トランプ米大統領、行き先不明の漂流に 「MAGA」派に亀裂広がる 支持率30%台に下落 レームダックが始まったとの観測も 1年後の中間選挙控え政権の盛衰が国際関係の行方左右 

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 トランプ米大統領の第2次政権が10カ月目から11カ月目に入るわずかの間に、その足元が一気にぐらついてしまった。多くの世論調査によれば、憲法・法律無視の大統領令を乱発して米民主主義を自分が全権力を握る独裁国家に造り変えようとしてきたトランプ氏の支持率は、この夏にはすでに40%台半ばからから30%台半ばへと下落していた。加えてトランプ氏の強固な支持勢力にも、内政および外交問題をめぐって険しい意見対立やトランプ批判が広がり出した。米メディアには、トランプ氏は活気ある統治能力を失ったまま(3年後の)任期切れを待つだけの「行方」定めぬ漂流に入った=いわゆるレームダック(死に体)化=との気の早い観測もちらつきだしている。

 米国では2026年11月初めに中間選挙がある。連邦議会上院議員のうちの3分の1、下院議員全員が改選となり、任期が満了した州知事の選挙、各自治体の公職に関する選挙が実施される。トランプ政権・共和党と民主党の政治決戦の年。トランプ政権の盛衰は、すでに新たな分断とブロック化が絡み合う新しい時代が始まった国際関係の行方も左右するだろう。

揺れる足元 

その1:トランプ氏、実は特権階級

 トランプ氏を苦境に追い込んだきっかけは、大富豪の投資家エプスタイン氏が人身売買で集めた未成年女性を各界の有力者・富豪たちの楽しみに提供するクラブを経営して逮捕・起訴され、獄中で自殺(2019年)した事件の裁判資料の公開問題。トランプ氏はエプスタイン氏と親交があったことから、大統領選挙戦で当選すれば司法省が持つ資料をすべて公開すると約束していたが、当選すると公開拒否に転じた。

 公開要求の先頭に立ったのが、トランプ支持勢力の中核にいる米国第一主義運動「MAGA」(米国を再び偉大に)派。議会下院の共和党が公開を求める決議に動き、トランプ氏は説得に努めたが効はなく決議採択。反対は共和党からたった1票、棄権2票、賛成は民主、共和両党がほぼ半分ずつの471票。上院共和党も加わって全員が公開賛成で採択。誰も予測できなかった決着だった。トランプ氏はこの流れを察知して反対のままの「惨敗」回避のためか、公開賛成に転じ、法案署名を約束した。

 MAGAには強い「特権階級不信」があり、フロリダに豪華な別邸を持つ富豪でエプスタイン氏の客という身分のトランプ氏が何者かを確認しようとしたと見られている。

その2:有力下院議員の「造反」

 エプスタイン文書公開要求の先頭に立ってきたM・J・グリーン共和党下院議員は公開法が成立したあと、年明けに議員を辞職すると宣言するビデオを公開した。共和党下院議員の若手リーダーの1人で2020年選挙初当選、活発な行動力と発言でトランプ氏に気に入られて、数少ない女性有力議員になっていた。同議員は会社勤めをしながらSNSの極右論客となった陰謀論主義者だった。

 米主要メディアが報じたビデオの内容によると、グリーン氏は現実の政治の現場で経験を積むうちに、徐々にトランプ氏の政策を支持できなくなり、トランプ氏と共和党に失望感を抱くようになった。エプスタイン文書公開要求に始まり、不法移民の大量国外追放反対、高度技術を持つ移民は受け入れる、人種差別や反ユダヤ主義につながる政策は厳格に排除、イスラエルに対する軍事援助の継続反対、具体的な証拠を示さないままの「麻薬運搬船」に対する爆撃反対など、トランプ政権が進めている主要な政策のほとんどに反対で、こうした政策を続ける限り、2026年の中間選挙で共和党の敗北は必至とみていた。

 グリーン氏はメディアに登場することも多く、何らかの形で政治活動を続けるとみられている。有権者への政治的影響は無視できないだろう。トランプ氏は激怒して「裏切者」と罵倒するしかなかった。

その3:保守主義VS白人至上主義

 トランプ支持のTVジャーナリスト、カールソン氏が白人至上主義運動の若手活動家フエンテス氏にインタビューしたが、内容が好意的に過ぎるとトランプ支持派の中から批判が出た。トランプ氏は2年前にフロリダ別邸の豪華リゾートホテルに招いて夕食を共にしており、インタビューを歓迎した。しかし、共和党の多数を占める保守主義者は、白人至上主義とは相いれないとして、トランプ氏に同調しなかった。この論争は表面化すると簡単に決着するものではなく、尾を引くだろう。

