「森友国賠訴訟」公文書改ざんはやはり「忖度」などではなかったのではないか 自死した元近畿財務局職員の妻の著書「私は真実が知りたい」や訴訟から見えてきたこと

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 何ともやりきれない。このような仕打ちを受けて怒らない人はいるのだろうか。どれだけ悔しい思いをしたのか。このような目に遭えば、誰も信じたくなくなるだろう。それにしてもよく頑張れたと思う。亡くなった元近畿財務局職員赤木俊夫さん=当時(54)=は妻雅子さん(49)のことを誇りに感じていると思う。

 強く反対したにもかかわらず、上司から違法な公文書改ざんを強制された。このことで責任を強く感じた夫は自死に追い込まれた。夫を奪われた上に、信頼していたはずの職場の同僚や上司からも、手のひらを返すように裏切られた。このような理不尽な目に遭った雅子さんが「夫の死の真実を知りたい」と国と佐川宣寿元財務省理財局長(元国税庁長官)を相手に計1億1200万円の損害賠償を求めて起こした訴訟の口頭弁論が7月15日、大阪地裁で始まった。次回は10月14日。被告は国と佐川氏だが、雅子さんにとって「本当の被告」は、その責任を認めるどころか、再調査にすら応じようとしない安倍晋三首相や麻生太郎財務相、そして森友学園問題の端緒となった安倍昭恵夫人なのだろう。菅義偉官房長官は口頭弁論当日、記者団から再調査に応じるのかどうかを聞かれ「決裁文書の改ざんについては検察の捜査も行われ、結論が出ているものと承知している」とこれまでの返答を繰り返した。首相は官邸で記者団から「再調査する考えはないか」と問われたが、一切、答えはなかった。

政権はかたくなに「再調査」を拒否

 雅子さんは法廷で「裁判官の皆様にお願いがあります。ぜひとも夫が自ら命を絶った原因と経緯が明らかになるように訴訟を進めてください」と約10分間にわたり意見陳述書を朗読した。国と佐川氏側はそれぞれ答弁書で「請求棄却」を求めた。佐川氏はこの日、出廷しなかった。

 東京新聞(7月16日付)によると、閉廷後、記者会見した雅子さんは「首相は自分の発言が改ざんの発端になっていることから逃げている。自分の発言と改ざんが関係あると認め真相解明に協力してほしい」と訴えた。また、昭恵夫人からは、ことし5月にLINEで「いつかお線香を上げに伺わせてください」とのメッセージがきたことを明らかにした。

 森友学園を巡っては、2017年2月、近畿財務局が鑑定額からゴミ撤去などを理由に約8億円値引きして国有地を売却していたことが表面化。学園が設置を計画した小学校の名誉校長に、安倍首相の妻昭恵氏が就任していたことで国会が紛糾した。翌年3月7日、野党追及の中、財務省による改ざんが発覚した直後、決裁文書を改ざんしたことを悔やみ赤木さんは自殺した。雅子さんは夫の死後2年経過した2020年3月18日、遺書や手記を公表した。雅子さんは財務省の調査報告書がとても納得できない不十分な内容だったことから、「第三者委員会」での再調査を求めるオンライン署名を立ち上げ、35万人を超える署名が集まった。しかし、安倍首相も麻生財務相もかたくなに「再調査はしない」との国会答弁を繰り返している。

財務省関係者に警察を呼ばれたことも

 この日にあわせて雅子さんはジャーナリストの相澤冬樹氏(大阪日日新聞編集局長、元NHK記者)との共著『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発 「森友」改ざんはなぜ?』(文藝春秋)を刊行した。近畿財務局の同僚や上司との赤木さん自死後の関係を分かりやすい会話体を多用して書かれている。まるで小説を読むようである。葬儀にきた同僚らは誰かの指示があったのか。受付で促されても記帳した人や名刺を置いていった人は一人もいなかった。夫の死の真実を知るため財務省関係者の自宅に相澤氏と一緒に会いに行ったら、警察まで呼ばれて追い返された。そして本省を含めて関係者のほとんどがその後なぜか全員が出世していることなどを〃告発〃している。

 当時、この問題で何度も答弁に立った佐川氏の後に理財局長となった太田充氏は今度財務事務次官になった。その下にいた矢野康治氏は次の次官含みの主計局長に。この問題と直接関係があるかどうかは分かりようもないが、当時捜査に当たった大阪地検特捜部長は地方の検事正を経て昨年11月から、大阪地検次席と、将来、検事長ポストがのぞめる地位にいるそうだ。

 読みやすいので、一気に読んでしまったが、お役所というのは、上に「忖度」するだけでなく、元職場の仲間の家族であっても、役所にとって不都合となった人には、ここまでひどい仕打ちをするのかという組織の持つ恐ろしさを感じた。ショックだった。これも安倍政権の「一強支配」の一環なのだろう。忠実に自分に従う者には甘い汁を、少しでも刃向かう者には嫌がらせを含めた報復をということなのだろう。河井前法相夫妻の事件でも同じ選挙区なのに党本部からの選挙資金は10分の1という差別にあって落選した溝手顕正前参院議員のことを思い浮かべてしまう。安倍政権には、このようなことが多すぎる。政権の末端の「ヤミの構造」を知るためにもこの本をぜひ読んでいただきたい。

