コラム「番犬録」第1回 老犬はほえる 「何か書かずにいられない」 参院選を挟んだこの1カ月の出来事-排外主義打ち出した参政党の躍進 石破首相の戦後80年談話問題 大河原化工機冤罪で警視庁報告書 闘う二人の妻 青木理氏のテレビ出演復帰 そしてファシズム性強めるトランプ大統領

投稿者:

 このところ、年を取ったせいか目も弱り、体力的に長めの文章を書くのがつらくなってきた。このため、今年4月の「フジテレビ問題の第三者委員会報告書」の記事以来、約4カ月間、「ウオッチドッグ」に記事を出せなかった。そこで長めの記事の代わりにフェイスブックに投稿した時事問題を中心にした短いコラム的な記事を書き、まとめたらどうだろうと考えた。その名も権力監視の「ウオッチドッグ」にちなんで「番犬録」とした。

 とりあえず、参院選を挟んだ1カ月分の原稿をまとめてみた。今回が第1回。取り上げたテーマはやはり参院選で排外主義を強く打ち出し「外国人問題」を主なテーマにして、「参政党躍進」の関係する記事が圧倒的に多い。これに加えて「石破首相と戦後80年談話」「大川原化加工機冤罪の警視庁報告書」「兵庫県の内部告発文書問題」「失言でテレビ出演自粛の青木氏の『サンデーモーニング番組の復帰』」を取り上げた。フェイスブック原稿は、そのままのところもあるが、一部は加筆し手直しした。もうすぐ80歳になるのでいつまで続けられるかも分からない。また、〃老犬〃なので吠える力も弱いかもしれない。そこはご容赦を。

 今、米国の「帝王」トランプ大統領により、民主主義や人権が破壊され、これに伴い、世界で物事が激変している。日本でも、どんなにあがいたところで、その影響を受けざるを得ない。その中でジャーナリストの習性か、何か書かずにはいられない。そういう心境で「番犬録」を書くことにした。取り上げたテーマについて、これまでの経緯や背景などは、どうするか。書きながら考えたい。

▼まっとうな政党に投票を

 関税に目を奪われている間に、ファシズム性を強めるトランプ政権により、アメリカの民主主義が急速に壊されていく。7月11日付の朝日新聞朝刊に掲載の津山恵子氏の「メディア私評」。CBSなど米国を代表するメディアが訴訟で和解という形でトランプに屈服し、学問の自由や暴力的な移民の強制送還が続く。

 日本でも「排外主義」を堂々と主張する政党が支持率をグングン上げている。これに抵抗するすべはまっとうな政党に投票するしかない。日本でトランプ化がすすめば、その未来は暗い。7月20日は、その分岐点になるかもしれない。(7月11日)

▼テレビ局も続け

 今朝のテレビ朝日のモーニングショー、排外主義の問題点を真正面から取り上げたNHKはじめ各局も続いてほしい。(7月14日)

▼「参政党推し」の理由 「何かしてくれそう」

 いまTBSのニュースで60代の女性が参政党を支持する理由として「ちょっと過激だが、何かしてくれそうな気がする」と話していた。熱狂的なファンは別にして、これが爆発的に増えている「参政党推し」の原因なのかもしれない。

 だとすると、「排外主義」だ「ファシズムだ」といくら騒いでも、残念ながらこういう人たちの心には刺さらない。週刊文春やユーチューブ(Youtube)では、参政党を離党した人々による神谷氏の金銭スキャンダルやパワハラ、リーダーたちの権力闘争の末の〃独裁〃が暴かれ始めている。この効果が少しは出ればいいが、あまり期待できない。参政党に投票することだけはやめてほしい。(7月18日)

▼「石破辞めるな」の世論が期待するものは

 どんな形であれ、石破茂さんは、政治家としての矜持をかけた安倍談話とは異なる「戦後80年談話」を出すべきだ。「石破辞めるな」の不思議な世論が期待しているのはそこだ。(7月29日)

