「学歴詐称問題」で質問に丁寧に答えず 出馬会見に見る小池都知事の不誠実さ 選挙公報に「経歴」をどう書くのか

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 6月12日午後6時すぎ、小池百合子東京都知事は記者会見し、「再出馬に決意を固めた。都民の推挙を得るべく戦いに挑みたい」と述べ、どの政党からの推薦も受けずに、都知事選への再選出馬を表明した。テレビでの生中継はフジテレビだけだったようだが、動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」で約50分の会見を見た。プロンプターを使わず、自分のことばで話すこと、質問者を自分で指名すること。この二つが安倍晋三首相の会見と大きく異なる。また、微妙に質問をずらす回答をすることはあるものの、一応、分かりやすいことばで、きちんと答えている。コロナ禍対応で連日、記者会見に臨み、「ステイホーム」「ウイズコロナ」などカタカナ語を連発し「夜の街」を強調するなど、ニュースキャスター時代に身につけた大衆受けするこの人の「もの言い」が都民を引きつけるのだろう。都庁記者クラブ加盟記者にフリー記者も加わった会見だった。

 「学歴詐称問題」は、ノンフィクション作家石井妙子氏の「女帝 小池百合子」(文芸春秋)が発売以来異例の15万部を超えるベストセラーとなったこともあり、今回会見の事実上のメーンテーマであるはずだった。しかし、「説明責任」を果たす絶好のチャンスであったにもかかわらず、小池氏はフリー記者からの質問に1回、この問題に触れ「すでに原本を示し、カイロ大学も認めている」と答えただけだった。これではとても丁寧な説明とは言えない。会見では、小池氏による「情報公開が1丁目1番地」とのいつもの空虚なスローガンがまた繰り返された。

会場に「女帝についてひとことお願いします」の声が響く

 記者会見では、都庁記者クラブの幹事社(東京新聞)から「コロナへの対応、国政への転身は」との質問が出たあと、「国政への転出の可能性」や「1期目の印象」、「女性の力をどう生かすか」など、小池氏が答えやすい質問が続いた。終わりごろになって、やっとフリージャーナリストの畠山理仁氏が指名され、「学歴詐称問題」に言及した。(以下はTHE PAGE、6月12日)

 「知事職は学歴や経歴は不問の職業だが、前回の都知事選で選挙公報に(エジプトの)『カイロ大学卒業』と書かれていた。その内容は候補者が責任を負う。小池さん自身が証明書の原本を提出することは可能か」と畠山氏が質問した。

 畠山氏の方を向いて質問を聞いた小池氏は「この卒業云々については、すでに何度もカイロ大学は認めていると申し上げてきた。きょうも一部メディアで原本そのもの、かつて公表しているので、それを載せているメディアがあった。私はすでに原本も示し、カイロ大学も正式にお認めいただいているものと考えている」と答え、あらためて卒業証明書の原本を提示する必要はないとの考えを示した。

 畠山氏は、続いて質問しようしたが、「一人一問と決まっている」と小池氏が自ら質問を遮った。これに関連する質問はついに最後まで出なかった。司会者が会見を打ち切った後、まだ記者から手が上がっており、おそらく畠山氏なのだろうか「女帝についてひとことお願いします」との大きな声が何回も会場に響いた。

 YouTubeを見ていて、記者クラブはなぜ「一人一問」を認めたのか。また、幹事社の代表質問になぜ「学歴詐称問題」が入らなかったのか。そして何よりも「選挙公報にカイロ大卒と前回通り書くのか」や石井氏の本のことを聞くと「読んでない」と答えるので「留学時代の同居人女性」のことをなぜ聞かないのか。じじいの元記者が「今の若い記者は」などと言いたくはないが、あえて言う。石原慎太郎都知事時代にも、共同通信の記者の質問がうるさいと、秘書が会社に乗り込んで文句を言っていたことを思い出す。石原氏はこの記者の質問がよほど気に入らないらしく「○○君」と実名で質問を批判し、その部分がテレビニュースで放映されたこともある。このような都庁記者もかつてはいた。いまもたくさんいると思う。都民が本当に聞きたいことが、場合によっては、知事には触れてほしくないテーマであることはあり得る。今回はむしろ、あくまでも私の推測にすぎないが、小池氏にとって、カイロ大の声明や週刊ポストの報道があったので、少しは説明したかったに違いない。ただ、細部にまでわたる質問は困ると思っていたのではないか。