「首相発言、改ざんと関係ないとはいえない」と財務省秘書課長

 朝日新聞(7月16日付)によると、雅子さんの15日の法廷での意見陳述の主な部分は以下の通り。記事の全文からその骨子を作り、一部手直しした。

1,夫は、亡くなる約1年前である2017年2月26日(日曜日)、近畿財務局の上司に呼び出され、森友学園への国有地払い下げに関する決裁文書を改ざんしました。決裁文書を書き換えることは犯罪です。

2,夫は「私の雇い主は日本国民」と生前、知人に話していたほど国家公務員の仕事に誇りを持っていました。そのような夫が決裁文書の書き換えという犯罪を強制されたのです。夫の残した手記によると、改ざんを指示された際に「抵抗した」とあります。また、私は、夫の死後、上司からも、夫は改ざんに最初から反対していたと聞きました。

3,安倍首相は、2017年2月17日の国会で、「自分や妻が森友学園の国有地払い下げにかかわっていたら総理大臣も国会議員も辞める」と発言しました。(当時の)財務省秘書課長は、2018年10月、私に対して、「この首相の発言によって野党が理財局に対して資料請求するなど炎上したため理財局は改ざん前の文書を出せなかった。その意味で、首相の発言と改ざんは関係がないとはいえない」と言いました。安倍首相は自分の発言と改ざんには関係があることを認め、真相解明に協力して欲しいと思います。昭恵さんも森友学園への国有地売却の関係を明らかにしてほしいと思います。

4,近畿財務局の上司も、上司の前任者も「裁判になれば本当のことを話します」と私にはっきりと言いました。この裁判では、前任者には昭恵さんと籠池夫妻のいわゆるスリーショット写真(小学校予定用地の国有地前での2014年4月25日)がどのように国有地の取引に影響したのかを、上司には国有地値引きと決裁文書改ざんをめぐり近畿財務局の中で何が行われたのかを話して頂きたいと思います。また、佐川さんをはじめとする理財局の幹部の人たちや、美並(義人)局長をはじめとする近畿財務局の幹部の人たちも、事実をありのままに話して欲しいと思います。

5,もしこれらの人たちが裁判に来なかったり、裁判に来ても事実を話さなかったとしたら、国が本当にあったことを国民から隠し、すべてなかったことにするために止めたのだと思います。安倍首相、麻生大臣 私は真実が知りたいのです。

「あうんの呼吸のサジェスチョン」も問題だ

 この意見陳述で注目されるのは、「3」の17年2月17日の国会での首相発言と公文書改ざんの関連性に関わる財務省秘書課長が雅子さんに言ったという言葉である。安倍首相は「総理大臣も国会議員も辞める」との発言と公文書改ざんは無関係と繰り返し、国会でムキになって反論してきた。2018年6月4日に財務省が発表した51ページの調査報告書には「17年2月17日、『安倍首相が国会で、私や妻や事務所を含めて、この国有地払い下げに一切かかわっていないことは明確にしたい』旨の答弁があった」と記述しており、「この首相発言が文書改ざんが始まる原因だった」とはっきり書かれてはいない。

 そもそも、常に首相の顔色をうかがう官僚が、証拠となる事実をたとえつかんだとしても、残念ながら、そのことを記述する勇気はないであろう。ただ、財務省調査でも、この首相答弁の後の17年2月下旬から4月にかけて5件の改ざんが行われ、その他9件、計14件の改ざんが確認されている。これだけでも首相発言と改ざんが全く無関係だとはいえない。報告書は〃主犯〃を当時の佐川理財局長だとしたが、さすがに首相本人からの直接の改ざんの指示はなかったとしても、その意向を受けた「官邸官僚」の指示か、「何とかしろ」程度のサジェスチョンはあったかもしれない。もし、そうであれば、そのこと自体が大きな問題となることはいうまでもない。「忖度」ではなく、「あうんの呼吸のサジェスチョン」こそが本当は問題なのだろう。問題になったときに、はっきり言ったわけではない、と言い訳できるからである。

首相は逃げてはならない  「再調査」必要は82・7%に

 この訴訟では、赤木俊夫さんの自死と改ざん指示との因果関係の解明こそが最大のテーマになるはずである。では、訴訟でこの点がすべて解明されるかというと、佐川氏主犯で損害賠償は成り立ちうるので、裁判所はなかなかそこまで手を付けないだろう。佐川氏に対する法廷での尋問でも、佐川氏の衝撃的な暴露があれば別だが、おそらくそうはならないだろう。だからこそ、問題の真因究明のために国会に中立的なこのような問題にスキルを持つ弁護士らの第三者委員会を立ち上げて、佐川氏に指示やサジェスチョンがあったのかをきちんと調査する必要がある。雅子さんがこの日の法廷で「再調査」を訴えたのも、狙いはそこにあるといえる。共同通信が7月17日から19日まで実施した世論調査では、森友学園問題の再調査は「必要」が82・7%にも達した。これに比べ「必要ない」は12・5%だった。財務省がやった調査はあくまでの「懲戒処分」のための「内部調査」にすぎない。森友学園問題の発端は首相や夫人個人の問題でもある。首相は、この世論調査結果からみても、再調査から逃げてはならない。それが圧倒的多数の国民の意思だからである。