「総務省接待事件」自分の立場に無自覚な武田総務相にその資質はあるのか やっぱりあったNTTとの会食  独立性に疑問のある「検証委調査」にはあまり期待していない

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  野田聖子、高市早苗両元総務相ら政務3役とNTTとの会食の発覚時に「現役の総務相まで接待を受けていたら……」と前回(3月14日、「ウオッチドッグ21」両元総務相にも高額接待)、武田良太総務相の国会答弁の真実性に疑問を投げかける記事を書いたが、早速、〃文春砲〃はやってくれた。
 3月17日の文春オンラインは、武田総務相もNTTのトップ澤田純社長と「携帯電話値下げ問題」にもつながるNTTによるドコモのTOB(株式公開買い付け)のさなかの昨年11月11日に会食していたことを暴露した。文春オンラインによると、今回は、NTTの〃迎賓館〃ではなく、社長、会長を歴任したJR東海の〃ドン〃で名誉会長の葛西敬之氏がセットしたとされるパレスホテル東京の和食店だった。澤田氏には、経済誌週刊ダイヤモンド元副編集長からNTTドコモ入りした遠藤典子独立社外取締役が同行していた。遠藤氏は、慶應義塾大学の特任教授も兼ね、澤田氏の寵愛を受け、武田氏とも関係が深い人物だという

会食の4人は何となくズブズブの関係

 「独立社外取締役」は、会社法によると、社外取締役の中で企業の内部の者から一定の独立性を有している取締役のことである。いわゆるコンプライアンス上の〃お目付役〃もその役回りのひとつだろう。総務相が「関係業者からの供応・接待を受けること」は国務大臣規範で禁じられているが、会食をセットしたとされるのが、「関係業者」に当たるNTTの澤田氏ではなく、葛西氏というのだから、 ワンクッションあり、大臣規範違反に当たるかは確かに微妙だ。結果としてみれば、当事者たちが批判されることを意図していたかはともかく、会食が明らかになった場合、「逃げ」が可能な、なかなか、よく考えられた会食であるというほかはない。

 葛西氏は安倍晋三前首相の応援団で、もちろん、菅義偉首相とも昵懇の間柄だ。遠藤氏は昨年1月、IR事業者の規制監督を担うカジノ管理委員会委員に抜擢されており、これを所管していたのが、当時内閣府特命担当大臣の武田氏だった。また、JR東海は3月17日、4人が会食した事実を認めたが、その会合の趣旨は「宇宙政策の意見交換だった」と説明している。なるほど、葛西氏と遠藤氏は政府の宇宙政策関連の有識者委員会のメンバーだったので、この説明は一応理解できる。しかし、JR東海は、肝心な武田総務相と澤田氏がなぜ同席していたかは「差し控える」とした(朝日新聞18日付朝刊)。これらの事実をみると、失礼ながら、4人は、何となく、ズブズブの関係があったように見えてしまう。誰がみても、とても、納得できる説明とはいえない。

“ご飯論法”ではぐらかした9日間の総務相の責任は重大

 武田総務相がNTTから接待を受けたことがあるかが問題になったのは、3月10日の 参院予算委からだ。新聞報道などによると、この日、武田氏は立憲民主党の白真勲氏から「NTTから接待を受けたことがあるか」と問われた。武田氏は「政治家なので、個別の案件について答えは差し控えたい。国民が疑念を抱くような会食、会合に応じたことはない」と答弁。重ねて白氏が「会食したかどうか」を尋ねても、同様の答弁を繰り返し、野党側が抗議して結局、この日は散会した。

 武田氏の答弁は安倍政権で問題になった一種の「ご飯論法」ではないか。「朝ご飯は食べたか」という質問を受けた際、「ご飯」を故意に狭い意味にとらえ、(パンを食べたにもかかわらず)「ご飯(白米)は食べていない」と答えるように、質問側の意図をあえて曲解し、論点をずらし回答をはぐらかす手法である。上西充子法政大教授のツイッターへの投稿がきっかけになって話題となった。

 武田氏の答弁は、NTTと会食したかどうかは明らかにしないで、「国民が疑念を抱くような会食、会合に応じたことはない」と繰り返す論法だ。15日の参院予算委でも武田氏は、NTTの澤田社長と会食があるかを聞かれ「国民の疑念を招くような会食に応じたことはない」と7回繰り返した(東京新聞16日付朝刊)。この日、参考人として出席した澤田社長も武田氏に合わせるように「上場企業の社長として個別の会食については控える」と答弁回避を繰り返した。さらに、菅首相らとの会食についても「個別の会食については控えさせてほしい」と述べた。

