「検察庁法改正案の今国会成立断念」 ネット世論が政権直撃 決定打は内閣支持率急落

投稿者:

   安倍晋三政権は18日、検察庁法改正案の今国会成立を断念し、翌日、「怒りのツイート政権直撃」(毎日新聞)「Twitterデモが政治を動かした」(ハフポスト日本版)と報道された。5月と前月の世論調査データの比較分析すると、抗議世論の中で急落した内閣支持率が政策転換を促す決定打となった、と推定できる。

4月:一律10万円で支持・不支持が拮抗

 4月、メディアの世論調査で内閣支持率は、月前半の調査では低下し、後半は一変して支持・不支持が拮抗した。調査日が、新コロナ対策の国民1人一律10万円給付への転換(16日)の前か後かで結果が分かれた。「10万円給付がなかったら内閣支持率はもっと悲惨だった」「(内閣は)「首の皮一枚はつながったか」という自民党の閣僚経験者の言葉を毎日新聞は21日朝刊で伝えた。

5月:支持率は30%台に急落

 5月も前半と後半では、対照的な調査結果となった。

 〈表1〉5月の内閣支持率  %(前月比)

産経共同朝日NHKANN
調査日9/10日8-10日16/17日15-17日16/17日
支持44.1(+5.1)41.7(+1.3)33(-8)37(-2)32.8(-7.0)
不支持41.9(+2.4)43.0(+0)47(+6)45(+7)48.5(+9.9)

  産経新聞と共同通信の調査は、検察庁法改正案が衆院内閣委員会で審議入りした8日の直後で、SNS(交流サイト)のツイッターでの「#検察庁法改正案に抗議します」の投稿は始まったばかりだった。

 一方、朝日、NHK、ANN(テレビ朝日のニュースネットワーク)の調査は5月15-17日で、抗議のツイートが急拡散していた。

キョンキョンも抗議

 経過をたどると、日経新聞が10日、『#検察庁法改正案に抗議します』というハッシュタグ(検索目印)を付けた市民や野党議員、著名人のツイートが相次ぎ、一時約380万以上を記録した」 (日経サイト午後9時31分、共同通信配信記事)と報じた。俳優の小泉今日子さん、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさん(後日削除)らの実名があった。その後、演出家の宮本亜門さん、作家でタレントの室井佑月さん、音楽グループ「いきものがかり」の水野良樹さん、元格闘家の高田延彦さん、俳優の西郷輝彦さんらがツイートしていると新聞などで報道された。俳優の井浦新さんの「もうこれ以上、保身のために都合良く法律も政治もねじ曲げないで下さい。この国を壊さないで下さい」という意見も紹介された。

 今回のツイートは、その数の多さと拡散スピードが際立っているが、次の3点の特徴がある。

 ①日ごろ、政治的発言の少ない日本の芸能人ら多様な分野の人が声を上げた。

 ②自動的に多数の投稿をするプログラムによる投稿は少なかった。 

 ③対抗するグループのツイートが少なかった。

  *②③は鳥海不二夫東大准教授(計算社会科学)の分析。朝日、毎日が報道

政権:ネット世論無視、成立めざす

 広がるネット世論への政権側の反応に関しては、朝日が13日朝刊で「抗議の声、背を向ける自民 数百万ツイート『あり得ない数字』」という見出しで、「自民党の森山裕国会対策委員長は記者団に『多くの国民が関心を持っていることは分かるが、600万だったかは知るよしはない』と、ネット世論への疑義を語った」「自民幹部は『いまから芸能人が反対したところで法案審議は止まらない』と話す」と書いた。そして、「直近の世論調査で内閣支持率が大きく変動しておらず、自民は週内にも法案の衆院通過をめざす考えを変えていない」と指摘した。

 15日、野党が、法案を担当する武田良太行政改革担当相に対する不信任決議案を出したことから採決は見送りとなった。しかし、週明けに与党が採決を強行するのではないか、との予測もあった。