 この論争と並行してトランプ氏が、ニューヨ-ク市長選挙で圧勝した民主党急進左派のマムダニ氏をホワイトハウスに招いて「友好的な意見交換」をした。トランプ氏は選挙戦でマムダニ氏を徹底攻撃、当選阻止に手を尽くしたが、一転して和解・協力に出た。だが、世論向けのこのトランプ氏の独走は次の同州知事選挙で民主党知事に取って代わろうと、下院幹部のステファニ議員を候補者に押し出したばかりの共和党首脳部を怒らせた。

その4:その他

▽政府機関封鎖の大誤算 
 与野党は今年度予算で対立、治安維持などの一部を除く政府諸機関が10月初めから43日間(史上最長)封鎖された。争点はオバマ民主党政権が共和党の反対を押し切って成立させた低所得層向け医療保険(通称オバマケア)への助成金を共和党が削除し、民主党が徹底抗戦に出たこと。

 しかし、トランプ氏らの世論は民主党非難に向くとの見通しは甘かった。世論の怒りが高まって、民主党も助成金を「善処」するとの共和党の口約束を受けで封鎖は解かれた。医療保険などの社会保障制度は「怠け者」をつくるだけとしてきた歴史的な基本政策を離れて、トランプ共和党は具体的な「善処」に迫られている。

▽ゲリマンダーで足元からも反対 
 トランプ氏は来年11月の中間選挙での勝利を確実にするため、共和党が知事や州議会を掌握している州で人口比に応じた現在の連邦下院の選挙区割りを、共和党候補が有利に(民主党候補が不利に)なるように恣意的な区割り設定の指令を出し、作業を進めてきた。こうした選挙区割りの変更は「ゲリマンダー」と呼ばれる。

 その一つ、テキサス州では共和党が5議席増えるといわれ、民主党もカリフォルニア州で同じ5議席増のゲリマンダーで受けて立つ構えに入っていた。そのテキサス州で民主党側の提訴を受けた連邦地裁が「人種差別の違法」として実施を差し止める判決を下した。共和党側は控訴の構えだが、共和党内部からこのような「正義にもとる」ゲリマンダーに反対する動きも出てきた。米国の民主主義が問われている。

▽「政治捜査報復」裁判で敗北
 トランプ氏はバイデン前民主党政権の4年間に、2020年大統領選でバイデン陣営の投票・開票の不正操作によって当選を盗まれたと根拠なき主張を掲げた議会乱入事件への関与を問われたほか、不動産業ビジネスに関する不正行為、女性問題などでの刑事捜査を受け、4件で起訴された。これに2016年大統領選挙でロシア情報機関から違法な支援を受けた追及とされた「ロシア疑惑」を加えて、大統領に再選されたらこれらの捜査・調査にかかわった司法当局や議会関係者に報復すると宣言していた。

 そのうちの2件の裁判で、トランプ氏は手痛い敗北を喫した。トランプ1期目の「ロシア疑惑」では捜査を指揮したコミー連邦捜査局(CIA)長官は議会での「虚偽証言」で、トランプ一族経営企業の資産価値の過大申告を捜査・起訴したニューヨーク州ジェームズ司法長官は「不当捜査」でそれぞれ起訴されていた。トランプ氏は起訴に持ちこむ証拠が容易に見つからないとして捜査が進まないのに苛立ち、側近で自分の個人弁護士を臨時検察官に仕立てて無理矢理にこの2件を起訴に持ち込んだ。その手続きが不適切として起訴は棄却された。

 コミー氏の偽証容疑は判決直後に時効となった。トランプ企業に対しては正式の検察官が任命されれば控訴の可能性は残っている。しかし、バイデン前政権の司法当局、あるいは議会・議員が行った捜査や調査そのものから起訴につながる証拠を探し出すことは極めて困難。トランプ氏は諦めないのだろうか。      

                                 (11月30日記)

(トランプ氏に2024年大統領選挙に勝利をもたらした最大の要因は、インフレに苦しんだバイデン前政権と対比された「経済に強い」という評価だった。だが、トランプ氏が仕掛けた関税戦争の跳ね返りインフレが米経済ににじり寄ってきた。トランプ氏はノーベル平和賞狙いのイスラエル・ガザ戦争、およびウクライナ戦争の「和平仲介」で苦闘を続けている。これらについては稿を改めたい)