コラム「政治なで斬り」「菅首相がバイデン氏と電話会談」 尖閣に日米安保条約適用で一安心か 日中関係に波風も 対米、対中関係の共存図れるか  

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 菅義偉首相が、米大統領選で勝利を確実にした民主党のバイデン前副大統領と電話会談した。菅氏とバイデン氏は、日米同盟基軸路線の継続と東アジアの安全保障問題で米国の対中抑止力の確保について意見が一致したという。政府関係者によると、特に中国による尖閣諸島での紛争問題で、日米安保条約の適用対象とすることでバイデン氏からの確答を得たことは成果だったとしており、まずは一安心というところらしい。

日中関係のかじ取りに腐心

 ただし日本側がそこで一安心と受け止めるのは早計の謗りを免れないのではないか。対米関係を重視すればするほど、こんどは日中関係に波風が立ちやすくなるという環境が生まれ、菅政権はそのかじ取りに腐心せざるを得なくなることが予想されるからだ。

 そのうち最大の懸案は日中間の貿易関係である。日本の対外貿易を最新の統計数字で見ると、米国とは14・7%なのに対し中国とは27・4%で、このところ日本の対中輸出額は米国を抜き中国の比重が年々大きくなっている。

 政治・外交関係の雲行きが波乱含みになると、日本経済の浮沈にも大きく影響を及ぼしかねない関係になっている。

菅政権の外交路線の鍵

 第二の問題は、米国の産軍複合体制のもとでグローバル化が勢いを増すなか、軍需産業は日本が望む東アジア地域の安全確保問題に強い関心を持ち、兵器・武器の売り込み拡大を狙って一触即発の危機が広がることに期待をかけている節がうかがえることだ。トランプ政権が進めている台湾へのハイテク兵器の売却も、さらにイスラエルと一部の湾岸諸国との和平仲介を急いだのも、イランからの攻撃対処のための武器売り込みへの機会づくりという背景があるとの指摘も出ている。

 したがってバイデン新政権になると産軍複合体の圧力が後退するかというと、大勢としては変わらないという見方が多いようだ。特に雇用や経済状況に関しては、即効性のある軍事産業に力を入れることも考えられるという。

 菅政権がこのような米国の思惑や政権と企業との特殊関係を十分織り込んで対米、対中関係の両立・共存が図れるかどうか、菅政権にとって外交路線は鍵になるように思われる。主要国との外交バランスのかじ取りを誤ると、内政、対外ともに混乱を招くことになりなりかねない。

中国脅威封じ込め批判する寺島実郎氏

 日本総研会長の寺島実郎氏は「サンデー毎日」最新号で 日米連携で中国の脅威を封じ込めるという日本政府の外交方針を批判している。寺島氏は「(日本外交は)戦後75年、一貫して日米基軸路線を追い、その米中二極論に吸い込まれてきている。米国がバイデン政権になったらどういう影響があるかではなく、日本がどうすべきかと考えるべきだ」と指摘。「米国依存の安保経済体制を脱却してアジア諸国とも共存しながら日本が国際的地位を確保していくべきだ」と主張している。