コラム「政治なで斬り」日本学術会議推薦6人の任命拒否 安倍前政権超える暴挙 秦の焚書坑儒に倣ったような愚挙 言論、思想統制につながる恐れ

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 日本学術会議が新会員に推薦した6人の任命を菅義偉首相が拒否した。安倍政権の政策に異論を唱えた経緯のある学者らが外された格好で、政府として前例のない人事介入を「初仕事」にするかのような菅政権の振る舞いは安倍前政権を超える暴挙だ。

政治劣化に拍車

 任命を拒否された宇野重規・東大教授(政治思想史)はリベラル派でも中道穏健で通っていて、安倍首相辞任後に『論座』に寄稿した前政権の功罪に関する論考では逆説的な表現も交えて「安倍長期政権を可能にしたのはナショナリズムと政府主導のリベラルな経済運営の独特なミックスであり時代適合的だった」と分析しているくらいだ。

 同様に任命を拒否された加藤陽子東大教授(日本近現代史)もアジア太平洋戦争を主導した軍国体制(軍部と昭和天皇の統帥権体制)を政党政治の弱体化も含め多面的に分析しているが、歴史資料や国際情勢なども視野におさめた冷静な筆致で説得力がある。

 宇野氏や加藤氏の論考が気に入らないので会員から外したとしたら、これは民主政治、学術の前途にとって暗澹たる地平が広がって行きそうな予感がする。中国古代・秦の始皇帝による焚書坑儒のひそみに倣ったと思わせるような愚挙と言えるだろう。「国家にたてつくような学者は排除せよ」というなら多様な知見や学識に不寛容な狭量政治の先触れを思わせる。学者、研究者の考察や業績を政権が篩にかけるようでは言論・思想統制も辞さない姿勢につながって行く恐れがある。歴史解釈も教育内容も一定の型にはめていこうとすれば 政治の劣化に拍車がかかるのではないか。

説明回避の姿勢あらわ

 加藤官房長官は記者会見で前例のない政権の選考介入問題に「学術会議の監督権を持つ政府が法律に基づいて行ってきており、今回は結果が違っているだけのことだ」と木で鼻をくくったようなご飯論法で答えている。新官房長官の受け答えは、無味乾燥、丁寧に答える姿勢に著しく欠けた厚顔無恥をさらけ出している。

 菅首相は5日に実施された内閣記者会のインタビューで、日本学術会議が推薦した新会員候補6人の任命を拒否したことを事実上認め、「任命する責任は首相にある。推薦された方をそのまま任命する前例を踏襲していいのかを考えた」と述べた。憲法が保障する「学問の自由」への侵害との指摘には「全く関係ない」として別問題だと強調した。6人を除外した理由に関し「個別の人事に関することはコメントを控えたい」とし、任命拒否の理由に関する質問には答えなかった。自民党総裁に選出された9月14日の記者会見では「国民に何事も丁寧に説明する」としていた。説明回避の姿勢があらわになっている。

 安倍前政権下でも説明回避は再三にわたり見られた。森友、加計学園問題では、安倍前首相は野党の追及をかわしてきた。桜を見る会の問題でも、当時の菅官房長官は招待者名簿の廃棄を理由に正面から答えなかった。

思ったより早く政権の本性現す

 菅政権は思ったよりも早く本性を現わした。あまりにも、自信過剰すぎたのではないだろうか。これで墓穴を掘ったということにしないといけない。それには、メディアが追及の手を緩めず、今回の措置を撤回させるところまで批判を強めるべきだ。

 学術会議も、6人の任命拒否の撤回が無ければ、委員全員が辞任するくらいの強い意思を示すべきだろう。腰砕けにならないように。そこが勝負の天王山で、一番効き目があると思う。骨のあるところを見せてほしいですね。そのためにメディアはバックアップしないといけない。