▼「大変なことになる」嫌な予感 参政党をなめてはいけない

 〃上から目線〃でも〃下から目線〃でも何でもいいから、参政党にレッテル貼りではなく、ファクトで徹底的に批判していかないと、次期総選挙では今回参院選の比例760万票という得票率や参院選後の各マスメディアの政党支持率(自民党続くものまで出た)からいって大変なことになる嫌な予感がする。立憲民主党などリベラル系野党は危機感がなさすぎないか。これが私の思い込みにすぎないのであればいいが。参政党をなめてはいけない。

▼「核兵器保有」を認める参政党

 今日は80年を迎えた広島原爆の日。被爆者を中心とした「核廃絶」の声に対抗するかのように「核保有」を認めるとんでもない政党が今回の参院選で躍進してしまった。毎日新聞によると、参院選の当選者125人の政策ごとの賛否を分析したところ、「核兵器を保有すべきだ」と8人が回答。このうち6人が参政党だった。(1人が自民党、もう1人が日本保守党)。また「核共有」にも6人が賛成。同党の参院議員15人のうち、神谷代表を入れて13人が「核保有」か「核共有」に賛成したことになる。

 前回2022年の参院選では、「核保有容認」は参政党の神谷代表1人だった。参政党は東京選挙区で初当選した塩入清香議員がネット番組で「核武装が最も安上がり」と発言して被爆者から強い批判を浴びた。これはよく知られた事実なのだろうが、「原爆の日」に改めて確認しておきたい。ただなぜか、参政党は「核廃絶」にも言及している。(8月6日)

▼身内の検証には限界がある 大川原化工機冤罪事件検証報告書

  大川原化工機の冤罪事件で警視庁が8月7日、「公安部長ら幹部への報告が形骸化し、実質的な捜査指揮が不存在だった」とする検証報告書を公表。同日、最高検も報告書を出した。この事件では、逮捕など捜査の進め方そのものに反対する複数の現場の警部補たちがいたことが国賠訴訟で明らかになっている。警視庁での懲戒処分は2人、検察はゼロだった。民間でこんなことをしたら、幹部全員が辞職ものだ。冤罪に責任のある幹部を含む捜査官たちについて、「実名主義」が原則のはずの新聞の「匿名報道」が目立つ。これはいかがなものか。まさか、警視庁に記者たちが忖度したと言われても仕方がない。このようなことが、国民の「マス・メディア不信」を強めていく。

 「経済安保」を進める安倍政権下で起きた冤罪事件。警察官僚を重用した政権なので、安倍政権を忖度し、事件を無理にでっち上げようとしたのではないかーとの疑いは残る。警視総監や警察庁長官にも事件の進行などの報告は上がっていたはずだ。内閣官房にはどうだったのか。まだ報告書はきちんと読んでいないが、身内の検証では限界がある。検察や保釈を許さず容疑者にがんによる死者まで出してしまった裁判所を含めて「第三者委員会」を立ち上げるべきだ。(8月7日)

▼総理として、やりたいことやられたらどうですか

 オーイ、石破さん。ここまできたら、トランプ大統領との関税交渉は相手が必ずしも、信用できないので厄介なことは認めるが、いつ引きずり下ろされるかも分からないので、そろそろ、総理として、腹を固めて言いたいことややりたいことを思い切ってやられたらどうですかー。

 私は、自民党の最近の総理の中で〃防衛オタク〃ではあるが、正直どこか少しですが、「リベラル」のにおいがするあなたを認めないわけにはいきません。そこで、是非、あなたが、やってくれる可能性があるテーマとして ①選択的夫婦別姓の実現②パレスチナ国家の承認③本当は締約国会議への参加が良いのですが、無理だと思うので、核兵器禁止条約のオブザーバー参加-の三つ。そして、アジア太平洋戦争での日本の侵略を認め、将来の子や孫にその責任を負わせるのではなく、日本の負の歴史としてしっかりと学ばせる内容を含む「戦後80年談話」も忘れずにお願いしたい。

 閣議決定しないことを決めたのならば、「総理メッセージ」でもいい。「閣議決定」自体安倍晋三さんが、妻が私人であることまで連発したので、どうでもいい。もちろん、いずれのテーマも、米国や安倍派を中心とした自民党右翼の復古主義派の強い反対はあるだろうが、世論の多数は支持するはずだ。石破さんには、それができると信じたい。世論調査で自民党の支持率は下がるばかりだが、国民の石破支持が増えているのは、それが理由だと思うし、それが、石破さんが「続投」を言い続ける支えでしょう。違いますか。(8月7日)