 フリージャーナリストの田中龍作氏が6月13日の「ブロゴス」で「『女帝』にヨイショ質問連発の記者クラブ」とのテーマで「一度嫌な質問をすると、その記者は2度と指名されなくなるという。知事が嫌がる質問こそ都民が知りたがっている事柄だ。都民の声に耳を傾ける為政者であれば、嫌な質問にも答えるはずだ」と書く。この言葉は現役の皆さんもかみしめてほしい。私も自戒を込めて考えてみる。

「カイロ大学卒業」の説明として小池氏が挙げた二つの根拠

 小池氏が12日の記者会見で「カイロ大学卒業」の根拠として挙げたのは以下の二つである。公平性を期すため、少し詳しく説明する。

 一つは、エジプトのカイロ大学が6月8日、小池氏が「1976年10月にカイロ大学文学部社会学科を卒業したことを証明する」との声明を発表したことだ。9日の朝日新聞デジタルによると、在日エジプト大使館がフェイスブックで声明文を公開した。声明は、小池氏の卒業証書は「カイロ大学の正式な手続きにより発行された」と説明。「日本のジャーナリスト」が信頼性に疑問を呈したことについて、「カイロ大学及びカイロ大学卒業生への名誉毀損(きそん)であり、看過することができない」と批判した。そのうえで「エジプトの法令にのっとり、適切な対応策を講じることを検討している」と警告した。

 この声明は、場合によったら、「法的な措置もとる」という他国のジャーナリズムに対して脅しに近い異例な声明であり、エジプトの軍部政権と小池氏の距離の近さを感じさせる内容となっている。                            

 二つ目は、小池氏の都知事選出馬の記者会見当日の6月12日発売の週刊ポスト6月26日号。「スクープ入手」とし、「沸き上がる『学歴詐称問題』の最大の証拠がこれだ!」「小池百合子の『卒業証書』を現物公開する!」という見出しで、「卒業証書」写真は1ページの3分の1ぐらいの大きさ、「卒業証明書」は5分の1ぐらいの大きさである。確かにアラビア語の分かる人ならば読める大きさである。

 小池氏は若手議員時代に週刊ポストに「ミニスカートの国会報告」とのコラムを連載しており、1993年の4月9日号に「元気印の私が目障りで仕方がない人たちが、『小池百合子の学歴詐称疑惑を調査しろ』と、カイロまでさぐりを入れているとか。残念ながら私のカイロ大学卒業証明はホンモノ。このページで証明します」と公開したものだ。

 これは石井妙子氏の「女帝 小池百合子」が「名刺の半分の大きさで、何が書かれているか全く読めず『証明』にはなっていない」と書いてあることの反論となっている。「名刺の半分ではなく大きく拡大して公開する」と書かれている。このときの画像をポストが持っており、「小池事務所にも『週刊ポスト』で公表したものが小池が持っている卒業証書と同一です」と確認がとれたとわざわざ書いている。

 その上で週刊ポストは、カイロ在住の現地人の通訳・翻訳家に「卒業証書」のアラビア語の翻訳を依頼。「大学理事会は1976年12月29日、1976年卒業生のための文学部の試験結果を精査し、1952年に日本で生まれたコイケユウジロウ氏の娘であるコイケユリコさんに『良』の成績で文学部社会学科の学士を与えることを決定した」と書かれているという。この翻訳家は、小池氏に男性の敬称が付けられていることに関して「そういう雛形のもとに書かれているからで、エジプトの大学の文書では女性なのに男性形で書かれるのはよくあること」と説明している。

