「ジャニーズ会見NGリスト問題(下)」 NHKのスクープで大きく変わった局面 事務所側はリスト作成に関与せずと全面的に反論 お粗末で無責任な対応 メディアの動向見ている読者や視聴者

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 NHKが10月4日午後7時のニュースで、2日の記者会見で特定の記者を質問させないようにする「指名NGリスト」が作られていたことをスクープ報道し、局面が大きく変わった。NHKのカメラは、会見会場でリストを持ち歩く運営スタッフの姿をとらえていた。この後、ジャニーズ事務所がリストの存在を認めるコメントを出したため、民放もその日のうちにこの事実を報道、翌5日付朝刊では新聞各社も追いかけた。5日以降、テレビの情報番組も連日、大きく取り上げることになる。

責任回避と自覚の足りなさ

 これに対する、ジャニーズ事務所の当初の対応はお粗末だったと言われても仕方がないものだった。事態打開のためにただちに記者会見し、説明すべきだった。ジャニーズ側は結局、5日昼過ぎ、やっと、記者会見の運営を請け負った米国の外資系コンサル会社「FTIコンサルティング」がリストを作成したことを認め、謝罪。「会見の円滑な運営準備のために作ったが、ジャニーズ事務所はリスト作りに一切関与していない」との見解を出した。(TBS NEWS DIG)。

 これに関して、ジャニーズ側は「(コンサル会社を)雇った責任があるといわれれば、その通りです」とコメント。いかにも「コンサル会社が悪かった」との言いっぷりに無責任さが現れていたと、私は感じた。何度も言うが、例え、コンサル会社が「記者NGリスト」を無断で作ったとしても、その責任は記者会見の運営を依頼したジャニーズ事務所にある。事務所はその責任を回避しようとするだけで、その自覚が足りない。

なぜか大きく変わった文言

 さらに、ジャニーズ事務所は同日、「弊社記者会見に関する一部報道について」との見解をホームページにアップした。そこには①事務所は、FTIと会見前々日の9月30日に打ち合わせをし、その時にFTIがメディアのリスト(後に、これを「写真入りリストは別」と説明)を持参。そこに「NG」という文字があった②新会社の副社長に決まった井ノ原快彦(よしひこ)氏が「これどういう意味ですか?絶対当てないとダメですよ」といった③これに対してFTIは「では当てるようにします」と答えたーなどと書かれていた。

 その前の事務所の説明ではFTI側が「では前半ではなく後半で当てるようにします」と説明していた。なぜか、文言が大きく変わった。事務所側にとって、これではつじつまが合わなくなると考えたとしか考えられない。

「リストに沿っていない」と司会の元NHKアナ

 沈黙を続けていた司会の元NHKアナウンサー、松本和也氏は6日、ようやく、コメントを発表した。松本氏は「NHK紅白歌合戦」や「NHKのど自慢」で司会をつとめ、2016年にNHKを退職している。NHK報道によると、松本氏は「NGリスト」が手元にあったことを認め、「会見の開始前に(朝日報道では30分前)顔写真付きリストをスタッフから渡され、記者などが座っている場所を伝えられたが、リストはないものとして進行し、指名はリストに沿って行っていない」と弁明している。

 松本氏は会見で会場から上がった一部記者の抗議の声に「フェアです」「きちんと全体を見ていますから」などと発言。途中で「(記者の)顔をだんだん覚えられなくなった」ともつぶやいている。松本氏は「顔写真付きNGリスト」を見ているので、残念ながら、松本氏は発覚から2日たってからコメント発表しており、正直に言っているのかもしれないが、このコメントは苦しい言い訳に聞こえてしまう。

NGリストを実名報道の写真週刊誌

  NHKに続いて今度は写真週刊誌「FRIDAY」(講談社発行)デジタル版が5日、「指名NGリスト」と「指名候補者リスト」の画像写真とリストの内容、会見での座席表を報じた。「NGリスト」は顔写真付きで実名が書かれていた。それによると、①Arc Times編集長の元朝日新聞記者、尾形聡彦氏②Arc Times望月衣塑子氏(東京新聞記者)③「一月万冊」本間龍氏(元博報堂社員、ノンフィクション作家)④「一月万冊」佐藤章氏(元朝日新聞記者)⑤「TRICK FISH」松谷創一郎氏(ジャーナリスト)⑥フリージャーナリスト、鈴木エイト氏ーの6人。

 「指名候補者リスト」の方には、実名は①TBS藤森祥平アナウンサー②芸能リポーター、駒井千佳子氏の2人と会社名と匿名でイニシャルだけの①読売新聞東京本社T記者②日本経済新聞S記者③日経ビジネスO記者④東洋経済新報Y記者⑤ロイター通信S記者⑥ニューヨークタイムズU記者⑦同社M記者ーの7人、実名、匿名合わせて計9人が掲載されていた。