▼参政党の記者会見の「事前登録制」 批判的記者排除が狙いか

  参政党の記者会見は事前登録制になるのか-。8月6日に参政党が一方的に報道各社に通知したそうだ。読売新聞オンラインによると、「党の記者会見やイベントで妨害や迷惑行為に当たる行為をした方は取材を断る場合がある」との「注意書き」への承諾を登録の条件としている。「他の政党でも、記者会見などに記者が参加する際には、名刺の提示や腕章の持参を求めたりしている例はあるが、いずれも記者会見での混乱を避けるためで、事前に党側が示した条件を受け入れなければ出席を認めないという政党はない」と指摘している、

 党に批判的な記事を書く神奈川新聞記者を会見に入れなかったことからも分かるように、参政党は党に批判的な記者を今後、排除する狙いではないのか。

 参院議員が党首の神谷宗弊氏ひとりから14人に増えるという躍進により、9億円を超える政党交付金をもらえるようになった参政党は公党である。政党交付金は当然、われわれの税金から支出される。参政党の記者会見「事前登録制」は「国民の知る権利」を脅かすだけではなく、「言論統制」につながらないか。

 参政党の「新日本憲法(構想案)」には「報道の自由」など基本的人権規定がごっそり落ちている(神谷代表は「国民主権」は当たり前なので盛り込まなかった、と弁明したが「違うだろう」)。マスメディアを中心とする記者クラブ記者やフリー記者はだんまりを続けるのではなく、一致結束して参政党にこのような「事前登録制」の撤回を求めるべきである。

 このような「報道の自由」の根本に関わる政党の暴挙を許してはならない。新聞協会や民放連も見解を出すなり声を上げてほしい。海外メディアからは「極右政党」と呼ばれる参政党に今、メディアがきちんとものをいわなければ、ズルズルと「いつかきた道」をたどることになりかねない。在京各紙を見たら、この問題を詳しく扱っていたのは読売新聞だった。(8月8日)

▼元兵庫県議の妻、立花孝志氏を告訴 覚悟の言葉、受け止めたい

 森友学園文書改ざん問題で夫が自死に追い込まれ、文書開示を求めて財務省と戦う赤木雅子さん。そして、兵庫県の内部告発文書問題でひどいデマや中傷にさらされて、やはり自死した竹内英明元県議の妻。この二人の妻たちの勇気ある行動に、私は尊敬の念を抱いている。お二人にとって、その力の源は、大切な愛する夫のその理不尽な死を「殺されたと同然」と考えておられるからだろう。心から応援したい。

 8月8日、竹内元県議の妻が、「夫の代わりに声を上げるのは私しかいない」と政治団体「NHK党」党首の立花孝志氏を兵庫県警に名誉毀損で刑事告訴したことを明らかにした。6月に告訴は受理されたという。

 竹内氏は、斎藤元彦知事らを内部告発した文書を調べた県議会百条委員会の委員。告訴状によると、立花氏は昨年11月、斎藤氏が議会から全員一致で不信任され、再選挙となった県知事選の街頭演説で、ウソの話で知事を陥れようとしたなどと発言。その翌月の泉大津市長選で「(竹内氏が)警察の取り調べを受けているのは間違いない」などと発言し、虚偽の事実を広めた。竹内氏には誹謗中傷が相次ぎ、昨年11月、議員辞職し、今年1月、自死した。自死の翌日には「(竹内氏が)明日逮捕される予定だった」などの動画を配信、死者の名誉を傷つけた、としている。

 配信後にこの動画を私も見たが、全く根拠の乏しい内容で「こんなことが許されていいのか」とその時、思った。こうした内容はSNSで拡散され、さすがに当時の県警本部長が県議会で「全くの事実無根」と強く否定するという異例の事態となった。さすがに、立花氏も一応、誤りは認め、謝罪はしたものの、人権上も、人間の尊厳をズタズタにして「死者をむち打つ」ひどいやり方だと、憤りを覚えたのは私だけではないだろう。

