「信」薄き長期政権と「コロナ危機」

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 新型コロナ危機との戦いが迷走を続けている。少数の側近に囲まれた安倍晋三首相の人気取り政策に国民の不信は深まるばかりだ。感染拡大阻止の決戦場となった首都圏や関西圏などでは、知事が独自の対策強化へ動き出した。自民党内の若手議員グループも沈黙を破って首相批判の声を上げた。その中で機器も装備も人手も欠乏して医療崩壊に瀕する医療現場では、医師や看護師たちが命懸けの苦闘を続けている。

思い付き人気取り政策と民意

 新型コロナの緊急事態宣言を受けて共同通信が4月10-13日に実施した世論調査(4月14日付け新聞に掲載)によると、安倍政権支持40・4%、不支持43・0%、不支持が上回った。新型コロナ危機に関連する政策がそろって不人気なのが直撃した。緊急事態宣言発令の「評価」は75・1%(%、以下同じ)と多数の支持をえたが、「遅すぎた」の批判がそれ以上の80・4、アベノマスクは「評価しない」76・2、経済緊急対策は「どちらかといえば」を含めて「期待できない」72・1、30万円給付は「一律にせよ」が60・9、感染防止の休業は「政府が補償せよ」が82・0。

 一連の安倍政策と民意との乖離は明らか過ぎるほどだ。まず批判が集中したのが「30万円」の中身。条件が厳しく、実際に給付を受けられるのは2割程度で、実際の給付は数カ月後と報じられて、自民党内や公明党から「一律一人10万円支給」の助け船を出される始末。

 地方自治体からはそろって「休業と補償はセット」との声も上がった。政府は外国ではそんな例はないと突っぱねているが、米国や欧州諸国ではとうの昔に「生活資金」の給付が行われていると広く報道されている。

 安倍首相はオリンピックや経済への影響を恐れて、当初から事態をできるだけ「矮小化」したいとの思惑が先に立って、対応が後手々々の中途半端に終わってきた。「108兆円」を看板に掲げた緊急経済対策もその名の通り、念頭にあるのは「コロナ禍」を最も重く背負わされる非正規雇用者やパ-ト、アルバイト、商店、個人経営や中小企業など社会的弱者の支援・救済よりも経済界の視線や市場の動向、そして人気取りだ。

 突然の一斉休校、アベノマスク、「うちで踊ろう」、そして「108兆円」は将来の経済効果を見込んだ「期待値」というから驚く。7都府県に絞った緊急事態宣言も16 日にはなし崩し的に全国に広げた。

「信」なくも「支持」あればいいのか

 国民が安倍首相への信頼を失ったのは、言うまでもなく「森友学園」「加計学園」「桜を見る会」と次々に引き起こしたスキャンダルに大きな理由がある。不都合な事実ははぐらかし、公文書の記録はないことにしたり、破棄したり、さらには改ざんする。カギを握る面会や会合はなかったことにしてしまう。この不誠実極まる対応で逃げ切りをはかってきた。

 「サクラ」は今も追及が続いており、安倍首相は支離滅裂な言い訳に追い込まれている。「森友学園」では公文書改ざんを命じられて苦悩の末、手記と遺書を残して自殺した近畿財務局職員の夫人が損害賠償の訴えを起こしている。この公文書改ざんは検察が不起訴処分にした。安倍首相が勝手に法律の解釈を変更して検事の定年延長を行ったのは、当時の検察首脳を検事総長に据えて遇するためと大方が勘繰って当然である。

 各種の世論調査によれば、安倍首相に支持率は40〜50%で推移してきており、50%を超えることもある。消費税上げとかスキャンダルが浮上した時などに、不支持が支持を超えることがあるが、大体は支持が不支持を上回ってきた。今は不支持が逆転しているが、いずれは戻ると高をくくっているようにも見える。確かに世論はそれを許してきたのも事実だ。しかし、信頼を失いながらも長期政権の記録更新に酔っている首相の下で、新型コロナのまん延という大危機を乗り越えることができるのだろうか。コロナ危機はいずれは終息するかもしれない。しかし、新たな大危機は、またいつ襲ってくるかわからないのだ。