 武田氏は文春オンラインが出た17日になっても重ねて「答弁を控える」と述べ、18日の衆院総務委員会でNTTの澤田氏らとの会食をやっと認めた。最初に国会で野党からNTTとの会食の有無を問われて9日間がたっていた。「国民の疑念を招くような会食に応じたことはない」との答弁は「少なくとも計25回」(21日、TBS「サンデーモーニング」)も繰り返されたことになる。何とか、菅首相まで会食疑惑がいかないように担当大臣として野党からの疑惑追及を引き受けた形だが、このことに何か意味があったのか。結局、大臣職を守らんがための保身にしかみえない。「疑念を招く」かどうかは、国民が判断することで、何の疑念もない会食ならば、堂々と明らかにすれば済むはずだ。やはり、何か「国民の疑惑を招く」ことがあったのではないかと、勘ぐりたくなる。

 麻生太郎副総理兼財務相が18日の参院予算委で、武田氏と野党との国会審議での応酬について「質問も答弁も一言一句変わらず同じだ。テレビで見ている人は『何やってんだろうね、ここ(国会)は』ということになりはしないかと思って聞いていた」と“麻生節”で苦言を呈した、と産経新聞が報じた。産経らしい書きぶりではあるが、麻生氏は武田氏と元々、同じ福岡県選出の国会議員として仲が悪く「何やってんだ」は野党ではなく、むしろ、武田氏に向けられたものではないか、と指摘する報道もある。

 NTTとの会食の有無を聞くのは野党としては当然のことである。武田氏が、国会での貴重な審議期間をむざむざと浪費させた責任は重い。武田氏には、放送事業会社「東北新社」の外資規制違反をめぐる16日の国会審議で、鈴木信也総務省電波部長に「記憶がない(と言え)」と指示した疑いも持たれている。18日の衆院総務委で「『記憶がない』という言葉をめぐってやりとりが続いたため、口に出たかもしれない」と釈明。「答弁を指示する意図は全くなかった」と答えている。武田氏には、この問題を含めて今回の「総務省接待問題」の責任者、また「通信行政」の責任者として、あまりにも無自覚な態度にあきれるとともに、大臣としてはたしてその資質があるのかを改めて問いたい。

武田氏の弁明も、NTTコメントも真実か

 武田氏は18日の衆院総務委員会で、昨年11月11日のNTTとの会食について以下のように弁明した。(東京新聞19日付朝刊などによる)

 <JR東海の葛西氏から声をかけられ会合に出席した。会場に行った段階で澤田氏がいたと分かった。食事は注文せず、ビール2,3杯の費用として1万円を支払った。出席者から特定の許認可に関する要望、依頼を受けたことはなく、国務大臣規範に抵触する会食ではなかった>

    NTTは同日以下のようなコメントを出した。

 <澤田氏の同席を認める。NTTが武田氏をお誘いしたのではなく、会食の席で何らかの要請を行った事実もない。会食は民間の方が宇宙関連の議論をするため企画されたもの> 

    NTTのコメントのいうように「宇宙関連の議論」ならば、政府の有識者委員会のメンバーなのだから、葛西氏と遠藤氏がいるのは分かる。しかし、武田氏や澤田氏がこの場になぜいるのか。なぜ、葛西氏は武田氏や澤田氏に声をかけたのか。この2つの「なぜ」には答えていない。武田氏のいうように、武田氏は大臣として忙しい身なので、「ビール1,2杯」で中座することもあるのかもしれない。しかし、相手は、安倍、菅両政権の背後にいて政界をも動かすといわれる財界の大物である葛西氏である。武田氏が1万円を払って、それを受け取ることなどありうるのだろうか。9日間も粘りに粘った澤田氏との会食を隠し続けた武田氏の真の意図は何だったのか。武田氏の弁明もNTTのコメントもまともに信じられる人がいるのだろうか。