 「死者の名誉毀損」について、刑法学者は「虚偽の事実を故意に示したことの立証が必要」でそのハードルはかなり高いという。これに対して立花氏は「違法性が阻却されるだけの根拠を持って発言している」とした上で、竹内氏が百条委で斎藤知事を追及していたことに触れて「黒幕であると、誰でもそう思うじゃないですか」(神戸新聞)とコメントした。

 そもそもこの問題、斎藤知事が公益通報者保護法が禁じる〃内部告発者探し〃をして、告発者の元県民局長を自死に追いやったことにその核心があるのではないのか。竹内氏の妻の声明にある「故人に対する誹謗中傷は今現在もやみません。それは声を上げないことにはやむことはありません。表に出ることで再び批判にさらされる、攻撃されることを恐れる気持ちが、今も私の頭を支配しています」との覚悟の言葉は、斎藤知事を今も支持する人々を含め、重く受け止めるべきだ。竹内氏の死について、斎藤氏には直接の関係はないのかもしれないが、人間としてはどうなのか。

▼「失言」から10カ月ぶり 青木理氏がテレビ復帰

 残念ながらテレビでは、極端に露出が少なくなっている辛口コメンテーターの青木理氏が〃失言〃から10カ月ぶりに古巣に帰ってきた。8月10日午前8時からのTBS系番組「サンデーモーニング」。テレビを見ながら、メモを取っていたが、加齢により青木氏の早口に追いつけず、謝罪部分は日刊スポーツのWEB記事を引用する。キャスターの膳場貴子氏に約10カ月ぶりの番組出演となると紹介されると、以下のように、自分のかつての発言をあらためて頭を下げて謝罪した。

 「インターネット上の番組で特定の政党や支持者の方々を誹謗中傷したと受け取られても仕方ない発言をしてしまった。ネット上で強い批判をいただいた。私自身も不適切だと考えたので、その直後に謝罪をして撤回もしてきましたが、あらためてその発言は不適切だったという風に考えています。(自身の発言で)傷つかれた方、ご迷惑をかけた方々にお詫び申し上げます」

 青木氏は24年9月12日に配信されたユーチューブ「ポリタスTV」で、ジャーナリストの津田大介氏と対談。その際、津田氏が「人々はなぜ自民党に入れ続けるのか」という講演を予定している、と言ったところ、青木氏は「よくこんなテーマで。ひとことで終わりそうじゃない。『劣等民族』だからって」と発言。この失言にSNSで批判のコメントが相次いだ。その5日後、同じ番組で発言を謝罪し、撤回。その上で、地上波テレビ番組への出演を当面自粛するとしていた。

 確かに「劣等民族」という言葉は、ナチスを彷彿とさせる差別用語だと思う。どんな場合でも使ったらアウトである。自民党に投票する多くの人々を愚弄し、誹謗中傷するものでジャーナリストは絶対に使ってはいけない。その意味で、地上波への出演自粛は当然だった。青木氏がなぜこんな言葉を使ったのか今でも信じられない。

 青木氏はこの日の番組「サンデーモーニング」で日本人記者が現場に入れない中で、それに代わってガザで取材するパレスチナ人記者が飢えている現状について「異常な事態で許されることではない」と述べた。「大川原化工機冤罪事件」の警視庁や最高検の検証報告書や甘すぎる関係者処分や容疑者のがんがひどくなっているのに保釈を認めなかった裁判所を厳しく批判した。いずれも納得できる立派な「正論」で、〃青木ファン〃の心には響いたのではないか。

 青木氏は共同通信社会部の後輩で、06年に退社してフリーとなったが、権力に絶対こびない姿勢や発言を私はジャーナリストとして高く評価している。韓国に語学留学し、02年から06年までソウル特派員を務めた「韓国通」でもある。社会部で警視庁公安担当をやったこともあり、なぜか得意分野は警察や検察となっている。この10月で60歳になるというが、私が出会ったころも正義感の強い背の高いハンサムな青年だった。今回を機にテレビでの数少ない辛口コメンテーターとしての活躍を期待したい。(8月10日)