には直接触れず、どちらかというと内向きの所感になったとのだと思う。だからといってその内容は十分説得力のあるものになっている。
今年8月の日本世論調査会(共同通信と加盟新聞社で構成)の「戦後80年調査」によると、①閣議決定した談話57%②首相のメッセージ23%③首相のメッセージは出す必要はない15%ーと8割の人々が何らかのメッセージを出すことを支持している。「選択的夫婦別姓」や「女性・女系天皇」などの問題と同様にこの問題でも、国民の意識と自民党の考え方には大きな隔たりがあることを確認しておきたい。私はそれでも自民党が固執するのは、そのバックには「日本会議」のような自民党を支える右派組織の考え方があると考えている。
石破所感は「歴史認識」については歴代内閣の立場を継承。そのうえで過去3度の談話ではあまり触れられていない「なぜあの戦争を避けることができなかったか」を①明治憲法の問題点②当時の政府や議会、メディアの問題③今日への教訓など、多岐にわたってやさしい言葉で論じている。全文は新聞1面の3分の2に及ぶ。
この中で私が注目したのは、歴史の教訓としてメディアの問題を取り上げていることである。「政府が誤った判断をせぬよう、歯止めの役割を果たすのが議会とメディアです」とし「使命感を持ったジャーナリズムを含む健全な言論空間が必要です。先の大戦でも、メディアが世論を煽り、国民を無謀な戦争に誘導する結果となりました。過度な商業主義に陥ってはならず、偏狭なナショナリズム、差別や排外主義を許してはなりません」と語る。そして「これら全ての基盤となるのは、歴史に学ぶ姿勢です。過去を直視する勇気と誠実さ、他者の主張にも謙虚に耳を傾ける寛容さを持った本来のリベラリズム、健全で強靱な民主主義が何よりも大切です」と訴える。現状の排外主義の跋扈を憂いているようにも感じた。
そして、以下は、私が安倍談話の「子や孫」部分への批判なのかなと感じた感じた箇所である。
「戦争の記憶を持っている人々の数が年々少なくなり、記憶の風化が危ぶまれている今だからこそ、若い世代も含め、国民ひとりひとりが先の大戦や平和のありようについて能動的に考え、将来に生かしていくことで、平和国家としての礎が一層強化されていくものと信じます。私は国民の皆様とともに、先の大戦のさまざまな教訓を踏まえ、二度とあのような惨禍を繰り返すことのないよう、あたう限りの努力をしてまいります」
「本当の保守とは何なのか」を追求してきた政治家らしい素晴らしい分析と言葉に私は感動すら覚えた。「戦後」という言葉が日本のトップから語られている間はまだ、「平和」なのだとつくづく感じた。皆さんにも全文を読むことをお勧めする。(昨日投稿した一報の拡大版です)。(10月11日)