米大統領選選で「不正」があったと主張して、共和党候補のトランプ大統領が「法廷闘争」を繰り広げ、勝利を確実にした民主党候補のバイデン前副大統領への政権引き継ぎも拒否し続けている。憲法には各州および連邦議会の当選確認、新議会による承認を経て来年1月20日に政権発足の日程が決まっている。この異常事態が長引くとバイデン氏の当選が無効化され、トランプ氏が取って代わる可能性がある。「民主主義を破壊するのか」とトランプ氏に対するメディアの非難が強まってきた。
接戦州での裁判でほとんどが訴え却下
ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)の11日の報道によると、9、10の両日に全米50州の選挙責任者を直接取材した結果、細かなトラブルはあったものの、49州から全体に選挙は適切に実施されたとの回答を得た。残る1州も州内最大の人口を持つ地域(郡)で選挙は無事終了したことを責任者から確認した。
トランプ氏が提訴した接戦州での裁判では、既にほとんど不正の証拠なし、あるいは証拠不十分で訴えが却下されている。共和党が支配している州も含めて全州の調査をもとにしたこの報道は、トランプ氏がいつものように「でっち上げ」と切り捨てて済ませるわけにはいかないと思われる。
トランプ批判が圧倒的な主要メディアの中で、トランプ氏寄りの報道をしてきた保守系のニュース専門放送局FOXニュースでも、大接戦となった州の選挙現場を取材した記者が、不正が行われた証拠は何もないと繰り返しリポートしている。ホワイトハウスの報道官は10日の会見で記者団に、選挙戦での民主党のでっち上げや不法行為をメディアは容認していると非難、記者たちが証拠を示せと要求しても応じなかった。FOXニュースはトランプ氏の根拠も示さない言い分だけをこれ以上報道することはできないとして、中継を打ち切った。
「誤報」迫る騒ぎに怯まず
FOXニュースとトランプ氏との関係悪化は、実は開票速報中に突然始まった。2016年の大統領選でトランプ氏が制した西部アリゾナ州でバイデン氏のリードが広がり、FOXニュースがテレビ、新聞の中で最初に「アリゾナはバイデン勝利」と速報した。
ホワイトハウスでトランプ氏は、この報道は他にも大きな影響を及ぼすと激怒、メドウズ首席補佐官や最近まで大統領顧問だったコンウェー氏、娘婿のクシュナー大統領上級顧問が総出で、FOXニュースを傘下に置くニューズ・コーポレーション最高経営責任者(CEO)のマードック氏やFOXニュース首脳にまで電話をかけてトランプ氏の怒りぶりを伝え、「誤報、取り消し」を迫る騒ぎになった。しかし報道現場は、これはニュースだと怯まなかった。
マードック氏はオーストラリアから英国、米国にわたり保守系の新聞、テレビなどを展開して「メディア王」と呼ばれている。マードック氏は選挙を前に、トランプ氏は負けると発言したと報じられた。
FOXニュースは「トランプべったり」のアンカーやホストを配置しているが、報道現場にはそうでない記者もいる。トランプ報道をめぐって、両グループの間で摩擦が起きていると伝えられていた。
トランプ支持者はFOXニュースしか見ないといわれ、同ニュースがトランプ離れすると、トランプ氏には大きな痛手となる。トランプ氏は「忠誠」を裏切られたと思うと必ず報復する。両者のこれまでの「蜜月関係」は終わるとの見方が出ている。
報道は「公平」より「民主主義」
保守的な社説で知られるウォールストリート・ジャーナル紙への寄稿で、ブッシュ(息子)政権の次席補佐官を務めたローブ氏は、訴訟や政権引き継ぎ拒否でバイデン氏を支持した州の一つでも奪い返すことはできないとトランプ氏を諫めた。しかし、共和党首脳部はトランプ氏を支持している。トランプ氏を止めるのは世論の力、特にメディアの厳しい批判しかないとの見方が強い。
ワシントン・ポスト紙のサリバン記者は13日付紙面の論説で、メディアのトランプ批判がまだ物足りないと、次のようにメディアに呼びかけている。
「争いごとでは、双方に公平にという『公正の原則』がある。しかし、トランプ氏の行動は『「クーデター』ではないか、『民主主義に沿っているか否か』という立場から報道するべきだ」
(11月13日記)