安倍晋三前首相の地元事務所が「桜を見る会」前日の夕食会費用を負担していた疑惑の全容がほぼ明らかになってきた。政治資金規正法違反容疑にあたるホテル側への差額支払い分が時効(5年)にかからない分だけでも916万円に上る。ホテル側が、安倍事務所あてに作成した領収書の宛名は資金管理団体の「晋和会」だった。東京地検特捜部は政治資金規正法違反(不記載)容疑の適用を軸に捜査を進めているというが、これだけの関係証拠が出そろえば、穏便な対応で済ますわけにはいかないと思われる。安倍氏自身が補填に関与したのかどうか明らかになっておらず、本人への事情聴取も焦点となる。
首相辞任は持病悪化でなく疑惑の表面化を予期してのことでは
安倍氏は、こうした事実について担当秘書から報告を受けていないと自らの関与を否定している。だが秘書に全面的に責任を負わせるのは常套手段というのが相場だ。実際、安倍氏は差額補填の事実を知っていたのではないか。
安倍氏は、持病の悪化による体調不良を理由に首相を辞任した。だが国会答弁と事実関係の食い違いが表面化するのを予期して「辞任」に至ったのではと考えても不思議ではない。森友学園を巡る疑惑についても会計検査院の報告と安倍氏や財務省などの国会答弁の食い違いが139回もあることが衆院調査局の調べで判明した。
もう一つの焦点は招待者名簿の廃棄
もう一つの焦点は招待者名簿の廃棄で、これも真相究明が欠かせない。さらに官房長官として矢面に立ってきた菅義偉首相の責任論も問わねばならない。25日の参院予算委員会集中審議で、菅首相は共産党の田村智子氏が厳しく追及に対し、「必要な調査は既に行っている」とかわした。連日の記者会見で肝心の招待者名簿の取り扱いを説明してきたのが、スポークスマンだった菅首相だ。
招待者名簿を巡る疑問はいまだに多くが残されたままだ。預託商法を展開し、警視庁に詐欺容疑で逮捕された「ジャパンライフ」元会長は、桜を見る会の招待状を勧誘に使っていた疑いがある。ほかにも反社会勢力の参加が指摘され、名簿の存在が国会論戦の焦点になった。
鉄槌はおりるのか
名簿廃棄をめぐり、安倍氏は責任追及をかわしてきた。菅政権も「前政権の話だ」と言い逃れるかもしれない。ただ、これまでの説明に対する国民の見方が厳しくなりし、菅首相自身の責任が問われる可能性もある。
安倍氏も首相在任中に国会軽視の姿勢を続けた咎がいま指弾され始めている。あとは開き直り答弁と売り言葉に買い言葉の喧嘩ごしの姿勢に鉄槌がおりるのを待とう。