「コロナ差別」という害悪 「不安」が招く負の連鎖 日赤が告発の「宣言」

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 日本赤十字社が3月末に出した「新型コロナウイルスの三つの顔を知ろう!」という「宣言」をご存じだろうか。分かりやすいイラストも付いており「負のスパイラルを断ち切るためのガイド」だという。このところ、日本の内外でのコロナウイルスの感染の拡大とともに目立ってきた「コロナ差別」について、日本を代表する医療機関の現場から出された告発の〃宣言〃ともいえる。興味のある方は、インターネットやスマホで是非、ご覧ください。


(URLは以下の通り)

http//www.jrc.or.jp/activity/saigai/news/200326_006124.html

 このガイドの内容を少し紹介すると、まず、新型コロナウイルス感染症には、三つの顔があるという。第1の顔は「病気」。第2は「不安」。第3は「差別」。この三つの顔に「知らず知らずのうちに私たちも影響を受けている」。この三つは、つながっており、一人ひとりが気を付けないと、(どんどん)力を付けていく。第1は病気そのもので、第2は目に見えないことやワクチンも薬もまだ開発されていないことから、私たちは強い不安や恐れを感じ、振り回されてしまうことがある。第3は、嫌悪・偏見・差別で、不安や恐れは人間の生き延びようとする本能を刺激。そして、ウイルス感染に関わる人や対象を日常生活から遠ざけたり、差別するなど、人と人との信頼関係や社会のつながりが壊されてしまう、と警告する。特に第3の「差別」を防ぐために、①「確かな情報」を広める②差別的な言動に同調しないーことを挙げる。その上で、①小さな子どものいる家庭②高齢者③治療を受けている人とその家族④自宅待機している人⑤医療従事者⑥日常生活を送って社会を支えている人ーこの事態に対応しているすべての方々をねぎらい、敬意を払おう、と訴えている。

医療従事者や感染者中心に差別相次ぐ

 特に差別の目立つ医療従事者や感染者を出した家族への事例を新聞報道などから拾うと・・・。
 2月に感染者が確認された神奈川県相模原市の病院では、抗議の電話が殺到したり、看護師の子供が幼稚園に登園を断られたりした。病院の前を通るバスの車内で「(バス停に)止まるな」と叫ぶ乗客もいたという。県医師会の宮川政昭副会長は「他の医療機関でも同じような状況が続いている。このままだと患者の受け入れを萎縮し、医療崩壊につながる」ことを危惧する。感染者やその家族への偏見・差別もひどい。学生の感染を公表した関西の大学には「殺す」「火をつける」といった脅迫まがいの電話があった。こうなるともはや犯罪だ。(4月15日、日本経済新聞電子版)

 医師と看護師の感染が確認された兵庫県小野市の北播磨総合医療センターでは、感染者と接触していない職員や患者、家族らから「ばい菌扱いされた」「勤務先から出勤停止と言われた」などの訴えが相次いだ。ライブハウスでクラスター(感染者の集団)が発生した大阪市では、別の店舗の経営者から「感染リスクが高い『危ない場所』との風評被害が出ている」との声が上がる。(3月28日付東京新聞朝刊)

 このような事例は全国で相次いでおり、医師会や看護師団体などが声を上げ始めた。

米国、欧州でもアジア系への人種差別

 米国でも新型コロナウイルスの感染者や死者の拡大に伴いアジア系米国人への差別が拡大し、ヘイトクライムにまで発展している。4月2日の米オンラインメディア「ハフポスト」(HuffPost)に掲載された安田聡子記者のリポートによると、3月14日にはテキサス州でアジア系米国人の家族3人がスーパーマーケットで刺されるという事件が起きた。事件では、2歳と6歳の幼い子供を含む家族3人が、スーパーマーケットで刺された。止めようとした従業員も、足を刺された。捕まった19歳の容疑者は、警察に家族を刺したことを認めており「家族が中国人で、新型コロナウイルスを感染させようとしていると思って刺した」と話しているという。

 アジア系米国人への差別やヘイトクライムの原因の一つとして指摘されるのが、3月下旬に記者会見などで繰り返されたトランプ大統領の「新型コロナウイルス」を「中国ウイルス」と呼ぶ発言だ。自らを「戦時大統領」と呼び、わざわざ中国との敵対的な関係を強調した。4月に入ってからはさすがに「中国ウイルス」との言葉は控えるようになったが、1月に控えた大統領選への保守系支持者へのアピールとみられる。

 安倍首相も4月10日、ジャーナリストの田原総一朗氏と会った際に、「実は私自身、第三次世界大戦は、おそらく核戦争になるであろうと考えていた。だが、このコロナウイルス拡大こそ、第三次世界大戦であると認識している」(4月14日、田原氏の公式サイト)と述べている。安倍首相の場合、敵は「ウイルス」なのだろうが、トランプ大統領の「戦時大統領」のまねをしたとは思いたくないが、何となく発想が似ているのではないか。

 米大リーグ、カブスのダルビッシュ有投手が新型コロナウイルスの感染拡大で、アジア出身者やアジア系住民が差別的な扱いを受けたり、銃を購入する動きが出ていたりする現状で、動画投稿サイト「ユーチューブ」で「それはちょっとこの先、怖い部分でもある」と不安を吐露した、と4月4日の共同通信は伝えている。

 イタリア、フランスなどの欧州でも、新型コロナウイルス感染が中国の武漢市で始まったことから、アジア系住民に対する人種差別が相次ぎ、AFP通信によると、 フランスの現地紙クーリエ・ピカールは1月26日、日曜版の1面の見出しに「黄色人種警報」と付け、謝罪に追い込まれたという。

差別の加害者となる可能性に警鐘

  2011年3月の東電第1原発事故でも被災地や被災者を中心に差別が広がり、その傷は未だに癒えない。そして、今回の新型コロナウイルスの「コロナ差別」。世界で、日本で感染者や死者はまだまだ拡大するいっぽうで、先は見えない。だから、誰でも中途半端ではない不安や恐怖も募る。その中で日本赤十字から発せられた叫びは、われわれ自身が常に理不尽な「差別」の加害者となる可能性があることに警鐘を鳴らしている。