<戦後80年の首相談話>石破首相は歴史の教訓の語り部になれ 平和国家としての決意を新たに示し前進を 国際社会大きく揺らぐ中、重要な意味 アジア外交の関係拡大に

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 論語に「三十にして立つ。 四十にして惑わず。 五十にして天命を知る」とある。10年ごとの節目に、来し方行く末を顧みることの大事さを言ったものだ。国にとっても大事な戦後の節目に、歴史の教訓を思い起こし、平和国家として決意を新たに内外に示して、前進すことが欠かせない。

「戦争経験者がいなくなると怖い」

 石破茂首相にかねてから感心していたのは、政治の独占、暴走した歴史を検証することの大事さを指摘してきたことだ。首相の政治の師である田中角栄元首相から、「戦争を経験した人たちがこの国の中心からいなくなった時が怖いぞ」と聞いたことがある。子弟ともに共通する歴史観を持っていたというべきだろう。

 8月15日の終戦記念日に首相談話を出すかどうかをめぐって、参院選の大敗も絡んで自民党内に首相退陣論がくすぶっている。8日の自民党両院議員総会では裏金問題の関係議員の発言が目立ち、さながら政局含みの雰囲気だったらしい。

 その一方で、一部の政治家から歴史を歪めるような言説が飛び出している。西田昌司参院議員が沖縄戦のひめゆりの搭の展示説明を「歴史の書き換えだ」と批判し、参院選で善戦した参政党の神谷宗幣代表は賛同するという経緯があった。

「風化を防ぐ」

 立憲民主党の野田佳彦代表は先の衆院予算委員会で「歴史を忘れた発言が多すぎるので、あらためて見解を出すべきだ」と求めた。首相は具体的な内容や時期は示していないが、「ともかく風化を防ぐために戦争を起こさないための何らかの発出は必要だ」と応えている。

 戦後80年目の節目の大事さを考えると、首相談話は不可欠である。同党内の反石破派は何か出すことの必要性を認めていない。談話にも反対で、70年の安倍談話で十分という構えだ。一方、石破氏は閣議決定のいらない首相見解ぐらいは出したいとされる。

 首相談話は、当時の村山富市(50年)を皮切りに、小泉純一郎(60年)、安倍晋三(70年)の各首相が10年ごとに発表し、世界に発信されてきた。村山首相は社会党の委員長も兼務していたので、村山政権の談話づくりは議論も多く難航した。

中国、アジアにも目を向ける

 村山談話は「我が国は遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで、国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々にして多大の損害と苦痛を与えた」。 

 さらに「私は未来に過ちなからしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明する」となっている。

 このなかで村山氏は「侵略行為」「植民地支配」「国家の誤り」の三点を強く主張した。社会党は自民党と連立を組んだことで日米安保条約の容認、自衛隊の合憲を打ち出すなど、短期間の間に基本政策の大転換をせざるを得なかった。譲歩と妥協を重ねてきたことから、この時の党内の空気は連立離脱寸前だった。こうした状況を憂慮して自民党が歩み寄りをみせる。

 10年後の小泉談話でも、「植民地支配」「侵略」「痛切な反省」「おわび」など重要なキーワードは踏襲された。「植民地支配」、「侵略」については、日本自身が行った行為として明示している。ところが、さらに10年後の安倍談話になると、日本の行為という文脈では触れられず、いずれも一般論としての言及にとどまっている。村山談話によって、戦後50年にして、日本が自ら戦争責任について結着をつけようとした姿勢は評価されていいのではないか。

日米と日中、アジア

 「石破談話」は、日本の外交にとってもいま重要な意味を持つと思われる。「米国ファースト」のトランプ大統領のごり押しもあって、国際秩序が大きく揺らいでいる。トランプ外交に対して平和と安定のためどのような役割を担おうとしているのか、このタイミングで石破首相が発信することは重要なことだと思われる。

 またアジア外交を再構築するに当たって、戦争を二度と繰り返さないというメッセージは、アジアとの関係を広げることになるのではないか。また中国や台頭著しいアジア諸国に対して日本外交の理解を深めてもらうチャンスでもある。「日本はこれだけ真剣に反省しているのだから、中国も十分考えてアジア外交を展開してほしいという」という意味を込めたメッセージにも活用できるのではないか。

 先の戦争で日本人は310万人が亡くなった。国連の調査によると、アジア全体では2000万人が犠牲者となった。加害者は時がたてば記憶が薄れていくが、被害者の家族、親戚縁者にとっては、いつまでも消し難い重味を持ち続けるだろう。

 戦後80年の貴重な節目に当たって、石破首相は、首相談話は何があってもやり抜くという信念を披露して欲しいところだ。