NHK:不支持、2年ぶりに上回る

 ところが、その間にメディアは世論調査を進めていた。調査は日曜日17日までで、朝日はウエブ版に同日午後9時19分に、結果を公開した。調査方法は朝日もNHKも電話方式で、回答者数も朝日1185人、NHK 1263人と同規模だから、NHKの集計・分析も17日夜にはまとまっていた可能性が高い。両社の調査結果は「内閣支持率が大きく変動」したことを示した。特に、内閣支持率が比較的高めに出る傾向のあるNHK調査で、「支持しない」が「支持する」を上回ったのは、一昨年6月の調査以来で、政権にはショッキングな数字だった。

 方針変更を最初に報じたのは読売で、18日朝刊に独自ダネ「今国会成立見送り検討」を掲載した。この取材は17日だから、調査結果判明と政策変更が同時間帯だったことを示している。政権がどういうプロセスで政策を転換したか、深層報道を政治部記者に期待したい。

検察庁法:8割が改正急ぐな

 民放は18日早朝、読売の独自ダネの紙面を紹介した後、自社取材で速報。午前中には新聞、通信各社も後追いした。しかし、NHKは正午のニュースでも、官房長官の記者会見での「当然、成立させるために法案を国会に提出している」との発言を放送。ネット検索すると、午後3時28分の「事実上見送り」が初報で、速報を旨とするテレビの在り方とはかけ離れた仕事ぶりだった。ニュース7のトップは午前中に発表されたGDPとコロナ危機の経済・生活への影響。ホットニュースの検察庁法改正案見送りは2番手で7時4分25秒から。7時前、安倍首相がぶら下がりインタビューで見送りを表明する動画を流した。ニュースバリューの判断にも疑問符がつく。

 検察庁法改正案について世論調査結果は次の通り。

 〈表2〉検察庁法改正案 %  

朝日NHKANN
賛成151715
反対646268

 3社の数字は同じ傾向を示している。朝日の調査では、同法案の成立を「急ぐべきだ」は5%で、「急ぐべきではない」は80%だった。(産経と共同の質問に検察庁法関係はない。調査日は〈表1〉と同じ)

「国民は首相を辞めさせることはできる」

 安倍一強政権が、世論や野党の反対があっても特定秘密保護法(2013年)、安全保障関連法(2015年)のように与党の数の力で強行採決して成立させる政治手法を今回、一時的に引っ込めた形になった。この背景には、直面する最大の課題・新型コロナ対策に集中しない姿勢への批判、現政権の長年の恣意的政治に対する不信感があり、これに検察庁法改正という個別政策に抗議するネット世論の大きなうねりが加わって、政策変更を余儀なくさせたわけだが、その政策判断の核心に内閣支持率の急落があった、との構図を上記で描いてきた。

 内閣支持率については、 「議院内閣制の日本では首相は国民が選ぶことはできないが、辞めさせることはできるシステムとなっている」(井田正道明治大学教授『世論調査を読む』明治大学出版会、2013年)との位置づけがある。政治指標としての内閣支持率の重要性がますます高くなったことを今回の検察庁法改正案をめぐる動きは示した。

「死んだフリかも」

 今回の方針転換が、内閣支持率急降下にブレーキをかけるかどうかは疑問だ。一律10万円給付は分かりやすい政策への大転換だったが、検察庁法改正案は秋の臨時国会で成立を目指す、という先送りで、大転換とは言えない。法案に反対する人も、落語家・立川談四楼さんのように「ツイッターデモの効果ありだね。与党も批判を気にして色々動いてるんだ。でも死んだフリかもしれないから気をつけよう」(NHKがネット上の声として紹介)と気を緩めていないからだ。

 4月の内閣支持率分析(当ブログ4月29日)で「感染収束の目途が立たず、長期化する休校、外出・移動の自粛や休業要請で国民の不満が蓄積している。これは、内閣支持率をアップさせるには大きなエネルギーが必要だが、下降の方はきっかけがあれば一気に進む土壌ができていて、一つの政策の失敗で政権運営に危険信号が灯ることもあり得ることを示唆している」と書いたが、5月の調査結果はこの傾向をネット世論がさらに進行させた。政権は瀬戸際に立っている。