「日本の農を根本的に変えかねない種苗法改正案」(中)  第2次安倍政権が狙い続けた「門戸開放」

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 安倍政権は新型コロナウイルスの感染が日本国内でも広がりだした今年3月中旬、種苗法改正案を国会に提出。当初は5月の連休前にも、ほぼ審議なしで成立させようとしていた。コロナウイルス感染拡大で全国民が自粛生活を余儀なくされている最中の「火事場泥棒法案」の一つとして問題になったが、「改正」計画自体は2017年の主要農作物種子法廃止の時から並行して練られていた。日本の種子の歴史を振り返ろう。

最初は優良な種子や苗入手のための法律

 戦後間もなくの1947年(昭和22年)に最初の農産物種苗法が制定された。食糧事情が逼迫したことを受け、農業生産の安定化および生産性向上を図るために、優良苗種の品質改良を奨励する制度を設け、育苗業者の利益を擁護するのが目的で、苗種の名称登録とその違反者への罰則を規定を盛り込んだ。

 農業者は1952年(昭和27年)制定された主要農作物種子法と種苗法で、優良な種子や苗種を入手することが可能になり、自家増殖(採種)が禁止されていなかったので、いったん購入した種子や苗を自家採種することで、農業経営を持続してきた。

新・種苗法で「育成者権」

 農産物種苗法はその後、1991年に改定された「植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV91)」を踏まえて全面改定され、1998年(平成10年)現在の新・種苗法となった。旧法との決定的違いは、新たに「育成者権」を設け、植物の新品種を育成する権利を占有することができることを主な目的としたことだ。

 しかし現在の種苗法では契約によらない限り、誰でも自由に自家採種して交換、販売、加工することができるとしている。ただ同法21条第3項で、農水省の省令によって定めるものは自家採種(増殖)ができないとして、育種登録する品種を指定した。育種登録された品種を自家増殖させたら懲役と罰金という刑罰がある。農水省が種苗法の改正が必要だとして例に挙げている、中国に不法流出したというブドウのシャインマスカットは既に育種登録されており、今でも違法に流出したら罰せられる。


 これだけだと、わざわざ法律を改正する必要はないだろうと思われるが、農水省というより安倍晋三政権は何としても、育成者権のみの強化を図ろうとしか見えない。

 それは農水省が最近主張している「日本は原則として自家増殖でき、例外的に自家増殖できない植物をリストにしている。しかしEUは原則禁止だ」との表現にも表れている。確かにEUは自家増殖を全面禁止にしているものの、小規模農家については補償金の免除という形で例外としているのだが、その点はあまり触れていない。

TPPとセットで多国籍ビジネスに門戸開放

 種苗法成立後も、例外品目を除いて農家の自家採種(増殖)は認められてきたが、第2次安倍政権の誕生で状況が大きく変わる。

 2013年(平成25年)、内閣に農林水産業・地域の活力創造本部が設置され、同年12月、「農林水産業・地域の活力創造プラン」決定。2016年10月の規制改革推進会議農業ワーキンググループ第4回会合で、種子法の廃止が議題になった。そしてわずか2カ月後の同年12月に創造本部が種子法廃止を決定した。

 安倍政権は同じ12月に環太平洋連携協定(TPP)に署名しており、種子法廃止と種苗法改正はTPPとセットであったことが分かる。この間の流れは、日本の農業が規制改革推進会議や産業競争力会議の主導に移ったことを物語っている。

 安倍政権はさらに17年8月、農業競争力強化支援法を制定。都道府県の持つ種苗の生産に関する知見を民間事業者に提供する措置を講ずることを義務づけるなど、都道府県の農業試験場などが長年かけて培った農業生産技術や種子を民間事業者に流出させてきた。伝統的な農業を喪失させ、多国籍アグリビジネス中心の農家支配という流れの中に、今回の種苗法改正案がある。