「検察庁法改正案」検察の不偏不党脅かす ネットの抗議に470万件 かつては「厳正中立」貫いた「ミスター検察」も 

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 国会で審議が始まった、政府の判断で検察幹部の定年を延長できるという検察庁法改正案は、人事や捜査へ政治介入を招くとして、ネット上で抗議が広がっている。宮本亜門氏らのハッシュタグ(#検察庁法改正案に抗議します)へのツイートが10日夜現在、470万件を超えたという。

政治の最優先はコロナ対策だ

 政治がいま全力で取り組むべき課題は、国民の生命、健康を守ること、新型コロナウイルスの封じ込め、医療、収入減や雇用、失業、経営難、教育、子育てなどに全力投球することではないか。「どさくさに紛れて自分を守るために火事場泥棒みたいだ」「保身のために法律や制度を変えないでほしい」というツイートが多いという。     
 検察官は犯罪の嫌疑があれば政権中枢の政治家でも捜査し、元首相を逮捕したこともある。だから政治的な中立と不偏不党こそバックボーンとされてきた。そのために地位や俸給、退職金などの面でも優遇されているとされる。問題なのは、改正案は政治的中立性とか不偏不党という原則を脅かすことになりかねないことにある。

政治に距離を置く

 検察庁法では検察官の定年は63歳で、検事総長のみが65歳で延長の規定はない。東京高検検事長の黒川弘務氏は2月に退官予定だったが、1月に安倍政権は閣議で半年後の8月まで延長を決めた。黒川氏は官邸と近く検察トップの検事総長に据えるための措置とみられている。

                        
 検察が政権との距離が近くなると、政治に対する監視の目が効きにくくなるばかりでなく、例えば戦前のように政治の意向で法律をねじ曲げて、身柄を勝手に拘束するということが簡単にできるようにもなりかねない。だから検察には政治とは厳正中立、不偏不党が求められ、それが司法の独立にもなり国民の信頼を生んできた。  
 それでなくとも安倍政権は、内閣法制局長官人事で内部昇格の慣例を破り、安保法制で首相の考えに近い外務官僚を登用し、内閣人事局を使って幹部人事を統制したことで、官僚が政権の顔色をうかがうようになったと見られている。

大所高所から判断を

 少し古くなるが法務省を担当していたころ、「ミスター検察」と異名のある伊藤栄樹刑事局長がいた。岸信介元首相や松野頼三氏らが絡んだとされるダグラス・グラマン事件が発覚。国会の答弁で伊藤氏は「巨悪は剔抉します。捜査は厳正中立、不偏不党で行われています」と、閣僚や議員席をにらんだ。ロッキード事件から10年目で戦後汚職の総決算といわれ、東京地検は捜査開始宣言までして取り組んだが、時効が壁になり不発に終わった。厳正中立で言うと、伊藤氏は検事総長になってからも国会議員と会う時は、国会と法務省の中間地点にある喫茶店などを選んだ。たまにわれわれと新橋の焼鳥屋に行くと、会計は何千何百何十何円まで割り勘にした。これが気に入ったらしく時々声を掛けてきた。伊藤氏は「総長を卒業しても怪しまれないように、天下りや企業の顧問弁護士はやらない。政治評論家をするんだ」と言っていたが、惜しくも退官2カ月後に亡くなられた。
 この問題は是非、善悪が単純で誰にも分かりやすい。だから国民の関心も高い。古語に着眼大局とあるが、三権分立や司法制度、法治国家のあるべき姿など高い視点から判断してほしいところである。