 司会の松本氏から指名された記者は24人 。その内訳(スポニチ3日付朝刊に載った表を参考にした)をみると、いわゆる新聞、通信、テレビの大手メディアは、TBS、フジテレビと日経のみ。朝日新聞6日付朝刊「司会者手元にNGリスト」によると、「指名候補」のうち、2人は質疑応答の開始から2番目(芸能リポーター、駒井千佳子氏)と4番目(TBS藤森祥平アナ)に指名を受け、一番目も候補リストに社名があった社(東洋経済新報)の記者だった。

「リスト入りは光栄」と鈴木エイト氏

 一方、「NG」の記者(元朝日新聞の佐藤章氏)が一人、6番目で指名されたが、他の5人は指名されなかった。また、NHKによると、司会の松本氏は最前列で挙手を続けていた望月氏と尾形氏を指名しなかったことについて「それぞれの記者が指名されなくても、大声で質問し、事務所側が答えたのを確認したため『1社1問』のルールに沿って2度と指名はしないことにした(井ノ原氏の尾形氏に対する「さっき質問されたのを聞いちゃったんですけれど・・・」を指すとみられる)」としている。 

 朝日記事の引用部分の実名は筆者が調べて加えたものである。私のカウントでは、リストの「指名候補」で実際に司会者に当てられたのは、9人のうちの5人。ただ、実際の会見では、当てられた記者は名字だけを名乗っており、イニシャルだけで判断した数字である。実際には、社名、名字、イニシャルだけでは照合できないことをお断りしておく。「NGリスト」に入った鈴木エイト氏は「リストに入れてもらえて光栄」とし、望月衣塑子氏は「大変不愉快です。やはり、茶番、八百長会見でした」とSNSでコメントした。

厳しい質問をする記者も当てられた

 2日の会見の動画を改めてメモを取りながら視聴した。ほぼ朝日の分析の通りで、質疑応答の内容には、ジャニーズ事務所と親しいリポーターやジャニーズファンを名乗る人からの「ファンの誹謗中傷はやめて」などジャニーズ側に都合のいい質問も見られたが、被害補償「救済委員会」の弁護士メンバーに事務所の元顧問弁護士が入っていることと「委員会の独立性」に問題はないかなどと、中には鋭い質問もあったことは公平性という意味でも指摘しておきたい。

 要するに、ジャニーズ事務所にとって厳しい質問をする記者も当てられていた。しかし、この会見について、参加した「ビデオニュース・ドットコム」代表の神保哲夫氏は「聞くべき大事な質問がほとんど聞かれず、散漫なまま終わった」(朝日新聞6日付朝刊)と手厳しい評価をしている。

 望月氏は会見終了後、会見が打ち切られたことに抗議の声を上げながら「白波瀬傑(しらはせすぐる)さんの問題」をただしたが、東山氏は「白波瀬さんに説明責任はあります」と前回会見と同様の回答を繰り返した。

キーパーソンは欠席

 白波瀬氏は事務所が設置した特別調査委員会の報告書の中で「ジャニー氏に対する監視・監督義務を全く果たさず、性加害の継続を許す要因になった」と指摘された「事務所の過去を最も知るはずの人物」だ。ジャニーズ事務所の広報担当をつとめ、副社長として絶対的な権力を握るキーパーソンでもあった。事務所によると、現在は「嘱託」だとしているが、2回の記者会見には欠席している。実務の最高責任者だったのだから、本来は、当然、会見に出るべき人物であると思う。

ジャニーズ側が反論公開

 一方、ジャニーズ事務所は10日、「NGリストの外部流出事案に関する事実調査について」との反論をホームページで公開した。チーフ・コンプライアンス・オフィサーの山田将之弁護士が行った関係者のヒアリング結果や関係資料の確認結果などに基づいてとりまとめたもので、添付資料として①記者会見の進行台本②写真なしの「指名NGリスト」と「指名候補記者リスト」と写真ありのリスト。いずれも実名は黒塗り、「写真あり」は写真も黒塗り③「NGリスト」にあった尾形聡彦(としひこ)氏、望月衣塑子氏、佐藤章氏の事務所側との会見でのやりとりを1問1答の形でまとめた文書ーが添付されている。

 公開された事務所文書は以下の通りだ。

①記者会見は、9月7日の前回会見後、主要なテレビ局や新聞社からFTIに「特定の記者がマイクを長く握って説明や意見表明に時間を割いてしまい、したい質問ができなかった」との声が寄せられた。事務所としても、次回会見は、会見を秩序だって進行させ、再発防止策についての説明時間を十分に確保したい意向だった。2時間に制限したのは会場の都合だった。(主要なテレビ局、新聞社とはどこか、何社からかなど不明)。