 今回のことは、今後の日本の在り方を左右する重大局面でもある。総理大臣による恣意的な人選は憲法違反だ。これを許せば、すべての面で菅首相の暴走を助長することになるだろう。日本中の学者、研究者が団結して声を上げ、裁判も辞さない覚悟を示し、菅首相の決定を引っ込めさせなければいけない。新聞・テレビなどのメディアも腹をくくって菅批判の論調を張れば、スマホ漬けの国民も何かおかしいと気づき、支持率も下がるだろう。年内とも予想されている総選挙に暗雲が漂えば、自民党内部からも再考を求める暴走にブレーキがかかる動きが出てくるだろう。ともかく、あらゆる各界各層の反対意見を網羅してぶっつけて世論を盛り上げていくべきだ。

 菅政権は学者相手の論争には勝てないだろう。信任された90余人は「政権お墨つき」の形になるわけで「独立性が保てない」と辞める手はある。3日に行われた菅首相と首相担当記者とのオフレコの朝食会に朝日新聞や東京新聞、京都新聞が参加しなかったのは正解だ。

陰湿、慢心の政権

 安倍前政権について識者は別の観点から性格づけをしている。社会評論風の考察だが、紹介する。 

 「経済的貧困によって本当は苦しい状況に追い込まれていても、人々がかつてのように出身や階層で連帯できず苦しさを共有できていない」(社会学者、宮台真司氏)

 「格差にあえぐ若い世代からすれば、学生が本を読み人生や政治について考えていたなど優雅なおとぎ話でしかないだろう。安倍氏はそういう本が読まれなくなった時代の総理大臣だった」(芥川賞受賞作家、田中慎弥氏)

 「安倍政権下で知識人やメディアが多数派に忖度するようになり、人間の複雑な両義性に目を向ける大人の議論が失われた」(哲学者、千葉雅也氏)

 「安倍政権は幼稚。管政権は陰湿。陰湿のみならず、慢心の政権は必ずボロが出るはず」(小沢一郎衆院議員)

【参考資料】

◎日本学術会議会員の任命拒否は許容できない 

           世界平和アピール七人委員会          

           武者小路公秀 大石芳野 小沼通二 

           池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進 
                                                              2020 年10 月7日

 日本学術会議(以下学術会議と略)は、2020年10月1日から3年間の新しい期(第25期)を開始した。10月2日の総会第2日に菅義偉内閣総理大臣に「推薦した会員候補者が任命されない理由」の説明を求め、「推薦した会員候補者のうち、任命されていない方について、速やかな任命」を求めることを決定して要望書を提出した。

 これは、学術会議が日本学術会議法に基づいて手順を重ねて105人の新会員候補を8月末に推薦したのに対し、内閣総理大臣が6人を外して任命し、除外の理由の問い合わせに答えないことが判明し、科学者の間だけでなく社会的に大きな批判の波紋が広がっているのに、「判断を変えることはない」と強弁し続けていることに対するものである。

 私たちはこの要望書を支持する。

 学術会議は、日本学術会議法によって規定された、わが国の科学者を内外に対して代表する機関であり、科学の発展を図り、我が国の行政や産業、社会に科学を反映浸透させ、政府や社会に対して助言や提言を行なう役割を担っている。首相の所轄ではあるが「独立した機関」として職務を行なうものとされ、自律性を担保するため、会員はあくまで学術会議の「推薦に基づいて」内閣総理大臣が任命することが定められている。

 今回の首相による恣意的な会員任命拒否は、日本学術会議法と明白に矛盾し、選挙制度から推薦任命制度に法律改定された際の「人事に介入しない」旨の国会答弁とも合致しない。

 首相は、「(会議の)総合的、俯瞰(ふかん)的活動を確保する観点から」人事を判断したと述べたが、これは説明になっていない。学術会議による会員の選考推薦は、規則に従ってさまざまな学術分野、地域、ジェンダー、経歴、能力特性等を考慮し、まさに総合的・俯瞰的な観点から責任をもって行われており、この人選は政治家や官僚によってなしうるものではない。

 学術会議は、「科学者の代表機関」の重みと社会に対する責任を一層自覚し、外部の声にも耳を傾け、自ら改革を重ねていかなければならず、それは必ず可能であると考える。

 今回の人事介入のようなことがまかり通れば、学問の自由だけではなく、思想・良心の自由や表現の自由も脅かされる。どんな命令でも、理由は聞かず黙って従えというのであれば、社会は委縮し、多様性は失われ、全体主義国家に向かいかねないので、けっして容認できるものではない。