「首相、学術会議推薦の6人の任命拒否」菅新政権の暗黒面露呈 政府批判が理由か説明せず 強権支配を正当化 

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 菅義偉新政権に対する各メディアの世論調査の支持率が軒並み60~70%と高い数字を示し、安倍晋三前政権を厳しく批判してきたリベラル系のメディアに戸惑いと、一部には自信喪失の現象も散見された。だが、1日に明らかになった日本の科学者を代表する国の特別機関「日本学術会議」が推薦した新会員候補者のうち6人を菅首相が任命しなかった問題の衝撃は大きく、「菅政権の暗黒面が露呈した」(テレビ朝日「羽鳥モーニングショー」でのコメント)との受け止め方もある。今後、支持率のご祝儀相場が大きく変動する可能性がある。

 菅政権への高い支持率は「不妊治療への保険適用」など、これまで野党が掲げていた国民の要求を取り入れ、「携帯電話料金の引き下げ」「デジタル庁の新設」など小さいが具体的な目標を掲げることへ寄せられたものだろう。また、菅首相は安倍政権を批判してきた共同通信社の柿崎明二・前論説副委員長(退社)を同郷(秋田県)出身のよしみもあってか、首相補佐官に抜擢するという離れ業を演じ、「安倍政権とは一味違う」「中道派の取り込みも狙っているのでは」との驚きも呼んでいた。

組閣当日から「袈裟の下の鎧」のぞく

 しかし、よく見ると組閣前、および組閣当日から「袈裟の下の鎧」がのぞいていた。

 一つは、ついに公文書の偽造まで引き起こした官僚の忖度の原因となった、内閣人事局による高級官僚の行き過ぎた強権支配に対する反省を一切示さず、当然の政策として開き直っていたことである。菅首相は自民党総裁選挙中の民放テレビの番組で、「私どもは選挙で選ばれている」として、政府の方針決定後に意向に逆らう官僚は異動させると明言した。

 菅首相は官房長官として官僚人事を掌握。総務相当時に自ら導入した「ふるさと納税制度」の納税額の上限倍増などを2014年に、官房長官として総務官僚に強く指示。担当の平嶋彰英・自治税務局長(62)が「高額な返礼品で寄付を呼び込む自治体間の競争が過熱し、高額所得者への事実上の節税対策になってしまう」と強く反対したが、かなわず、平嶋氏は8カ月後の翌15年七月に自治大学校長に左遷された。翌年に辞職し、今は立教大特任教授を務める平嶋氏は共同通信の取材に「(菅氏は)全く聞く耳を持たなかった。これが正しい政治主導でしょうか」「自治体の現場は、生活に困っている人にも住民税を払ってもらっている。その横で高所得者の節税対策をさせるなんてことがあっていいわけない。普通の政治家の感覚なら分かると思った」と回顧する。

 ふるさと納税制度のゆがみは平嶋氏が懸念した通りの展開になっている。平嶋氏の左遷人事は霞が関の高級官僚を震え上がらせ、忖度政治の横行を呼んだ。

上川氏の3度目の法相起用に検察OB強い警戒感

 もう一つ、「おやっ」と思わせたのが、上川陽子氏の法相起用である。法相として3度目の入閣というのも異例だが、上川氏はすったもんだの末にようやく就任した林真琴検事総長とは、因縁の仲である。上川氏は安倍政権時の2018年にも法相を務めたが当時、法務省刑事局長だった林氏と組織再編問題で対立、林氏を想定されていた法務事務次官でなく名古屋高検検事長に飛ばした。そういう元上司を再度、林検事総長の監督者として据えるというのは、何らかの政治的な思惑を想像せざるを得ない人事だ。

 上川氏は2018年にオウム真理教の教祖・麻原彰晃(本名:松本智津夫)ら死刑囚13人の師刑を執行した。このほかの事件を含め、上川法相の命令により刑が執行された死刑囚は計16人。法務省が死刑執行を公表するようになった1998年11月以降に就任した法相では、鳩山邦夫氏(13人)を抜き最多の執行数といわれる。

 その上川法相は今回の就任記者会見で、通常国会でいったん廃案となった、検察官の定年延長を可能とする検察庁法改正案について「改正部分にさまざまな意見があったと承知している。それを踏まえ、関係省庁と協議し、再提出に向けて検討したい」と語った。通常国会に提出した改正案は、国民から大きな批判を浴びた経緯があり、修正を図った上で再提出を目指すとみられる。

 再提出される法案の内容は明らかではないが、この発言について、廃案になった法案に検察OBとして異例の反対の論陣を張った熊崎勝彦・元東京地検特捜部長は9月28日の民放番組で、強い警戒感を示した。

 直ちに比較はできないが、法相と検察当局との関係はどこの国でも微妙なものがある。お隣の韓国では、秋美愛法相が就任後、文在寅大統領の政権が掲げる検察改革の実現に向けて、抵抗する尹錫悦検事総長の側近を一斉に左遷するなど「無力化」を図っている。官僚掌握を図る菅政権が検察人事についても手を突っ込んでくると見る方が自然だろう。

加藤陽子東大教授も任命拒否

 さて、本論の日本学術会議の推薦候補105人のうち6人が菅首相によって任命を拒否された問題である。6人は松宮孝明立命館大教授(刑事法)、小沢隆一東京慈恵医大教授(憲法)、岡田正則早稲田大教授(行政法)、宇野重規東京大教授(政治学)、加藤陽子東京大教授(歴史学)、芦名定道京都大教授(キリスト教学)。学術会議によると、推薦された候補者が任命されないのは前例がない。加藤勝信官房長官は1日の記者会見で「推薦を義務的に任命しなければならないというわけではない」と語った。任命を拒否した理由は明らかにせず、「首相の下の行政機関である学術会議において、政府側が責任を持って(人事を)行うのは当然だ」と述べ、学問の自由の侵害には当たらないとの認識を示した。

 松宮氏は17年に国会の参考人質疑で共謀罪の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法への反対を表明。小沢氏は15年に国会の公聴会で安保法制の違憲性を指摘。その他の4人も特定秘密保護法に反対するなど、いずれもリベラル派の学者である。加藤氏は、日本がいかに無謀な戦争に突入していったかを記した『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』などの著書で知られる歴史学者。

 この問題について新聞各紙の扱いは別れたが、日経新聞(第2社会面左肩)も「政府方針に異論を唱える学者を排除した形で、学問の自由に対する介入として波紋を広げる可能性」と批判的なトーンをにじませた。朝日新聞、毎日新聞は1面左肩の扱いで、別面でも「官僚掌握術を拡大か」(毎日)など手厳しく批判した。東京新聞は1面トップ。一方で読売新聞は第3社会面2段、産経新聞は総合面2段と、見落としそうな地味な扱いだが、保守系紙の立場からももっと大きく扱うべきニュースだろう。

 立憲民主党や共産党など野党4党首は会談し、協力しして菅政権を徹底的に追及していく方針で合意している。

 異論を排除して突き進む菅政権に今後、国民の受け止め方はどう変わっていくだろうか。