   前回記事と繰り返しになるが、昨年11月11日という4人の会食当時は、NTTがドコモの完全子会社化に向けたTOB(株式公開買い付け)実施中で、菅首相が目玉政策として推進する携帯電話料金値下げをめぐるドコモの対応が注目されていた時期である。この6日後の11月17日、約4.3兆円でTOBは成立し、12月3日には月額2980円の格安新料金プラン「ahamo (アハモ)」を発表。12月25日、NTTグループ随一の稼ぎ頭ドコモが上場廃止となり、NTTの完全子会社化されている。        

   週刊文春3月25日号で、、2007年までNTT社長をつとめた和田紀夫氏は、東北新社の二宮清隆社長は引責辞任したが、澤田社長の今後(の身の振り方)を記者から聞かれて以下のように答えている。

 <こっちは大所高所からGAFAにどう対抗するとか、携帯料金値下げをどうするという話。東北新社は免許の話。何でグシャグシャにして議論するのか。現象は似ていても次元が違います>

   1985年に日本電信電話公社が民営化し、現在も政府が30%の株式を保有する特殊会社と、連結でも従業員1600人の東北新社とはそのスケールは全く異なることは事実である。和田元社長のこの言葉から垣間見えるのは、稼ぎ頭のドコモを子会社にすることによって、NTTはスケールメリットを生かすことができ、「携帯料金値下げ」を競争各社に先んじて打ち出すことにより、菅政権の関心を得ることができるというしたたかな経営戦略があることがうかがわれる。同じ国家公務員倫理法や大臣規範違反でも、その質は全然違い、NTTとしては、1企業の利益にとどまらず、もっと大きな国家戦略を担っているといいたいのだろう。しかし、刑事罰を問われるかどうかは別にして、「行政をゆがめた」という点では、全く同じではないのか。元公社で現在も国が株を所有している意味では、NTTの方が問題は大きいともいえる。

外資規制で、東北新社と総務省が報告の有無で対立

  菅首相の長男が接待に登場した東北新社の疑惑については、接待時期から見て衛星放送の許認可に加え、「外国資本規制違反問題」が浮上してきた。東北新社の中島信也社長は15日の参院予算委に参考人として初めて出席した。「外国資本規制違反問題」というのは、公共性の高い電波を利用するため、放送法は放送事業者について、外国株主の議決権を2割未満とする規制を設けている。放送業者はこの規制を常に留意する必要がある。ところが、中島社長は、15日の朝日新聞デジタルなどによると、東北新社が2017年8月9日ごろ、外資規制違反を認識し、総務省側(情報流通行政局総務課長)と面談して報告した、と説明。さらに、違法状態を解消するために、子会社に事業を承継する案を示したことを明らかにした。これに対して、総務省側は「面談そのものや報告を受けた覚えはない」と両者の主張は真っ向から食い違っている。

  この問題でも、17年8月9日ごろ、総務省を訪ねた東北新社の元役員が担当課長ではなくて、なぜ筆頭課長の総務課長と面談したのか。東北新社側は担当課長が休暇中だった、としているが、総務省側は休暇中ではなかった、とするなど細部で双方の主張は対立している。これに武田総務相の「記憶がない(と言え)」問題が加わってグチャグチャな状態となっている。どちらにしろ、総務省側はこの問題では「記憶にない」を連発、東北新社の外資規制違反は意図的に見逃された可能性も出ている。このときの総務課長の上司で情報流通行政局長は内閣広報官だったのは山田真貴子氏だった。

本当に第三者による「検証委員会」なのか

  武田総務相は、当初、総務副大臣をトップとする「検証委員会」を考えていたが、野党の「独立性・中立性がない」などの批判を受けて、渋々、副大臣がトップではない、弁護士、学者らの「情報通信行政検証委員会」を立ち上げ、3月17日に初会合が開かれた。「検証委」の座長は吉野弦太弁護士。2000年に検事任官。07年、訟務検事として国側の訴訟代理人をつとめた。12年、東京地検特捜部、13年、証券取引等監視委員会、16年に弁護士登録。プロフィールには、混合診療訴訟控訴審、上告審の国側代理人、医療品ネット販売禁止違憲訴訟1審の国側代理人や第三者調査委員会委員として三菱自動車燃費不正問題で不祥事調査、大手建設会社の談合事件の社内調査などを挙げている。