週刊ポスト発売待って出馬会見

 これは前回、私が書いた「『女帝 小池百合子』出版で再燃した『学歴詐称問題』」での、これまでの「卒業証書」など関係文書の3回の公開のうちの1回分。1982年の小池氏の著作の扉のものと、2016年6月30日の前回都知事選前のフジテレビの「とくダネ!」で公開されたものと「ロゴマーク」が異なっている、との石井氏の疑問には答えられてはいない。小池氏は当初、都議会最終日の6月10日に都知事選への出馬宣言をするとしていたが、なぜか2日も遅れた。前日に「東京アラート」を解除しているので、「その後に」とのようにも見える。

 しかし、小池氏が記者会見でこの週刊ポストの報道を根拠として暗に示す発言をしているところからみて、やはり、ポストの発売を待っていたと言われても仕方がない。朝日新聞が6月13日付朝刊「小池氏強気 党推薦求めず」の中で「出馬宣言をぎりぎりまで遅らせてきた背景には、くすぶり続けてきたカイロ大の『学歴詐称疑惑』がある」との指摘もうなずける。都議会で自民党や共産党が小池氏の「学歴詐称疑惑」を追及。6月9日に自民。共産両党が小池氏に「卒業証明書」の提出を求める決議案を提出予定だったが、在日エジプト大使館が小池氏の卒業を証明するとの声明を出したことで情勢は一変し、自民党本部からの指示もあり、都議会自民党は10日の本会議開催直前に決議案を取り下げた。

 やはり、エジプトの声明の効果は大きかった。しかし、小池氏はなぜ、「卒業証書」や「卒業証明書」の現物を公表しないのだろう。誰でも持つ疑問である。ただ、一般的にいって、大学の声明が出ている以上、「卒業証明書」をカイロ大が再び発行する可能性もある。その背景に、軍事独裁政権が続くエジプト情勢との関係を指摘するジャーナリストもおり、「学歴詐称」というよりは、「コネによる不正卒業」の可能性もありそうである。留学経験が豊富な舛添要一前都知事は「成績証明書も必要」とブログで指摘している。

 この問題は1992年に小池氏がテレビのキャスターから政治家に転身し、日本新党から国政選挙に打って出たころから続く「疑惑」である。小池氏は今回選挙公報の学歴にどう書くのか、はっきり言わないのでまだ分からないが、やはり「カイロ大学卒」と書くのだろう。6月13日付の産経新聞の「主張」は、小池氏が日本記者クラブが開催を予定していた候補者討論会への出席を断った、と報じている。なぜ堂々と抱負を語れないのか。「学歴詐称疑惑」から逃げたと言われかねない振る舞いである。都知事選に再び圧勝し、「総理大臣候補」との呼び声も高い小池氏。公人としてまだ「説明責任」を果たしたとはとてもいえない。「情報公開は1丁目1番地」が泣いている。

【追記1】毎日新聞デジタル(15日)によると、小池都知事は15日、都庁で記者会見し、カイロ大卒の学歴に詐称の疑いがあるとの週刊誌などの報道に反論するため、卒業証書と証明書とする書類を公開した。小池氏はカイロ大の卒業を証明する書類について、「政策論争よりも卒業証書のことばかりが先に出ているのはふさわしくない。今日はどうぞご自由にご覧いただきたい」と述べ、報道陣に顔写真も添付された原本を公開した。小池氏は都議会などから卒業証書の公開を求められていたが、「一部メディアで公表している」として応じていなかった。

【追記2】産経は16日付の「主張」で「東京都知事選の候補者による討論会が、17日に開かれる。主催者の日本記者クラブに対し、小池知事側から期限までに回答がなく、中止されようとしていたが、ようやく参加が伝えられた」と報じた。