ここまで来た「安倍不信」

 共同通信の今回の世論調査は2020年に入って5回目である。この5回の調査からまず、安倍内閣支持率の推移を見よう。

▽安倍政権を支持する

➀49・3%➁41・0%③49・7%④48・5%」⑤40・4%」 平均値45・2%」

▽安倍政権を支持しない  

➀36・7%➁46・1%③38・1%」④38・8%」⑤43・0%」 平均値40・5%

 次は安倍首相の信頼度にかかわる項目をみる。

▽安倍政権を支持する人が選んだ理由(以下数字は%):首相を信頼する 9・8、首相に指導力がある9・3、 他に適当な人がいない 50・5(以上は5回調査の平均値)、経済政策に期待できる 8・2、外交に期待できる 13・3(今回を除く4回の平均値)。

  ▽安倍政権を支持しない人のその理由:首相が信頼できない37・6、首相に指導力がない7・9、首相に相応しくない15・6(以上は5回調査の平均値)、経済政策に期待が持てない 22・5、外交に期待が持てない5・2(今回を除く4回の平均値)。

  安倍首政権を支持する人の中でも「首相を信頼する」「指導力がある」という積極的な支持は20%足らず、政策的な期待を寄せる人を合わせても40%に届かない。半数は「他に適当な人がいない」からという消極的支持に止まっている。安倍政権を支持しない人は「信頼できない」「指導力がない」「ふさわしくない」と首相としての適性を否定するものに加えて、政策面でも「期待しない」と全面的な不信がぶつけられている。

 こうした世論調査の数値で見ると、「他に適当な人がいない」という消極的政権支持も含めて安倍首相に信頼を置かない人は70%前後を数えるのではないかと思われる。世論調査といえば政権の支持率が注視されがちだが、大事なのは国民の信頼があるかないかだ。世論調査機関もメディアも浮動する支持率より「信頼」をもっと重視するべきだと考えている。

 安倍首相は「(民)信なくば立たず」という孔子の言葉をよく引用する。その意味を理解して言っているのか分からないが、本人が歴代で最も「信」薄き首相であると知らないのだろうか。国民は首相に聖人君子を求めてはいない。だが、人間として信頼されなければ、本当の支持は得られないことを首相は知らなければならない。

「禁じ手」乱用、党・官僚を支配

 安倍首相の政治手法の特徴は、自分がやりたいことを実現するためには手段を選ばないことだ。憲法9条は集団的自衛権を認めていないというのが内閣法制局の定着した解釈で、歴代の保守党政権はこれを尊重してきた。安倍首相は、法制局人事の長年の慣行を破って、自分の解釈に従う外務省幹部を長官にして解釈変更を手に入れた。  

 日銀は通貨の安定を維持するために歴代政権からの独立性を守ることを基本政策としてきた(どこの国の中央銀行も同じ)。安倍首相は「アベノミクス」を推進するために財務省高官を総裁に据えて、金融政策を思い通りにしてきた。

 時々の政権が省庁人事をほしいままにするのは三権分立のバランスを崩すとして、こういう人事は「禁じ手」とされてきた。検事の定年延長もそうだ。

 安倍首相は内閣官房に省庁幹部人事を掌握する内閣人事局を設けて、官僚支配といわれた政治を一変させて強権支配の権力を手にした。「森友学園」や「加計学園」では、あの誇り高き高級官僚が首相の使い走りをする様がさらけ出された。与党に対しても閣僚人事や党役員人事、さらには解散権をカードに支配を固めた。こうした政治力には長けている。

 安倍首相は昨年11月に首相在任期間が歴代最長となり、以来その記録を日々、更新中である。この歴史的政権の基盤は、国民の「信」の上にあるのではなく、与党・自民党および官僚支配の権力を掌握したことに拠っている。民主主義のかたちとしては実に異常だ。「コロナ危機」は民主主義を見直す機会を与えていると考えている。