  委員としては他に①原田久・立教大学法学部教授(行政学)。11年度から人事院・国家公務員試験採用総合職試験専門委員など政府や自治体の委員のほか、15年度から総務省の独立行政法人評価制度委員会委員・評価部会長代理を務める②鹿喰(ししくい)善明・明治大学総合数理学部専任教授。「マルチメディア」などの専門家③横田響子・株式会社コラボラボ社長。リクルート出身で13年に内閣府の女性のチャレンジ賞受賞。女性社長を応援する企画に注力しているーいずれもホームページなどによる。

 吉野座長は東京地検特捜部や証券取引等監視委員会勤務の経験もあり、三菱自動車の燃費不正問題で第三者委員を務めるなどコンプライアンスの専門家だ。他の委員も放送政策や放送行政に詳しい外部有識者で構成されており、外見上、一応、その「独立性」はクリアされているように見える。ただ、吉野氏は総務省のNTTなどの接待の有無を調べる調査チームにも加わり、調査手法の助言やヒアリングの同席もしている(朝日新聞18日付朝刊)。要するに、吉野氏は総務省の内部調査に加わっていた。座長との兼務について吉野氏は「両者を連携させて適切な検証ができるようにしたい」としている。

検証委の「独立性」が問われている

 「検証委員会」を武田氏は「第三者」と強調することがあり、NHKなどメディアの一部もこの委員会を「第三者委員会」と報道するケースが見受けられる。「検証委員会」は本当に「第三者委員会」なのか。この問題についてのこれまでの総務省による調査は決して十分なものとはいえず、問題の本質はほとんどが明らかになっていない。このような中で、不十分な「内部調査」に加わっていた弁護士が座長となり、かつ「両者を連携させる」などということは、調査委員会の独立性に疑問を抱かせないか。

 日弁連の第三者委員会ガイドラインを解説した「企業不祥事における第三者委員会ガイドラインの解説」(日弁連弁護士業務改革委員会、商事法務)によると、「内部調査と本ガイドラインによる第三者委員会が根本的に違うのは、その実質的な主体である。企業等(今回は総務省)の不祥事について、事実調査を企業等(総務省)が自らの手で行うのが内部調査であり、それを完全に外部の第三者にゆだねるのが本ガイドラインによる『第三者委員会』なのである」とある。

 吉野氏の「総務省内部調査と検証委の連携」であるならば、それは独立性のある「第三者委員会」であるのか疑問である。まして、総務省や一部メディアが委員会の独立性を強調して「検証委」を「第三者委員会」と強調することには大いに疑問がある。

  検証委では、今後、総務省への東北新社やNTTの接待と政策との関係。特に東北新社では「外資規制違反の総務省による意図的な見逃しはなかったのか」、また、NTTについては菅政権の目玉政策「携帯電話料金値下げ」とNTTによるドコモ完全子会社化との関係について、ヒアリングを基にした事実認定や原因分析、再発防止策が報告書の形でまとめられ公開される予定だ。

 ただ、パソコンやスマホなどのデータを電子的に解析する「デジタルフォレンジック調査」までやるのか不明である。次は、ヒアリングの範囲をどうするのか。官僚については144人を事情聴取するとしている。ヒアリングは総務省の担当官僚や東北新社、NTT関係者だけでなく、歴代の総務省の政務3役や菅首相からもきちんと事情を聴くべきではないか。(おそらく菅首相のヒアリングはしないと思う)。すでに辞職したキーパーソン、山田真貴子氏や谷脇康彦氏、そして、これもしない可能性が高いが、菅正剛氏からもヒアリングすることが必要なのはいうまでもない。

   さらに、ヒアリングには、総務官僚も手伝うのか、調査担当の弁護士はどうするのか。報告書は誰が起案し、誰が書くのか。統計不正問題では、厚労省の官僚が報告書の一部を執筆していた。日弁連のガイドラインでは、このほか、調査で判明した事実とその評価を、(総務省にとって)不利となる場合であっても調査報告書に記載することや報告書を提出する前にその全部または一部を(総務省に)開示しないことなど、委員会の独立性・中立性を担保するための厳しい基準を定めている。総務省は、検証委員会委員とこれらのことについて、そもそも話し合いをしたのか、また結果として、どのような形となったのか。いずれも、まだ国民の前に明らかにされていない。

 最終的にいろいろ調べたが「行政をゆがめた事実は見つからなかった」との結論では、国民が納得するはずもない。最終報告書をきちんと読まなければ、分からないが、(これもすべてが開示されるのかも不明だが、)正直言って、独立性に疑問のあるこの検証委での調査には、あまり期待していない。