②会見前々日の9月30日、事務所で会見に向けた想定問答の検討会を開いた。参加者はジャニーズ側は東山氏、井ノ原氏、代表取締役の藤島ジュリー景子氏、顧問弁護士の木目田裕弁護士、山田弁護士、危機管理チームや広報担当者ら(白波瀬氏はいたのか)。コンサルのFTI側は「野尻氏」(どのような役職か書いていない)、司会の松本氏、そのほか担当者ら4人。FTI側はこの打ち合わせの冒頭、約30分だけ参加した。FTI側は、会見の運営を担当していたが、「想定問答」などの会見の中身には一切関与していなかった(このようなことがあり得るのか)。FTI側が「進行台本」を配布して当日の段取りを説明。これに関し複数の打ち合わせ参加者から「不規則発言を繰り返す記者、司会者の指示に従わない記者についてはどう対応するのか」という質問があった(その答えが書かれていない)。FTIはこれに対して「写真なしの記者リスト」を一部の記者に対して配布。枚数が少なかったので、西村あさひの弁護士や山田弁護士はこのリストを見ていない(これも不自然)。しかし、「NG」について「あくまで『要注意』であり、発言順序を留意する必要があるという趣旨だった」との説明があり、「NGリスト」について、井ノ原氏や弁護士らから、「そうであっても答えるべきである」という指摘が続き「NG」とされている記者についても時間の許す限りきちんと指名すべきだという点について方針が決まった。

③「写真入りリスト」は会見当日の午前にFTIにより作成された。これを司会者の松本氏に渡し、FTI内のLINEグループで共有された。しかし、FTIの野尻氏は3日深夜、マスコミの対応を受けてから初めて知った(部下が勝手にやったということだろうか。リーダーが知らないとは考えにくい)。「写真ありリスト」はジャニーズ側の了解をとらないまま、FTI担当者が独断で作成して共有していたもので、ジャニーズ事務所や弁護士はこれには一切、関与していない。その存在を知ったのは、3日夜から4日未明にマスコミから問い合わせを受けた時だ。

④「写真入りリスト」について「NG」とされた記者も「指名候補記者」とされた候補もいずれも約5割が指名されている(「NG記者」については、司会者に当てられた佐藤氏のほかに、尾形氏や望月氏もカウントされている。司会者に当てられていない記者まで含めている)。「NG」とされた記者については、不規則発言を伴う質問を含めて、事務所側は複数の質問に回答している。

 以上だが、括弧の部分で私が示したように疑問は尽きない。

文書からうかがえる〃記者排除〃の意図

 このジャニーズ側の「反論」では、「写真入りリスト」は運営を請け負ったFTI側がジャニーズ側の了承を得ないまま勝手に司会者に渡し、LINE共有していたもので、事務所は一切関与していない、と主張している。従来の主張を肉付けした内容だ。ただ、「NG」とされた尾形氏や望月氏の質問やジャニーズ側の回答は動画再生で見ても、マイクを通していないためよく聞こえない。だから、これを正式に質問したとカウントするのには大いに疑問がある。

 それに「NGリスト」にあり、司会者に指名されて質問した佐藤氏を尾形氏や望月氏と一緒に添付資料に加えるなど、公平さに欠けている。また、当てられないことについて「フェアではない」と抗議した尾形氏について「不規則発言」との表現で決めつけており、逆にこの文書からは、尾形氏ら「NGリスト」の記者を排除したい意図も垣間見えてくる。

権力にすり寄る姿勢とメディアの分断

 このほか、この文書には、「1問1答」に限った追加質問ができないことへの言及もない。記者会見を開いて、記者側ときちんと対峙せず、HPだけで反論するのは、以前のトップが重大な性加害を指摘された加害企業としてフェアなやり方ではない。

 ともかくも、ジャニーズ側が「2時間、1社1問で」という‘’ルール‘’を記者側に一方的に押し付け、さらに、「NGリスト」まで作って都合の悪い記者を排除しようとしていた疑いは残る。事務所側はあくまで会見運営を依頼したコンサル会社のせいにしているが、実際の司会者の会見での様子をみると、リストと全く無関係だったとはとても思えない。

 繰り返しになるが、こういうことが起きるのも、メディアが権力者を監視するのではなく、すり寄る姿勢が権力者から見透かされているからではないか。また、記者側からの「拍手」に象徴されるように、「メディアの分断」が問題をややこしくしていないか。

「記者会見の在り方」というメディアの根本的問題

 例え、記者間でその方向性が異なっていても、真相究明のためには、メディアは少なくとも会見の在り方では一致して当たってほしい。「記者会見の在り方」というメディアの抱える根本的な問題にもかかわらず、NHK報道以降、新聞報道がいまひとつ、テレビの情報番組に比べて、この問題であまり元気を感じられないのはなぜだろうか。読者や視聴者はメディアの行動をみている。
                                (了)